第21話 それぞれの進展

3月31日

入学式を2日後に控えた月曜日

イ・ヒョヌ教授にサークルの新4年生の4人が呼ばれた。





「みんな、撮影お疲れ様。4人とも期日を大きく残して提出してくれたね。素晴らしい。様々な科の先生方に手伝って貰って採点が済んだよ。」



4人は静かに顔を見合わせた。



「1人持ち点は2点、好きな作品に投票して貰った。1作品に2点を入れる人も居れば1点ずつ2作品に入れる人もいて様々だったよ。私も入れて30人が採点に参加した。」



胃がきゅーっと痛くなる。



「ま、もったいぶっても仕方ない。1位から発表する。」


目を閉じて祈った。



「1位 19点、キム・ハナ」



――終わった…。



「2位 18点、キム・アミ」


「3位 13点、チョ・ウソク」


「4位 10点、パン・ハミン」



「キム・ハナに部長をしてもらう。キム・アミには副部長を頼む。」




サラッと決まってしまった。

私たちには重要な事なのに、

ヒョヌ先生はそんな事などお構いなしにサラッと告げた。


部長になれなかった…。

悔しい…。

私の何がダメだったのか悔しくて涙が込み上げる。

ふと、男子達を見ると同じ様に悔しそうだった。




「で、例の私の助手の話だが…全員にして貰うよ。」



「え?」


全員驚き、嬉しそうな顔をした。



「この業界は昨日まで仲間だと思っていた人間が、今日いきなり敵になる事もある。4人には互いにライバルでもあると知って貰いたかったんだ。わざわざ私が君たちの仲を裂くような事はしないよ。わっはは!」


「先生! 笑えませんよ…。」


ハナがホッとした顔で言った。



ーーヒョヌ先生の助手が出来る!!


嬉しかったが、ハナとの一点の差は…

正直、悔しかった。


ヒョヌ先生は誰に投票したのだろうか…。



「それから、嬉しい知らせがある。君達が撮影したソウル体育大学バスケ部の映像の件だが、アメリカとの姉妹校に決まったそうだ。」


「えぇ? やったー!!」


ウソクが叫ぶ。


「きゃー!!」


4人で飛び跳ねハイタッチをしたりして喜んだ。



(ユンくんも、もう聞いたかな!?(嬉))



「よくやった。本当によくやった(笑)改めてあちらから連絡が有るだろう。」


「嬉しい!(泣)」


「アミはそりゃあ、誰よりも嬉しいわよね!」


「では、今日はこれで解散としよう。明後日から新入生の勧誘、宜しく頼むよ。」




ヒョヌ先生がサークル部屋を出て行く。


すぐに後を追いかけた。



――――――――――――――――


「先生!」


「ん?」


「相談があるんですけど、いいですか?」


「相談?」



サークル部屋の扉から少し離れた。



「あの…、さっき話に出たバスケ部なんですけど…。」


「あぁ、うん。なんだ?」


「ボランティアで練習とか試合とか撮影させて貰えるみたいで。違う大学なんですけど撮影者登録してバスケ部に同行しても良いですか?」


「なんで、わざわざ君がそんな事をするんだ?意味はあるのか?」



二つ返事で許して貰えると思っていた。

意外な反応だった。



「こないだ撮影をさせて貰ったんですけど…。試合中の選手の顔って、その時の一瞬しか見られないんです。点を入れた喜びとか焦りだとか。撮り逃したらもう二度とは見られないんです。儚いと思いませんか?」


「う〜ん。儚い…か…。」


「私、映画が好きです。だけど、台本の無い1回しか撮れ無いモノを撮るっていう、撮影者の使命感とか必要性みたいなモノを感じたんです。」


「撮影したバスケ部の選手の1人と付き合ってるそうだね(笑)だからだろう? 私の耳にまで入っているよ。」


「うっ。うがっ…。」


「君は本当に分かりやすい(笑)」


「あのっでもでも! スポーツを撮る奥深さを知ったのは本当です。」


「台本のあるモノを撮るというのは…そうだな俳優も含めてある意味、ウソが得意で無いと上手く出来ないんだ。 “無い”モノを“有る”ように見せないといけないからね。君は人を騙そうとか魔法をかけてやろうといった力は弱いかもしれない。」


「魔法…ですか…。」


「君の撮った作品。出演者の2人が本当に美しかったよ。それは、そこにある真実を君が最高の状態に引き出したんだ。魔法ではない。もしかすると向いているかもしれない。やってみると良い。」


