12/08(金) 笛
「よし、これなら大丈夫でしょ」
目につく範囲の中では特別可愛い、白木にトールペイントで花と小鳥が描かれている箱を手に取った。昨日の箱がまだトラウマなのだ。
「変なものじゃないよね、これ」
「少なくとも呪物の類じゃありませんよ」
含みのある言い方だが、とりあえず祟られたり呪われたりするようなものではなさそうだ。
「……やっぱ呪物なの? 昨日のやつ」
「そうじゃなかったら笑いますけどね」
「せっかく、アドベントカレンダーっぽいなって思ってたのに」
睨みつけると、店員は不思議そうにこちらを見つめ返した。
「
「ていうか、そういう名前の商品があるの。その日の日付のとこを開けたらチョコとかちっちゃいおもちゃとか出てくる、箱型のカレンダー。クリスマスまで一ヶ月くらい、毎日それでカウントダウンするの」
一日一個ずつ箱を開けていくのが、この店と似てない?
そう言うと、店主は「うちは神道ですから」とカウンターの奥の壁を見上げた。確かに神棚が飾ってある。
「いや、だとしてもクリスマスくらいやるでしょ」
「なんのために?」
本気でわかっていない様子の店員は、たぶん日本の街を歩いたことがないのだと思う。わたしに「情緒がない」みたいなことを言っておきながら、イルミネーションやクリスマスソングを楽しむ余裕もないのだ、この男は。
ダメだこりゃ、と思いながら蓋を開けた。
「あ、可愛い」
鳥の形をした小さな笛だ。
「カナリヤ?」
「どうぞ、吹いてみてください」
そう言われたので、ハンカチで少し拭って吹いてみる。ちょっと驚くようなリアルな鳥の鳴き声が出た。
「すご」
「鳥の声のする笛というのは世界中に存在していますが、私もこれ以上のものは知りませんよ」
「へえ」
「これがあれば、まずフラれることはありません。ほぼ確実に彼女ができますよ」
「は?」
「最強の美声なのだそうです」
十秒くらいじっくり考えてから、わたしは低い声でこう言った。
「つまり……これを吹くと、鳥の彼女ができるって言ってるわけ?」
「ええ」
「カナリヤの?」
「はい」
「なんで『彼女』限定なわけ?」
「歌を聞いて選ぶのはメスですから」
ああ、なるほど。いらないわ。
そう言って棚に戻すと、店主は「おすすめですけどね」と残念そうにしていた。わたしが買うかもしれないと思ったのだろうか? 「マジで? カナリヤの彼女ほしかったんだ〜!」って?
そんなだから閑古鳥が住み着いてるんだよ、と言いたくなったが、まあクリスマスも近いし勘弁しておいてやった。
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