第20話 ユンのホワイトデー計画
予定通りに家を出て駅に向かう。
電車で50分の移動。
港に近い繁華街に着いた。
2人で来るのは初めての街。
まず最初の目的のホテルは一見ラブホには見えなかった。
やはり人気があるのか2部屋しか空いていない。
ユンは迷わず料金の高い方の部屋を選んだ。
広い部屋の端に大きいまん丸なベッドがある。
少し気恥ずかしかった。
「わぁ!すごい!!」
部屋の一角は西洋のお姫様が使う様な豪華なドレッサーが鎮座していて吸い寄せられた。
鏡はライトが付くようになっている。
鏡の前にはお姫様に憧れた女子なら全員喜びそうなブラシや手鏡、化粧ブラシなどが置いてあり、一つずつ手に取り触ってしまう。
ドレッサーの横にはオープンラックがあり、高価な物から安価な物までありとあらゆるブランドのコスメが並んでいる。
ブランド名、コンセプトの説明、試供品。
分かりやすく並んでいた。
『ご自由にお使い下さい』
『試供品はお持ち帰り頂けます』
お化粧中の状態を男性には見られない様に、天井から取り付けられたパーテーションで仕切れるように配慮もなされていた。
「これだね。女の子に人気なのは(笑)」
ユンが後ろから近付き私を抱きしめた。
「シャワー浴びてくる。」
「うん…」
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「バスローブ、ヤバくない?(笑)フカフカなんだけど!」
「ほんとだぁ(笑)」
「早く、行ってきて。」
「うっ(笑)」
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浴室もかなり大きい。
(もう、プールじゃん(笑))
と笑ってしまうくらいの大きなジャグジーがあった。
シャンプー、コンディショナー、ボディソープ
3種類の香りから選べるようになっている。
いつもなら柑橘系を選ぶところだけど何となくローズのボディソープを選んだ。
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・
寝室に戻ると間接照明だけになっていて
先程とは全然違って見えた。
そっとユンの死角からベッドに入る。
素早く捕まえられてしまった。
「アミ…愛してるよ。」
「うん。私も愛してる。」
今までで1番優しいキスと
丁寧な愛撫。
心も身体もトロトロに溶かされて、これだけで充分な “お返し” に思えた。
ユンとの重なりは、今まで感じた事のない
性的快感と幸福感で涙が溢れた。
「何で、泣くの?」
「ユンくんが…好きだからっ。」
「はぁ… かわいぃ…。」
・
・
余韻に浸る間も優しく寄り添ってくれる。
いつも優しいのに、いつも以上に優しく感じる。
『愛されている。』
21年間生きて来て1番の幸福感に少しだけ不安になった。
(幸せ過ぎて怖いってこうゆう事なんだ…)
・
・
13時予約のランチはテレビや雑誌でよく紹介されているのを見て知っている所だった。
「ここ気になってたんだよね!すごい(笑)」
ユンは得意げにわざと両方の口角を上げて、うんうんと頷いて見せた。
ここの売りは本場イタリアで修行したピザ職人の焼くピザで、シーフードとマルゲリータを注文した。
生地から作るため少し待たされたが
「うま〜!何これー!あはははっ(笑)」
笑っちゃうくらい美味しかった。
・
・
15時
「次はここだよ。」
「ん?何?ここ。」
「指輪を作る所。」
「え?作るの?(笑)」
「俺、物作るの好きなんだよね。子供の頃LEGOとかも好きだったし。」
「そうなんだ!?初めて知ったー(笑)指輪作れるのも初めて知った!」
「どう?」
「楽しそう!♪」
「良かった(笑)作ったのをお互いにプレゼントしよ?」
「わぁ!良いね!(笑)」
「予約しているソン・ユンです。」
「お待ちしていました。こちらへどうぞ。」
にこやかなお兄さんが案内してくれた。
4人掛けの作業台がいくつも並んでいて、
全ての机がお客さんで埋まっていた。
作業台には四角い背もたれのない椅子があり、学校の技術の教室を思い出した。
・
・
「では、このエプロンを付けて下さい。今日担当させていただきますジュンスです。宜しくお願いします!」
『宜しくお願いしまーす!』
2人で声を合わせて挨拶をした。
「まず、この見本の中から素材と太さを選んで下さい。」
「俺、シルバーがいいなぁ。あんまり太くないやつ。これかな。」
「私はどうしよう。」
「18金は?」
「ひっ。高いよ!」
小さい声で言った。
「そこ見なくていいから(笑)」
