第3話 空白の過去との断絶

A.M.5:30


――ピピッ、ピピッ、ピピッ

――ピピピピッ、ピピピピッ


「うぅん…」

「ふぅん…」


――ピピッ、ピピッ、ピピッ

――ピピピピッ、ピピピピッ



「アミ…」


「ぅん?」


「とめて…」



深呼吸をして起き上がり2つのスマホのアラームを止めた。


自分のスマホだけ5分刻みで登録したアラームを解除する。


スマホの暗証番号を昨日の日付

『付き合った記念日』に2人で変えていた。

ユンのスマホのロックも解除が出来る。



(だけどアラーム解除してあげないんだ)



歯を磨いたり顔を洗ったり、化粧以外の洗面台で出来る全てを終わらせて寝室に戻った。


ユンがベッドでうな垂れ座りスマホを触っていた。


「起きた?」


「止めて欲しかったのにアミ居なかった。」


「もう起きなきゃダメだよ。」


「今日も休んで良いよ?」



ユンのそばに座って手を握る。


「ゆっくり行こうよ。衝動とか欲望で動くのはやめとこ?」


「なんでそんなに冷静なんだよ…」


「ユンくんを悪く言われたく無いからだよ。」


姿勢を正して私を見た。


「新しい彼氏のせいで色んな事が疎かになったって言われたく無いの。ユンくんは私の自慢の彼氏ひとだよ。ね?」


「はぁ、わかった…」




電車は混雑していた。


混雑を理由にして、残りの数分を抱き合って過ごす。

私の方がユンより2駅先に下車する。

最寄り駅に着くとユンは私の頭にキスをした。

ホームから手を振ると、ユンの口が


『あいしてるよ』


と動いた。


笑って返事をする。


ユンを乗せて走って行く電車を見送りながら泣きそうになった。



もう、会いたい…。





家の玄関に入るとリビングに明かりが点いていてドキッとした。

普段なら、母親が起きるのは1時間後、父親は更に後だ。


もう怒られる歳ではない。

何かあった?



「た、だいま。」


「おかえり」


「何かあったの?」


「それはこっちのセリフよ。」


「はい?」


「学校に泊まるなんて今まで無かったじゃないの。寝られたの?」  


「ラブホでちょっと寝たよ?」


母親が、はっ、はっと息を吸いながら目を見開き驚いている。


「ど、ど、ど、ど、どうゆうことぉ?」


「行きずりとかじゃなくて、ちゃんと彼氏だから大丈夫だよ(笑)」


「まさか、ウソクくんとより戻したとか?」


「やめてよ。絶対に無いでしょ。」


「それはお母さんも大反対だわ。同じ大学の人?」


「ソウル体育大学の人。」


「ふぁあ?」


「ふぁあ?って。あははは!」


「なんでよりによって体大の人なのよー(泣)」

 

