12/07(木) ???
「おや、早かったですね」
「搬出しちゃったら逆にやることなくて早く終わった」
「なるほど」
どんな絵を描いてるんですかとか、何の展覧会ですかとか、そういうことを訊いたりはしないらしい。つまらないような、気楽なような。
「解放されて気分いいから、これにしよっかな」
お札の貼られた古い木箱を手に取る。ちょっと高めの湯呑みとか、そういうのが入っている感じの箱だ。サイズは手のひらに収まるくらいで、蓋に達筆すぎて読めない筆文字が書いてある。
で、その蓋を押さえるように、真ん中に「封」と書いた大きなお札が貼ってあった。他にも色々図形のようなものが書き込まれているが、何の意味があるのかはわからない。
「あ、これ一回開けてあるじゃん」
「買い取る時に中を見ましたからね」
「大丈夫なの? お札切っちゃって」
「
よく見ると箱の蓋と本体の境目のところで、カッターか何かでお札が切断されていた。「やばくない? お札ってさあ、なんか破ったり切ったりとかしちゃだめだった気がする」と言いながらも、中が見られてラッキーという気持ちで蓋を開けた。
「……やっぱ、やばいんじゃない?」
「特に問題は起きてませんけど」
「お祓いとかに持っていった方がいいと思う」
のんきに売り場に並べている場合じゃない、と思った。
中に入っていたのは、お札でぐるぐる巻きの丸っこい何かだ。
びっちり、隙間なく包まれている。そこまではいい。
「なんかこれ……血、じゃないよね……?」
札のあちこちに滲んでいる黒いシミを見て、小さな声で言うと、店員は「さあ、どうでしょうね」と肩をすくめた。
「ちょっと端っこの方を切り取って、調べてみます? たぶん通販で買えるでしょう、ルミノール実験キットとか」
「ほんとに血だったらどうするの?」
「どうもしませんけど」
「中身、何だと思う……?」
「子供の心臓」
さあっと青ざめたわたしを見て、店主が「冗談ですよ」と鼻で笑った。そう言われると、サイズも形もその通りにしか見えなくなってくる。
「はあ……なんでこんなもの」
そっと蓋を閉じて机に戻し、両手を制服のスカートにごしごしこすりつける。時間を見ると、電車までもう少しある。とりあえずわたしは、駅前の神社にお参りして帰ろうと決意した。
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