「ありがとうございます!」


「但し! 条件がある。」


「条件…ですか?」


「サークルの撮影や私の助手の仕事を優先する事。こちらを蹴ってあちらに行くのは許さない。わかったね?」


「はい。分かりました。」


「じゃ、明後日からまた頼むよ。」


背中を向けて歩き出した教授に

“聞きたい衝動”を抑えられなかった。



「先生!」


黙って振り向いた。


「1つだけ聞いて良いですか?」


「なんだ?」


「先生は……2点を…誰に入れましたか?」





「2点とも、キム・アミ。君に入れたよ。」





――――――――――――――――


ユンはデートの翌日から

朝から夕方まで、練習の毎日を送っている。


春休み中の練習は、18時に終わるため

私のバイトの無い日は食事に行ったり頻繁に会っている。

だけど、どこかに泊まったりという事はしていない。


あれから変わった事が一つだけある。

ユンの家に、私の使う物が置かれる様になった事。


浴室にはメイク落としや洗顔フォーム。

ユンの部屋には化粧水などの基礎化粧品が置かれている。


――荷物が軽くなるでしょ。


ユンのお母さんの提案だった。



私はサークル部屋に残る3人に、手短に挨拶をして大学を出た。

ソウル体育大学へ急ぐ。


――――――――――――――――


今日は上靴を持っていない。

靴下だけで体育館に入った。

春と言っても夕方の体育館の床は冷たい。


「失礼します!」


監督の元へ小走りで近づく。


私に気が付いたユンが二度見した。



「へへっ(笑)」


「何してんの?(笑)」


「後でね!」



シオンや監督との会話をビデオに収えていたが、ユンは自分の試合を見ようとしないため

撮影者登録の話を知らない。


今までわざと言わないでいた。



「監督!お疲れ様です。」


「おぉ、例の話か?」


「はい。先生に許可して貰いました。」


「そうか。じゃあ行こうか。ちょっと離れるから頼むよ。」


監督はコーチに声をかけると、私を職員室に案内してくれた。



登録と言っても名前や住所の記入だけで特別な事は何も無かった。



「サークルの活動を優先するように言われたんですけど大丈夫ですか?」


「うん、ボランティアだからね。時間のある時に撮ってあげて。良い資料になるから。あ、そうだ、姉妹校の話は聞いた?」


「はい!聞きました。」


「これからアイツらに話してやろう(笑)」


――――――――――――――――


「はい、集合!」


選手やマネージャー達全員が集まって来て、目の前に座った。

ユンは私を見て不思議そうな顔をしている。



「じゃあ、みんなに紹介しよう。と言ってもみんな知ってるよな。」


「ユンの彼女でーす。」


――あはははは!



2週間前のリーグ戦でユンと一緒に活躍した選手、キム・スホが茶化す。


「まぁ、まぁ、それは置いといて(笑)彼女は今日からこのバスケ部の一員になった。試合や遠征で撮影同行をお願いする事になるだろう。仲間として接するように。」


「宜しくお願いします!」


頭を下げると拍手をしてくれた。

ユンは相変わらず不思議そうな顔をしている。


「それから、彼女の所属するサークルが撮影してくれた映像をアメリカの大学との姉妹校誘致に使わせて貰ったんだが無事に成功したんだ。」


「すごっ(笑)」「やばっ」「へぇ」

選手達が各々リアクションしてくれた。


「この部と彼女の縁はまだまだ続きそうだ(笑)じゃ、アミくん座ってくれるかい?」


「はい。」


促され、ユンの横の空いているスペースに体育座りで座った。


相変わらず不思議な顔を向ける。

笑顔で応えるとユンはつられて笑った。


「ここで、来年度のキャプテンと副キャプテンを発表する。呼ばれたら前に。」


(え!?)


普通ならザワザワしそうな場面なのに

選手は微動だにせず表情も変えなかった。



「まず、キャプテン… ソン・ユン。」


「はい。」


(きゃー!!)


「副キャプテン、キム・スホ。」


「はい!」


「みんなそれぞれ最高な選手だから、決めるには困難を極めたんだ。その事は忘れないでいて欲しい。決める材料として、この2人はプロチームから声が掛かっている。成績も含めて納得して貰いたい。では、ユンから一言頼む。」


「はい。 去年よりも良い成績を出せる様に皆んなと一緒に頑張りたいと思ってます。宜しくお願いします。」


――パチパチパチパチ


「次、スホ。」


「はい! 今年はみんな!!一緒に大暴れしような!(笑)」


――あははは!


「とにかく宜しくお願いします!(笑)」


満面の笑みで大きく頭を下げた。


――あははは!

――パチパチパチパチ


(なんだぁ?この対照的な2人は(笑)) 


監督は困った顔をして

頭をポリポリと掻いていた。



――――――――――――――――

お腹が空いている時の定番のファミレス。

ビールとノンアルビールで乾杯をした。


「キャプテンおめでとう!」


「うん。ありがとう。やっぱり…嬉しいな(笑)」


「そりゃそうだよ!」


「ってか、なんだよ!撮影同行って!(笑)」


「たくさん一緒に居られるね!」


「ふんっ(笑)」


「私の方もね、サークルの部長の発表があったんだ…。」


「うん…。」


「副部長になったよ。」


「え…。」


「そんな顔しないで(笑)大丈夫だから。」


「ん?」


「4人とも助手にしてくれるって(笑)」


「なんだ…良かったな。」


「うん。今はもう清々しい気持ちだよ(笑)」


「全員、助手が出来るならアミって、1番良いポジションじゃない?(笑)」


「んん? そう?」


「だってさ、部長の責任は無いけどペーペーでも無いってさぁ(笑)」


「言い方!(笑)でも、まぁそっかぁ(笑)」


「とりあえず、全部良い方に決まったな。」


そう言いながらまたグラスを向ける。

それに応えて乾杯した。



明後日は両方の大学で入学式がある。

ユンは明日から体育館が使えないプラス先生が忙しい為、練習は2日間休み。

明日は朝からバイトまでの時間を一緒に過ごす事にしている。

美容室の予約も入っている。


リタッチする?

それとも新しい色?

不安や、モヤモヤとした心の引っ掛かりが無くなった今

話す内容の全てが楽しい。



それでも今日は、

あまり遅くならない様に別れる事にした。

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