第22話 懐かしい顔の新入生

3年前の自分を見ている様だ。

色んな部活やサークルの勧誘に目を丸くしている。

少し幼さの残る新入生が可愛い。


毎年入学式の日は同じ事を思う。



科によって入学式の時間や場所が違う。

私たちは3学年全員で2グループに分かれて交代で勧誘の活動をする事にした。



「アミちゃんその髪色定番にするの?」


ジャンケンで1月に別れた元彼のウソクと

同じグループになった。

色々と聞いてくる。


「もう、新しい色はしばらく控えた方が良いって。髪傷んじゃうから。」


「ふーん。」


「元映画監督が顧問をしてるサークルです!どう!?興味ない!?ビラ持って行って!いつでも来てね!」




「アミちゃん、まだ怒ってたりする?」


「へ?(苦笑)怒ってないよ。」


「ホント?」


「元映画監督のサークルなの!映画好き? なら勉強になるよ!興味があったら来てね!」




「私の方こそ…ごめんなさい。傷付けるつもりは無かったんだけど…。」


「いや、それは、もう良いんだ。」


「新入生に可愛い子が居たら良いね(笑)」


「あぁ(苦笑)そう、だね(笑)」



その時だった…



「キム・アミ先輩っ!」



後ろから、声を掛けられた。

全く聞き覚えの無い男性の声だった。



振り向くと、顔が無い。


予想した位置よりも遥か上に顔があった。

どこか懐かしい顔。

記憶の糸がスルスルと自動で手繰り寄せられる。



昔も背がもの凄く高くて、顔がすっごく小さかった。

女の子の様な可愛い顔と、長いまつ毛。

健康的な小麦色の肌と華奢な身体。



「あ、あれ?確か…コン…」


「うんうん!コン?(笑)」


「コン…ジェ、ジェ…。ごめんなさい!」


「コン・ジェヒョンだよ!(笑)」


「あぁ!ジェヒョン先輩!」


「アミちゃん!久しぶりだね(笑)」


「え?どうしたんですか?何しにここに?」


「俺、今日入学したんだ。」


「え?入学?」


「一昨年、交通事故にあってさ。早く走れなくなったんだ。だからバスケも大学も辞めちゃった。」


高校2年の時

私がユンと仲良くしていた頃

シオン先輩がキャプテンで、このジェヒョンが副キャプテンをしていた。

シオン先輩と一緒にソウル体育大学の推薦を貰って入学したのに、そう言えば12月の撮影の時に居なかった…。



「あ、あの…。なんて言ったら良いのか…。」


「あぁ、気にしないで良いよ。第2の人生をここで見つけるつもりだよ(笑)」


「そうなんですね…。あ、そうだ。私サークルに入っていて。 撮影のサークルなんですけど。元映画監督の教授のサークルなんです。良かったら来てくださいね!」


「アミちゃんが居るならここにしようかな(笑)」


「ぜひぜひ(笑)」


――――――――――――――――

19時30分


2月に同級生と集まったイタリアンのお店に来ている。

待ち合わせ時間から10分遅れて

シオンとヒョヨンがやってきた。



「ごめんね!お待たせ!」


「全然大丈夫ですよ!」



シオンはソウルからそう遠くない広域市にあるプロチームに入った。

契約金を使って探した部屋でヒョヨンと一緒に暮らすという。

今週中に引越しや必要な事を終わらせて来週からチームに合流する。


ヒョヨンはチームと繋がりのある大きな整形外科を紹介してもらい就職が決まった。


ソウルを離れる前にお祝いやお別れ会など諸々の飲み会をしようと集まった。



「順調そのものですね!」


「ね!?(笑)逆に大丈夫か?なんか怖いよ(笑)」


「大丈夫ですよ(笑)」


「で、ユン。誰がキャプテンになった?」


「僕がなりました。」


「早く言えよ(笑)みんなお前がなるってわかってたんだからさ(笑)」


「はいはい!乾杯!」


今日は数えきれないほどの乾杯をしている。



嬉しい楽しい話が出尽くして

誰もがネタを探し出した頃

迷っていたが話す事にした。



「今日、入学式にびっくりする人が来たんですよ。」


「誰?」


「コン・ジェヒョン先輩です。」


「え?え?ジェヒョン?どうゆう事?」


シオンがひどく動揺している。


「うちの大学に入学したって言ってました。」


シオンとヒョヨンが固まって見つめ合っていた。

交通事故にあって辞めたのだから仕方がない。


「うちのサークルに興味があるみたいで、入るかもしれません。私はどうしてもソウル西校のバスケ部に縁があるみたいですね(笑)」


シオンとヒョヨンが何とも言えない顔をして見つめ合っている。

ユンもその様子が気になる様だった。


・ 


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」


「あ、私お手洗いに…」


「アミちゃん、私も行く!」



個室から出るとヒョヨンが怖い顔をしていた。


「どうしたんですか?」


