第12話 自作自演の女

月曜日の朝、1時限目の講義は取っていない。

1週間振りに喫茶アポロに向かった。

店に入るとマスターの奥さんに


「いらっしゃいませ!あら、おはよう!」


と、ニコリと挨拶して貰った。

いつもの光景。


先週の月曜日の朝、突然ユンがやって来て夢の様な1週間を過ごすだなんて思ってもみなかった。



いつものホットカフェオレと、モーニングセット。


「髪の色可愛いわね。」


「ありがとうございます。こんなの初めてだからちょっと学校行くの緊張してます(笑)」


「似合ってるわよ(笑)指輪も可愛い。こないだの人?」


「はい(笑)」


「顔が明るくなってる。」


と、またニコリと笑って貰った。



ウソクと一緒に通っていたのに

その後、1人で通う様になった。

いつでも味方の様に笑ってくれる。

やっぱり私にとって大切な場所だった。



いつもの奥の席。

ノートPCを開いた。

パソコンの中身を覗き込まれたくなくて向かいの席に移動した。

私の後ろには壁。

撮影した動画を見始めた。



映像に集中できない。

ユンには自分の為にバスケをしてと言ったのに、私は自分の為に動けているだろうか。

正直に言うと、この1週間で疲れてしまっていた。

こんな付き合い方はいつか破綻してしまう。


この動画の編集は私の人生がかかっていると言っても過言ではない。

サークルの部長になって、ヒョヌ先生の助手をしたい。


(ユンくんとちゃんと話さないとダメだよなぁ。)



――――――――――――――――――

「アミ!なんて事!?可愛い!」


ハナが驚いている。


「お!?冒険したね(笑)」


ハミンがニコニコしている。


「指輪、シルバーにしたんだ?」


ウソクに言われた。


「う、うん。」


「シルバーもこうゆうのなら合うんだね。髪もびっくり(笑)似合ってるけど。」


「あ、ありがとう…。」




「…………。」


ユナが私を睨んでいる。

怖くて目を合わせられない。


2時限目はヒョヌ先生の講義で、サークルの4人プラス、ユナが集結する。

その為、緊張していた。



「アミちゃん、ちょっと良い?」


講義終わりに、ユナに声をかけられた。


「私の居る前で話してくれる?」


ハナが雰囲気を察して言ってくれた。

少し嫌な顔をしたが廊下のすみに行き話し出した。



「あのさぁ。ユンくんをインスタに上げるのやめなよ。」


「何で?」


「ファン多いんだからアミちゃんって特定されるよ?」


「ファンの人に特定されたらダメなの?」


「何されるか分かん無いじゃん。ユンくんのインスタに出るのもやめなよ。もしかしてアミちゃんがやってんの?」


「うん? どうゆう事?」


「ユンくんの彼女って皆んなに知ってもらいたくてアミちゃんが乗っ取りしてるんでしょ?だってさ、インスタに女を上げる事なんて今まで無かったし、だいたいインスタ自体放置だったのにさぁ。」


「だからって何で私がしてることになんの?」


「高校の時の同級生で両思いだったから他の人とは違う!私は特別!って見せたいんでしょ?自作自演とか恥ずかしく無いの?超ダサいよ?」


「自作自演!?そんな事してないし!」


「じゃあ、証拠見せなよ(笑)無理っしょ!(笑)ダッサぁ。ギャハハ!」


「は、はぁ?」


「ユンくんのファンの子、この大学にも何人か居てさぁ、私は歴代1番の彼女だから皆んな私に情報くれるんだよね。こないだの土曜練はキャプテンの彼女が居たから休憩時間に会いに行けたけど居なかったら無理でしょ?今ままで私入れて4人居たのかなぁ彼女。皆んな休憩時間に下に行けなかったんだよね。自作自演したってそうゆうとこでボロが出ちゃうよ?(笑)今度見に行くね。ギャハハ!」


ユナが笑いながら去って行った。

この腹立たしい気持ちは何なのだろうか。

“悔しい”とはちょっと違う。



ユンが過去に、こんな事を人に言えてしまう女と付き合っていた事実が腹立たしかった。



「アミ、大丈夫?」


「大丈夫…」


「アミ、自作自演してんの?」


「ハナぁ!ハナまでそんな!」


「違う、ここにユンくん居ないんだからアミにしか確認出来ないでしょ?疑ってるんじゃなくて確認!」


「してない!!(泣)」


「わかったわかった。ごめん。」


「なんか、もう、色んな事が起こり過ぎてて、もう!頭パンクしそう…」


「自作自演してるかどうかなんてすぐ判明するよ。気にするな。」



――――――――――――――――

お昼休み。

クスクスと私を見て女子達が笑っている様な気がする。

友達の多いユナが笑いながら話しているのを見るたびに自分の事を笑っている様な気がする。


(ダメだ、ダメだ!気にするな!)