「太いのはイヤらしいから細いのが良いなぁ。」
「じゃあ、これな?」
「う…ん…」
細くても高価で気が引けた。
「では、デザインとサイズを決めまーす。」
「中指かな。」
「うん。中指だね。」
2人でサイズ見本を中指にはめてサイズを測る。
デザイン見本で柄も選んだ。
「では見本を片付けますね。」
「はい。ではまずこちらのリング、火で熱します。気をつけて下さいね!」
私が着けるリングをユンが、
ユンが着けるリングを私が作る。
選んだリングと柄を付ける金づちを交換した。
ガスバーナーでリングを焼く。
「では、ピンセットで掴んでこちらのお水に入れまーす。」
――ジュン
――ジュッ
「この工程でリングは強くなります!」
『へぇ』
声を合わせてコクコクと一緒に頷いた。
お兄さんが笑ってくれた。
「では電動ヤスリをかけます。この過程でピカピカになりますよ。」
――ウィーーン
「は!ホントだぁ!ピカピカ!あはは!」
「これ面白いなぁ(笑)」
「次は指に合う様に伸ばす作業です。この筒にメモリがあります。数字は号数です。金づちで上から叩いて伸ばします。回しながらやりましょう。」
――カンカンカンカン
「次に柄を付ける用の金づちに持ち替えて下さい。上から叩くと伸びて行っちゃいますから直角に入れます。」
――カンカンカンカン
意外と上手く出来た。
お兄さんはリングを預かると、ケースと紙袋に入れて渡してくれた。
リングについてのお話や、お手入れ方法を聞いたり。
入店してから約1時間の体験だった。
・
・
「楽しかった?」
「うん!すごく楽しかった!体験するって良いね!」
ユンは満足そうに笑っていた。
・
・
次にやって来たのは高層ビル。
ホテルとショッピングモールが合体していて展望台もある。
展望台の1階下67階にカフェがあり入る事にした。
定番のアイスコーヒーとアイスカフェラテ。
「ちょっとさ、ここで待ってて欲しいんだよね。」
「ん?どこ行くの?」
「欲しい物があって、取り置きして貰ってんだ。」
「一緒に行けば良いじゃん。」
「いや、良い。座って待ってて。」
出て行ってしまった。
15分ほどして戻って来た。
「あれ?買った物は?」
「持ち歩きたくないからコインロッカーに入れて来た。」
「帰る時、忘れない様にしないとね(笑)」
「忘れないよ。」
・
・
展望台に行く事にした。
今日の海は穏やかで船が止まっている様に見える。
「後であの遊覧船に乗るから。」
ユンが指をさして言った。
「それも決まってるの?(笑)」
「うん、対岸のレストランを予約してる。」
「何時から?」
「19時。」
「じぁ、間に合う様に見て回らないとね。」
「遊覧船は18時30に乗れば間に合うよ。」
「完璧だね(笑)」
「まだまだこれからだから(笑)」
(この男、恐るべし。)
・
・
展望台フロアをゆっくり回る。
点在するソファーに座って
2人で自撮りをしたり、お話ししたり…。
月曜日の夕方。
人が少ない。
こっそりと軽いキスをした。
照れる顔が可愛い。
お土産屋さんなど一通り回ってビルを出る。
「あ!買ったものいいの?」
「また戻って来るからその時で良い。」
・
・
遊覧船は港をくるりと回るルートで約15分の乗船。
レストランには予約の5分前に着いた。
・
・
ドレスコードの無い本格フランス料理店。
2人掛けのテーブルの中央にはバラが一輪
お皿やナイフとフォークにスプーンがいくつも並んでいた。
「失礼致します。ソムリエでございます。アペリティフはいかがなさいますか?」
「彼女お酒が得意じゃないんです。何かありますか?」
「アルコールの入っていないカクテルはいかがでしょうか?」
聞いてくれたけど、よくわからない。
アルコールが入っていない。
大丈夫だと判断した。
「あ、じゃあ、それで…。」
「僕はシャンパンをお願いします。」
「かしこまりました。お食事に合わせたワインはいかがですか?」
「コースをお願いしてるので、料理に合わせたおすすめでお願いします。甘く無い物が良いです。」
「かしこまりました。お客様はアルコールの入っていないワインなどいかがですか?」
「あ、はい。お願いします。私は甘めが良いです。」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」
ソムリエが上品に頭を下げて離れて行った。
「ア、アペ?」
「アペリティフ。食前酒だよ。」
「あぁ、食前酒!」
「お酒じゃ無くて良かった?」
「うん。ありがとう(笑)ユンくんってナイフとフォークとかちゃんと使えるよね。何者?(笑)」
