12/22(金) ねこじゃらし
「はいこれ。昨日持ってきてたのにさ、渡すの忘れてた」
しなくてもいい言い訳をしながら本を差し出すと、店員は「ありがとうございます」と言って受け取り、嬉しそうにぱらぱらめくった。
「ああ、いいですね……いい写真だ」
「好きそうだよね、こういうの」
薄暗い店内を見回しながらわたしが言うと、店員は「大好きですね」と返す。
「そうでなきゃ、こんな店やってませんよ」
「やっぱりお兄さんが店主なの?」
「ええ、まあ」
「ていうかわたし毎日来てるけど、定休日は?」
「今日はどなたもいらっしゃらないなという日は閉めてますが、定休日というのはありませんね」
「いや『今日はお客さん来ない』って、どうやったら事前にわかるのよ。予約制でもないのに」
「そりゃあ自分の店ですから、わかりますよ」
意味がわからない。が、この男にそういうことを突っ込んでも手応えのある反応は返ってこない。それがわかっているわたしは問いただそうとはしなかったし、「わたしのせいで休みがなくてごめんね」と言うのもやめておいた。休みたければ店を閉めればいいのだ。開店しているこいつが悪い。
そう自分に言い聞かせて、今日の箱を選びにかかる。昨日の猫の段ボールをもう一度開けたい気もしたし、リボンを眺めたい気分でもあったが、もうクリスマスまで秒読み段階に入っているのだ。ロスは許されない。
わたしは鋭い目で棚を睨みつけ、そして一つの箱に目をつけた。
「うわ、これ……ちっちゃい」
わたしの親指くらいのサイズの、細長い紙箱である。鉛筆のキャップくらいしか入りそうにない。蓋には緑の千代紙が貼ってある。
何が入っているのだろう。中身は軽そうだ。振ってみたいが、こういうのに限って二億だとか言い出すので、慎重に扱った方がいい。
装飾の綺麗な他の箱いくつかと迷ったが、私は十五分ほど悩んだ末に、この箱に決めた。ざっと見た感じ、この店最小の箱だと思ったからだ。
指先で丁寧に蓋を持ち上げる。中には薬包紙のような白くて薄い紙が敷かれていて、紙の端が中身にふわっとかぶさっていた。それを慎重にどかす。
「……ねこじゃらし」
極小の、ねこじゃらしである。ペットショップに売っているようなやつじゃなく、空き地に生えているエノコログサの方だ。綺麗にドライフラワーにされたのか、枯れ草色ではなく、くすんだ薄緑色をしている。
「これ、昨日の」
「両方買えないのはずるい、と言っているお客様もいらっしゃいましたね。ああほら、お嬢さんも会ったことのあるあの方ですよ。『管』の時の」
「うん、ずるいと思う」
昨日の猫と遊ぶのにぴったりの大きさだ。両方欲しい。だが、これ単体なら別にいらない。そっと紙を元に戻して蓋をすると、猫の段ボールの隣に置いておいた。
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