12/18(月) 耳飾り
「ほら、やっぱり……」
見せつけてやるつもりでいたが、実際に蓋を開けてみると、悲しい気持ちになってしまった。大きなガラスのルースがひとつずつ、涙を流しているようなひと組の耳飾り。
「かわいそう」
「よくわかりませんね」
気づくと、すぐ後ろに店員がいた。淡くラベンダーの香りがして、手の中から小箱が取り上げられる。
「寂しそう、ねえ……どこらへんが?」
「光り方が。泣いてるみたいじゃない?」
「ふむ」
白手袋をした指先が耳飾りをつまみ上げる。夕日に透けて、青い光が消える。
「私は芸術家じゃありませんからね」
「芸術とか、そういう問題じゃなくて」
「では、スピリチュアル?」
「それもちがくて」
「まあ、ルースの色や年代を揃えてあるところからして、揃いで作られたという説には納得できますけれども。銀細工も同じデザインですし」
「でしょ!?」
「そうですね」
店員は頷いて、わたしの手の中に箱を戻した。わたしはがっかりして肩を落とした。
「誰か……家族で買ってくれないかな」
「なかなかいらっしゃいませんね、そういうお客様は」
「そっか……」
わたしの両親を連れてきたところで、なんの意味もないだろう。「こういうのがわからないタイプの人」なのだ。「あなたが結婚するって時になったら、買ってあげてもいいわよ」なんて笑ってバカにして、この子達の寂しさを感じ取るどころか、自分だけの一箱を選びたいなんて思いもしないだろう。
「……帰る」
「明日もお待ちしております」
店員がいつになく丁寧に頭を下げた。「明日は来ないかも」と言いたくなったが、それを言うと嘘になってしまうのでやめておいた。
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