「なんで、そこまで言ってわかんないの?(笑)」


「はん?」


「ウソクくんとあんな事があったのにさぁ。こんな短期間で好きな人なんて出来ないよ。適当に恋人を作る必要も無いんだしさぁ。」


「は!!ってことは、まさか、ユンくんなの?」


「へへっ。(笑)」


「やだぁ!心配して損した!おめでとう!」


「ありがと。シャワー浴びてくる。」


「はいはい。行ってらっしゃい。」




シャワーを浴びて部屋に戻るとユンからのメッセージが入っていた。




『アミの匂いが体に残ってるよ』

『愛してる』




身体の火照りがよみがえうずいた。


たった1日の事なのに、ユンだけではなくユンとのにも溺れてしまっていた。


夜が待ち遠しい…。



身支度を整えて、昨日ユンを経由して返って来た1TBのUSBをカバンから出した。


机の引き出しの中にある、全く同じUSBと入れ替えてカバンに入れた。



「おはよー!」


「ウソクくん、ちょっと話がある。来てくれる?」


「いいよ?」


講義室から廊下の隅に連れ出した。



「インスタ見たよ?ソンくんのアカウントフォローしといたから(笑)早速会えてもう付き合ってんだね?」


返事をする気になれない。


「手出して。」


ウソクの右手にUSBを乗せる。


「こんな高い物を貰う道理は無いから返す。何で同じ物を買ってすり替える必要があるの?」


「だって、取っちゃったらゆっくり見れないじゃん。無くなったら騒ぐでしょ?」


やっぱり返事をする気になれない。



「あのさ…。 傷付けてごめん。」


「え…?」


「悪かったと思ってるよ。やり過ぎた。ごめんね。」


「う、うん…。私もごめんなさい。返してくれてありがとう。」



2講時は同じ撮影サークルのメンバーで友達でもある、キム・ハナと2人で同じ講義を受ける。


「インスタ見たけどあれはなぁに?」


ハナはお姉さんキャラだ。


「あれは、ユンくんだよ。昨日から付き合ってるの。」


一瞬驚いて、徐々に顔が綻んだ。

それを見て私も一緒に笑った。


「本当?良かったじゃな〜い!」


「ありがと(笑)」


「詳しく聞かせて!」



ユンを経由しウソクからUSBが返って来た事や昨日休んだ理由などを話した。

ハナの目に少し涙が浮かんでいるのを見て

なんて良い子なのだろう。と思った。


・ 


今日のバイトは長く感じる。

早く会いたい。

早く2人になりたい。

早く…





「あの、すみませんお勧めの映画教えて下さい。」


返却されたDVDを売り場に戻している時に男性に声をかけられた。

すぐに誰だか分かる。

笑いながら振り返った。


「ふふふっ。お疲れ様っ。」


「会いたかったよ。」


「私も。」


時計を見ると21時40分だった。

ユンの髪が少し濡れている。

部活後にシャワーを浴びて、すぐに来てくれた事がわかる。


「見てぇ。これとか、あっちのPOPとか私が作ったんだよ。」


「へー。上手いじゃん。」


「あともうちょっと待っててね。」


「うん。」


左手いっぱいに持っていたDVDを戻してカウンターに帰った。


「いま会員証無料で作れるんだ?」


「うん。そう。」


「作ろっかな。」


「作る?」



「これに必要事項書いてね。」


胸ポケットからボールペンを出して渡した。



「書けた?」


「うん。」


新しいカードに今日の日付を書いて渡した。


「カードに名前書いて。」


「うん。」




「説明やんなきゃだめだからするね?」


「うん。」


「こちらのカードの有効期限は1年間です。」


「ふっ(笑)」


「更新の際は新たに更新料を頂きます。」


「くくっ(笑)」


「笑わないで!(笑)」

「紛失、盗難等ありましたら直ちにお知らせ下さい。」


「ははっ(笑)」


「何で笑うの?(笑)」


「仕事してんなぁと思って(笑)」


「もう、意味わかんない(笑)」


「わかったわかった。んで?(笑)」


「ご本人様以外はカードを使えま、もういいよ!(笑)」


「あははは!」


「これ、規約渡すから読んどいて!ばーか!」


「ちゃんとやれよ(笑)聞いてやるから(笑)」


「もう良いですぅ!」



その時、


「ソン・ユンくんじゃない?」


バイト仲間であるキム・セヨンが声を掛けてきた。

2つ歳上のセヨンの顔は強張り、ユンは笑っていたのに真顔になった。


「随分、仲良さそうね?」


「そうですね。仲良いですよ。」


「付き合ってるの?」


「はい。付き合ってます。」


「どうせまた遊びでしょ?」



(何?この雰囲気。2人…そうゆうことか…。)



「もう、遊びはやめました。」


「ふっ(笑)あっそ。」


ユンを睨むとついでに私まで睨んで売り場へ去って行った。



「もしかして付き合ってたの?」


「一回やっただけ。」


「はぁ。何であんな怒ってるわけ?」


「向こうは付き合う気でいたみたい。」


「なんで、バイト仲間にも居るんだよ(泣)ってか何人位やってんの?」


ユンは指を3本出し、その指を見た。


「え?ゼロ何個?まさか2つじゃないよね?」


「そんなわけないじゃん!」


「1つでも異常なんだよ!!」


「嫌いになっちゃう?」


「わかんない。」


「えー。」


「えー。じゃ無いよ…。」



口を尖らせ拗ねているユンを見て可愛いと思ってしまった。

何故だか嫉妬や嫌悪感も出て来ない。


「わかったから。もうちょっと待ってて。」



「お疲れ様でした。」


「どうせ遊びだから。」


「そうですね。そうかもしれませんね。」


「傷付く前にやめな?あんなの付き合う価値ないよ。」


「私は好きなので、それでも良いかなって思ってます(笑)お先に失礼します。」



「お待たせ。お腹空いた。何か食べよ。」


まだ拗ねている。

自分の行いのせいなのにこの男は!


私から手を繋いであげた。

嬉しそうな顔をするから笑ってしまう。


(はぁ。もう、どうでも良い。)



手っ取り早く近くの居酒屋に入った。



「嫌いになる?」


「ならないよ。」


「何で?」


「今、私が見てるユンくんは高校の時のユンくんと変わらないから。あの頃のユンくんは絶対にそんな事やらないよ。」


「アミ…」


ユンがまた嬉しそうな顔をした。


「私の知らない間のユンくんは正直どうでも良いの。今そんな事したら承知しないけど」


「絶対にやらないよ。」


「なら、もう、良い。私が責任持ってユンくんを引き取るよ(笑)」


「アミってホントいい女だな。」


「逃がさない様に頑張ってね(笑)」


「ウソク…」


「う、うん?」


「アミを取られて悔しいだろうな。俺だったら気狂ってるかも。」


「多分大丈夫だよ。普通にしてるよ。」


「内心はわかんないじゃん…。」


「だからって私をどうも出来ないよ?」


「うん、そうだけど…」


「ね、この後どうするの?」


「ホテル…泊まるでしょ?」


「うん。」





会計を済ませて1番近いホテルに向かった。

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