「母さんの方のおじいちゃんが、海外の物に触れなさいって言って、こうゆうとこに連れてくるんだよね。」
「聞いて良いのかな?おじいちゃんって何してる人?」
「家具とかの輸入業。」
「輸入業!?」
「事業が成功して、母さんの子どもの頃はほとんど家に居なかったって。だから罪滅ぼしに好きな事をさせてたみたいだよ。お手伝いさんが2人居たんだって。」
「あぁ、なるほどなぁ。」
お母さんの奥にある気高さの意味がわかった気がした。
「お待たせいたしました。アペリティフでございます。」
目の前に置かれたノンアルのカクテルは、淡いピンク色でグラスの端にピンク色の花が飾られていた。
「わぁ!可愛いぃっ。」
「大切な方をお連れだとお伺いしておりましたので、イメージしてお作り致しました。ごゆっくりお過ごし下さいませ。」
ニコリと笑顔でソムリエが立ち去った。
ユンを見ると恥ずかしそうにしていて、こちらも恥ずかしくなった。
「か、乾杯しよっ。」
「うん。」
飲み終わる頃、料理が運ばれて来た。
「どれから使うか知ってる?」
「外からでしょ?知ってるもんね。」
「アミも使えてるよね。」
「うん。ふふふふっ(笑)」
「何?(笑)」
「なんで使えるようになったか教えてあげようか?(笑)」
「うん。」
「中学生の時、映画に出てくるナイフとフォークに憧れて、家でご飯を食べる時に箸をやめてしばらくの間使ってたんだ(笑)」
「くだらねー!(笑)」
「そのお陰で使えてるんだから良くない?(笑)」
「他所でそれ、言わない方が良いと思うよ(笑)」
お料理はどれも美味しくて
最後のデザートも最高に美味しかった。
・
・
遊覧船で対岸に戻ると、また高層ビルに入った。
展望台の1階下67階、カフェと同じ階にあるバーに入る。
店内はガラス張りになっていて中央にバーカウンターがあり
窓の外を見られるようにテーブルが設置してある。
席は全て横並びになっている。
海側に通されて2人で並んで座った。
「月が見えてる。良い席だね。」
「お、ホントだ。良いね(笑)」
ビールとオレンジジュースで乾杯する。
「この階のコインロッカーに買った物入れてるんだ。取ってくる。」
「あ、うん。」
「すぐ戻る。」
ビールを飲み干して、おかわりを注文した後出て行った。
おかわりのビールが届いて間も無くしてから戻って来た。
ユンの手には大きめの白い紙袋。
しっかりした作りに見えた。
黒い紐が丈夫そうで重たい物が入っている様だった。
「お待たせ。これ、お返し。」
「へ?何で?」
泣きそうになってしまった。
「指輪とかレストランとかもう!充分なのに…。」
「良いから(笑)中見ないの?」
「見るぅ(泣)」
「あははは(笑)」
30センチ位の正方形、そこそこ重い。
シックな色の花が所狭しと描かれている包装紙
赤いリボンがかかっていた。
「わぁ…。ちょっと…何、これ(泣)」
「女って花貰うと嬉しいんだろ?(笑)さっきのカクテルも嬉しそうだった(笑)」
「うん。嬉しい(泣)」
「調べてたら見つけたんだ。枯れなくて良いって(笑)」
正方形の木の箱にガラスの蓋がしてある。
中には白と濃さの違うピンクのバラが敷き詰められている。
所々に赤いバラ。
プリザーブドフラワーのボックスだった。
「本当にありがとう(泣)ありがとうございます(泣)」
「どういたしまして(笑)」
「これ飲んだら帰ろう。今日は家に帰さないとな(笑)」
「うん。」
・
・
ユンの家に戻りお泊りセットと上靴を手に取り家を出る時、ユンのお父さんに声をかけられた。
「今から帰るのか?」
「うん。家まで送ったら帰るよ。」
「車で送るよ。その方が早い。」
「いえ、遅い時間なので。それは申し訳ないです。」
「ユンが帰ってくる時間もあるし、送るから乗って行きなさい。」
車で送ってくれる事になった。
・
・
「上まで行くよ。」
「いい!いい!これくらい持てるからここで良い。」
「じゃあ…。 親父!あっち見といて!」
「ふん(笑)はいはい。」
ユンは、お父さんが向こうに顔を向けたのを確認すると
キスをした。
「ここまでが俺の計画(笑)ぷはっ(笑)」
「ふふふ(笑)もう、完璧だよ。完敗!(笑)」
「予定考えるの結構楽しかったよ(笑)」
「すっごく楽しかった。ありがとう。」
もう一度キスをするとユンは車に乗り込んだ。
お父さんにお礼を言ってマンションに入る。
人生で1番幸せなデートが終わってしまった。
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