12/21(木) 文鎮
手に取ったのは、何日か前から少し気になっていたやつだ。手のひらサイズの、とても小さな段ボール箱である。意外に重い。
おとといのショックをまだひきずっているので、今日こそ当たりを引きたい。そう思いながら私は細い麻紐を解いて、蓋を開けた。中に入っていたのは、真っ黒でふわふわの丸いもの。
「これ……猫?」
「ええ。猫の文鎮です。ペーパーウェイトって言った方がいいですかね」
「ふわふわだけど」
「猫ですから」
やわらかい毛の生えたそれを、そっと掴み出す。敷かれている毛布のようなもののせいで見えなかったが、持ち上げるとちゃんと顔も耳も尻尾もあった。確かにぬいぐるみのような感じではなく、ペーパーウェイトとして使えそうな重さがある。
「かわいい……黒猫じゃん」
「ミケとかトラとか、いろんな柄のがあったんですが全て売れてしまいました。人気商品ですよ」
「わかる」
丸くなって眠る猫の置物は、すごく精緻に作り込まれていて、手のひらサイズでなければ本物と見紛いそうだ。毛皮のせいか、手のひらにのせているとじんわりあたたかくて――
「いや、これマジで体温ない? え、生きてる? あったかいんだけど」
「生き物をそんな箱詰めにするわけないでしょう。ペーパーウェイトですよ」
「ほんと?」
顔を近づけてまじまじと見る。呼吸に合わせて腹が上下していたり……はしない。寝息も聞こえない。毛はやわらかいが、たぶん中身は石のように硬くて重い。
「じゃあなんであったかいの?」
「さあ」
店員は肩をすくめ、わたしはもう一度じいっと小さな黒猫を見つめた。見てない隙に動き出しそうだ。
「……よしよし、おうちに帰りましょうね〜」
そう小声で言って、元の段ボールに戻してやる。背中を指先でそっと撫でる。可愛い。ベッドもおもちゃもおやつもいっぱい買ってあげたい。机の上にこの子専用のドールハウスを作りたい。
「うぅ……さすが人気商品」
天を仰いで呻き、この日は電車の時間ギリギリまで粘って猫を寝顔を眺めた。せっかく持ってきたのに、本を貸すのを忘れた。
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