第7話 ユンside:初めての反抗

「明日は屋内撮影で見学NGにしてるんだ。何時に終わるかも分からないし…」


「明日で終わらせないとだもんな?」


「そうなんだよね。明日は時間決められないな…」


「良いよ。明日は家帰るから。終わったら連絡してよ。」


「うん。ごめんね。」


「明後日の土曜練は?朝から来れる?」


「朝からはちょっと難しいかも。やる事があって…。午後は絶対に行くから。」


「18時で終わりだからそれまでには来てよ。」


「うん、もちろん。そんな遅くにならない様にするから。」



【やる事があって…】


何をするのか察しは付いている。

毎日学校があって、撮影やバイトの後に俺と朝まで居るんだから“準備”出来ないよな?

『なにをするの?』って聞くのはカッコ悪いからやめとくよ。



アミと付き合うようになってから毎日母親に


『晩飯要らない。泊まってくる。』


と昼にLINEを入れていた。


『わかった』


とだけで理由は聞かなかった。

今日は絶対、何か言われる。




「ただいま。」


「あなた…最近何してたの?」


「彼女と会ってただけだよ。」


「彼女!?」

 

「母さんは恋愛はプロになってからって言うけど、そんなの無理だよ。好きだったら。」


「それだけになって欲しく無いだけよ。」


「キャプテンなんか、高校の時からずっと同じ人と付き合ってるけど恋人が居る方が安定してて強くて…カッコいいよ。」


「あなたはどうなるか分からないでしょ?」


「恋人が出来て、それを支えに出来ない人間なんてプロになる資格なんて無いと思うけど。」


「そんなに好きなの?」


「好きだよ。ずっと好きだったのにいっぱい傷付けたんだ…。何を言われても別れないよ。」


「そう。じゃあ、やってみなさいよ。来年キャプテンにならなきゃいけないのよ!?」


「俺、ずっと、母さんの夢を生きて来てるんじゃないんだよ。俺がプロになりたいって思ってるのに、言われなくってもキャプテン目指してるよ!俺の夢を指図すんなよ!!」




大切にしたかったのに…


傷付け病んでしまう程、追い込んでしまった。

俺が、親の言いなりだったばっかりに。


俺は変わった。

強く変わった。

命をかけても守りたい“モノ”を手に入れた俺と比べて、

昔となんも変わらない母親に心底腹が立った。




「母さんや父さんには感謝してるよ。夢を追いかけさせてくれて。だけど俺の夢なんだよ。指図しないでくれ。」


「ユン…」


「反対されたら反発してしまうから、何も言わないで。」


「ごめんね…。」


「え?」


「お母さん、ユンを押さえつけてたのね…そんなに怒るなんて…。」


「ごめんなさい…」


「どんな子なの?」


「一度会ってるよ。昔、試合の時。」


「アミ…」


「えっ??」


「さんでしょ?」


「お、覚えてるの?」


「遠足抜け出したりしたものね…。」


「………」


「明日…時間があるようなら家に連れて来なさい。ご飯用意しておくから。」



23時53分。

やっとアミから電話がかかって来た。



「もしもし?今、家に着いたんだ。」


「遅かったね。」


「ごめんね。」


「撮影は終わった?」


「うん、何とか。明日からはしばらくサークルも無いし時間あるよ。」


「明日さ、練習終わった後…うち来れる?母親が飯作るって言ってんだけど…」


「ホント?嬉しいなぁ♪行くに決まってるでしょ?」


「断っても良いんだけど…」


「行ったらダメなの?」


「ダメっていうか…」


「はぁ?ユナちゃんが行って私はダメなわけ?」


「母親はユナの事なんか知らないよ。」


「どうゆうこと?」


「ユナは親がいない時に少し入れただけなんだよ。今まで彼女が居た事すら知らないよ。」


「何で私は招待されたの?」


「外泊するなんてした事なかったから、何やってたのか聞かれて彼女出来たって言ったら連れて来いって。」


「今まで外泊した事無かったの??彼女居たのに?」


「した事ない。自分の生活リズム変えてまで女に会いたいって思った事ないから。電話もしないし毎日昼休みにLINEで話すとかさぁ、絶対無いわ。アミとの事は俺にとっては非常事態なんだよ。」


「付き合ってるって言うのか? それは。」


「大体は1回切りだけど中には良い奴とか気に入った奴は居たから2回以上になって、付き合ってるの?って聞かれるから、うんって答えるだけで。タイミングが合わなかったら無理して合わせないし。タイミングの合う時に会ってやるだけだったからな。」


「それ、セフレじゃん…。ユンくんも相当病んでたんじゃない?あり得ない。」


「シオン先輩には自暴自棄に見えたって言われたよ。」


「それだ…。良かったね。私と再会してフラれなくて。」


「はい。ありがとうございます。感謝してます。」


「チッ。ったく。」


「母親…、俺をプロにしたいってそれしか無い人だから何か嫌な事言うかもしれないから正直会わせたく無いんだよな。」


「覚悟しておくから。せっかくの招待を断る方が後から大変だと思うから行かせてよ。」


「うん…。まあなぁ!そうだよなぁ。フォローする様にするから。」


「うん。とりあえず、明日練習見に行くの楽しみにしてるね。」


「早く来いよ? じゃあ、おやすみ。」


「おやすみ。」


・ 

――――――――――――――――


母親はアミにとんでもない事を言うんじゃないか?

不安で苦しかった。

これ以上アミを傷つけたく無い。


もし、万が一、アミを傷付けたら…。


不安をかき消す様にベッドへ潜り込んだ。

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