気持ちを切り替えた時、ジアンから電話が掛かって来た。



「もしもし?」


「あ、アミ。ごめんね。」


「もしかして今朝の事?」


「うん。今夜会って話せない?バイトかサークルがあるなら違う日でも…」


「どっちも無いから会えるよ。仕事は?」


「もしかしたら残業があるかも。」


「じゃ、そっちの駅に行くから。」


「仕事終わったら連絡するね。」


「わかった。じゃあね。」



――――――――――――――――

ジアンはやはり残業があり、20時30分に待ち合わせになった。


「お疲れ様。」


「ありがとう。どこ入る?」


「ご飯食べようよ。居酒屋でいっか?」


引っ越す前の最寄り駅、私以外の同級生が暮らす駅の近くの居酒屋に入った。

ジアンと一緒にご飯を食べている。と、位置情報をユンにLINEしておいた。



「とりあえずびっくりしたからね?」


「それはアミ達だってじゃん。」


「私たちの事は良いんだって。」


飲み物が来た。

私は疲れていてアルコールはパス。

ジュースとビールで乾杯した。


「恋人が居なかったのはジアンとソジンくんだけだったし、ジアンは一時期好きだったんだし自然の流れかな?とは思うよ?で、連絡は来たの?」


「まだ来てなくて…」


「そうなんだ…国立大の研究員で忙しいって言ってたからもう少し待ってみたら?」


「それで悩んでるの。」


「うん?」


「国立大に居る人が、母子家庭で高卒で働く私を好きになるはずないしい、一回きりで良いんだ。連絡しなきゃって思って欲しくなくてさ…」



ジアンは幼い頃から母子家庭で、3つ歳下の妹が居る。

やり手の母親でお金に困っては無いが、そんな母親の背中を見て育っているせいか、残業があると進んでやり稼ぐ事に躍起になっている。


片やソジンは、

学年トップの成績だった事で国立大学に現役合格。

薬の研究をしていて、大学院に進む予定だと言っていた。


「釣り合わな過ぎだと思わない?」


「思わない。けど、気持ちは分かる。」


「ユンくんに並べる様に読書感想文頑張りたいって言ってたもんね。」


「とりあえず食べよ。ユンくんにここに居る事言ってあるから来ると思うんだ。来たらソジンくんの事聞いてみようよ。」



――21時20分



「腹減ったぁ。」


「お疲れ様。」


「アミ借りてる。」


「レンタル料高いよ?(笑)ビール下さい!」


「食べ物頼みな?」


「うん。で?アイツの事なんだろ?付き合えば良いじゃん。」


「悩んでるんだってさ。」



「アイツ、何て言ったら良いのかな。“引っ掛かる”とか考えてしまう事が嫌いな奴だからちょっとでも何か思う所があったら行かないよ。」


「だって酔ってたじゃん?」


「ちゃんとやれたんだろ?」


「うぇ?(焦)」


「男は酔ってたらやれないよ。」


「ふ〜ん(恥)」


「俺、アミと再会する前、女を取っ替え引っ替えやっててさ。」


「はぁ?(怒)キモっ!!」


「もっと言ってやって(苦笑)」


「ソジンに知られてめっちゃ怒られたよ(苦笑)アミちゃんに再会した時恥ずかしく無いのか!って。 そんな再会するとか良い話なんかこの世にあるかぁ!って大喧嘩(笑)」


「再会したじゃん。バカだな?」


「ですね(笑)だから!そんな真面目なソジンは軽はずみにそんな事しないよ。って話し。」


「うん。真面目な人であるのは分かったけどね。」


ジアンの顔が赤くなった。


「立場が違うとか気にする必要ある?俺たぶん、アミが犯罪者になってたって別に構わなかったと思うし、アミが俺の過去を許せるのもそうゆう事だと思うんだ。要は気持ちだろ?国立大辞めたら気持ち冷めんの?」


「あぁ。別に。気にしないかぁ。」


「ソジンは気持ちも無いのにそんな事出来る人間では無いからちゃんと話ししてみな?それとなく言っとくからさ。」


「うん。ありがとう。宜しくお願いします。」



ジアンは、後は2人でどうぞ。と自分の料金を置いて帰って行った。


私はまた、ユンと離れ難くて朝まで一緒にいる事を選んだ…



ーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日から私は陰で


『自作自演の女』


と呼ばれる様になっていた。

ユンに会ってもその事について話す気にもなれず、言いたい事も言えずにズルズルと会い続けた。


疲れているのはユンも変わらない様でイチャイチャするだけで何もしないで寝る日が続いた。



金曜日、ユンの最寄り駅の近くのファミレスでご飯を食べている時、やっと切り出す事が出来た。



「お金勿体ないしさ、泊まるの日曜日だけにしない?」


「会いたくないの?」


「会いたいけど、毎日泊まるのはさ…。」


「疲れちゃった?」


「ユンくんもでしょ?こんな付き合い方してたら長く続かないもん。」


「確かにね。止め時が分からなくなってたね。」


そう言われると寂しくなって涙が出て来た。


「自分が言い出したくせに(笑)」


「ユンくんに言われると寂しい。ぐすん。」


「毎日会うのはアリにしようよ。30分でも良いから。俺だって寂しいよ。」


「うん。」


「土曜練は毎週朝から来てよ?」


「じゃあ、朝からバイトに行くまでは居るね?」


「約束だからね?」


指切りをした。




危ないからとユンは家まで送ってくれた。


明日は土曜日。

ユナが土曜練に来る。

どんな顔をして、どんな事を言うのかと考えると、胃がキリキリと痛んだ。

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