「ユン、アミちゃんの事になるとすっごくバカになっちゃうからさ。ユンには言わない。だからアミちゃん自分で自分を守るんだよ?」


「何?(苦笑)なんの事ですか?(苦笑)」


「あの頃、高校ん時のあの頃。ジェヒョン、アミちゃんの事好きだったんだよ。」



一瞬、何の話をしているのか理解が出来なかった。

返事の仕方もわからない。


「な、何かの間違いじゃないですか?」


「あの頃、何も無かった?思い当たる節とかさ! 読書感想文を一緒にやってたミンジュンにアミちゃんが狙われた時、ジェヒョン人一倍怒ってたじゃん!」


「そう言われても…みんな怒ってくれたし…」


正直、ユンの事しか覚えていない。

でも考えてみる。



「あ。」


「何!?」


「読書感想文の全国コンクールで銅賞を取った時。2年の教室まで来ておめでとうを言ってくれました。」


「他には?」


「後は…何だろう…」



「先輩も映画が好きだって言ってて、会うたびに最近見た映画を聞かれて、次に会った時にはそれを見ていて感想を話してくれたり。他愛の無い事しかないですよ(苦笑)」


「シオンがジェヒョンのスマホを借りた事があってさ、写真フォルダをイタズラ心で見たらアミちゃんの写真でいっぱいだったらしいの。その頃ユンにキツく当たる事が多々あって合点がいったんだよね。」


「しゃ、写真ですか!?いや、キツく当たるって?」


「試合でも練習でもユンがヘマをするとボロクソに言ったりボールぶつけたり…シオンが見兼ねてジェヒョンに注意する位だったよ。反抗期なんだろうねって皆んなはそう思ってたの。ユンもね。」


「…………。」


「もし、アミちゃんのサークルに入る様な事があったら気をつけて。」


「分かりました…。いや、大丈夫だと思いますけど。そんな感じなかったし(苦笑)」


「同級生だし付き合いも長かったから、なんか分かるんだよね。シオンも感じてると思う。アイツ、危ない雰囲気があるの。事故でダメになってるのもあるから、心配なんだ。絶対に連絡してね。私でもシオンでも良いから何でも話すんだよ?」


「はい…。」


「とりあえず、ジェヒョンとの事は教えてね。」



人のほとんど居ない帰りの電車で、

手を繋いで並んで座った。

向かい側の窓に映るユンを見ると笑っている。


切ない…。


ヒョヨンの話が本当だとしたら

私のせいで嫌な気持ちにさせられたり

痛い思いをしていた。

想像して胸が苦しくなる。



ユンの肩にもたれかかると、ユンは手を解いて私の肩に手を回し頭を撫でた。


「酔ってるの?」


「ちょっとだけ…。」


「弱いな(笑)」


「ごめんね…。」


「何で謝るの(笑)」


「………。」


「何?震えてるよ?」


慌てて私の顔を覗き込んだ。


「何で泣くんだよ?(苦笑)」


「ユンくん…」


「ん?」


「朝まで一緒にいるのはダメ?」


「じゃあ、うちに帰ろう?」


「うん…」



ユンの家に着くと両親は寝室に入っていて出てくる気配が無かった。


バラバラに入ると時間がかかる。

2人で一緒に素早くシャワーを浴びる事にした。


コンビニで買った下着と、ユンに借りたTシャツと短パンに着替えて部屋に入る。



何も起きません様に…。

不安を掻き消して欲しかった。

私が誘った。

ユンのベッドで静かに静かに愛し合った。



ベッドと、私用の布団。

バラバラに寝ていたおかげで

翌朝、お母さんに怒られなかった。


――――――――――――――――


ーー翌日


在校生の新学期は来週月曜日から。

今週はずっと新入生に声を掛け勧誘をする。

朝からまたビラを持ち、配り歩いた。



「アミちゃん!」


「あぁ、ジェヒョン先輩。」


(ユンくんをいじめてた奴…憎たらしい。)


「アミちゃんのサークルに入りたいんだけど、どうしたら良い?」


「えっ?あの…。他のとことか見ました?見てからが良いと思いますよ。」


「もう決めたんだもん。」


「あぁ…。」


「何?なんか変だね(笑)入っちゃいけないの?」


「あ、いや、そうじゃないですよ…。もちろん。」


「じゃあ、どうしたら良いの?(笑)」


「来週月曜日にサークルの部屋に来て下さい。

ビラに書いてありますよね。大きい棟の3階です。」


「わかった。よろしくね!(笑)」


「宜しくお願い、します…。」


「アミちゃん、今彼氏っているの?」


私の左手を見ながら言った。


「彼氏いますよ。」


「そうなんだ…。」


「いま、ユンくんと付き合ってます。」


「はぁ??ユン??」


ジェヒョンの眉間にシワが寄っている。

酷くイライラしている様だった。



そして目が据わった。


(何、この顔…怖い。)




「今すぐ、別れろよ。」




初めて見る怖い顔に反応が出来なかった。

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