12/09(土) リボン
カラン、と乾いたベルの音。夕日を透かした色ガラス。
見渡す限りの箱、箱、箱。
どこか異界めいたその空間の常連として「今日はどれにしよっかなあ」と呟きながら入店できる特別感。
「これかなあ。どう思う?」
「お好きだと思いますよ」
美青年店員にそう言われたので、ちょっと気分を良くしながらそれを選んだ。ざらざらした白い紙の箱に、深い藍色のラベルが貼ってあるやつである。中身が入っていないみたいに軽い。
「これ、なんて書いてあるの?」
「
「違うって?」
「金平糖の空き箱に入れてあるだけってことです」
お菓子の空き箱って。
そんなんでいいのかと思ったが、まあこの店員にツッコミをいれてもスカした答えしか返ってこないので、黙って蓋を開けた。
「うわ……」
「綺麗でしょう」
うなずく。中身はリボンだった。幅広で、短めで、端が綺麗に処理してある、たぶん髪に結ぶためのリボン。
けど、その色がとんでもない。
「なにこれ、何でできてるの?」
「糸ですよ、そりゃ。リボンなんですから」
「そうじゃなくて」
蓋を開けた瞬間、「光が入ってる」と思った。
光でできた、白っぽいホログラムのリボンのように見えたのだ。
「さわれる……」
そうっとつまみ上げると、手触りは思ったよりもしっかりしていた。やわらかく、なめらかで、ちゃんと厚みがある。とてもそうは見えないのに。
「オーロラ、みたい」
口に出して自分で納得した。そう、オーロラみたいなのだ。「オーロラカラーのリボン」じゃない。北極の空でゆらゆら揺れているほうのオーロラだ。
実体がないみたいな儚い白に、鮮やかな緑とピンクが重ねられる。カーブしているところは強く、真っ直ぐなところは淡く。蝶結びにしたら、どんな風に見えるのだろう。
ちら、と箱を持ち上げて裏を見る。
買える。
「うぅ……」
「それにします?」
「いや。クリスマスまではじっくり選ぶって決めたから」
「左様ですか」
「………………うん」
名残惜しく蓋を閉じて、気持ち奥の方へ隠すように箱を戻す。店員がクスッと笑う声がしたが、そっちを見ないようにして「また明日!」と足早に店を出た。
美しいオーロラ色がまぶたの裏をちらついて、この日はなかなか寝付けなかった。
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