12/15(金) 守り刀

 その日開けた箱に入っていたのは、白木の鞘に入った小刀だった。どれもこれも和風の箱は変なのばっかりなので、そろそろ当たりを引き当てたいと思って開けたら、これだ。


「まあ悪くはないけど、地味……」

「おやっ!!」


 と、その時突然店員が大きな声を上げて立ち上がったので、わたしは驚いて手の中のそれを取り落としそうになった。鞘から半分抜きかけていたところだったので、必死にこらえる。


「あっ……ぶな!」

「それをご覧になるならこちらを! さあ!」

「は? 何?」


 さあさあさあ! と謎のテンションで店員が押しつけてきたのは、小さめのハンカチくらいのサイズの和紙だった。


「なにこれ」

「懐紙ですよ。半分に折って口に咥えるんです」

「なんで?」

「刀身に息がかからないようにですよ、もちろん」


 時代劇とかで見たことあるでしょう、と言われたが、時代劇なんて見ないのでよくわからない。が、言われた通りわたしは紙を口に咥え、改めて鞘から刃を引っこ抜いた。


(……別に、普通の小刀?かな。鞘も無地だし、まあ、普通っていうか)


「素晴らしいでしょう。なんと銘は『吉光』。あの! 藤四郎作と言われているんですよ!!」

「ん?」

「作者です、作者! あの粟田口吉光の作だと言われているんです、それ!」


(いや、誰だよ)


 そう思ったが、口に紙が挟まっているせいでしゃべれない。日本美術史の授業ならあるが、まあ普通に絵が中心でちょこっと陶芸とかが出てくる程度なので、刀鍛冶の名前なんて出てこない。


 興味ないんだけど……と思ったが、店員のしゃべりは止まらない。


「ああ、見てくださいこの格式高い刀身のたたずまい! このやわらかにきらめく梨地肌、短刀の名手と言われるだけあって、この守り刀も」

「……てか今日テンション高くない? いきなりどうしたの? ちょっとキモいんだけど」


 刃を鞘に戻し、口から紙を外して問うと、店員はちょっとショックを受けた顔になって口を閉じた。流石に言いすぎたかもしれない。


「えーと、ごめんね?」

「私にそこまでの鑑定はできませんが、本物なら国宝になるかもしれませんよ」

「え?」

「本当は博物館にでも持って行った方がいいんですけどね」


 でも、そういうお宝を掘り出せるのも、一箱屋の醍醐味じゃないですか。本当の宝物が見つかったからって博物館へ寄贈しますじゃあ、ちょっと夢がないっていうか。


 再びあれこれ語り出した店員を尻目に、わたしは無言で守り刀とやらを箱に戻した。まあ、よくよく見れば刃文の繊細な色の変化とかが美しいのかもしれないが、興味ないものは興味ないのだ。

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