第388話 犬猿の2人によるプレー


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










「(室の代わりに…誰だこいつ?あいつの代役にしてはそこまで身長高くないな)」


 代わって入った光明の姿を観察する榊、身長は自分よりも低く高さが得意には見えない。

 あまりにデータが無いので未知数の相手、だが代表に選ばれてるという事は相応の実力を兼ね備えてると見て間違いないだろう。


 榊は警戒する目で光明を見据えた。



「こんの…!」


「っと、しつこく来んなお前!」


 ボールを再び持つ直人に想真が再び体をぶつける、再び兄弟での争いがフィールドで繰り広げられていた。


 だが直人の方が1枚上手か、フェイントを入れて想真を欺き一瞬引き剥がせば左を走る成海へとパス。


「(兄弟喧嘩もほどほどにしとけよっと!)」


 成海の前に直人のパスをカットする人物、FWながら何時の間にか下がっていた光明だ。


 そのままドリブルで上がり、成海が光明の後を追いかける。


「(左見てる…月城へのパスが来るか?)村山ー!」


 光明の視線が左サイドを向いている事に蛍坂が気づくと、そのサイドを守る村山へと注意するよう声をかければ彼は月城をしっかりとマークしている。



 彼のスピードは読んでいる、大丈夫だと思っていると光明は成海に追われながら左を見たまま左足で右へとパスを送っていた。


 成海のお株を奪うようなノールックパスで、右を上がっていたキャプテンマークを右腕につける辰羅川へと渡れば光明に代わって右サイドを駆け上がる。


「マーク外すな!」


 ゴール前、大城が照皇をマークしながらDF陣にコーチングを飛ばしていく。


 辰羅川に対して峰山が向かい、2人の右サイドライン際の攻防戦となると辰羅川はクロスボールを上げると見せかけてのキックフェイントを入れて峰山を欺く。


 だが峰山もしつこく食らいつけば、辰羅川のクロスボールを上げようとしたボールが峰山の右膝に当たり弾かれた球はゴール前に高く上がっていく。


 落下地点には榊、これを頭でクリアしようと飛んだ時。


「(!?高…!!)」


 榊に劣る身長で光明が高く飛んでいた、彼の跳躍力によって榊より高い位置でボールに届き額で捉える。


「うおっ!」


 予想外のジャンプから光明の高い打点からヘディング、叩きつけてきたボールを岡田は反応し、左腕でなんとか弾き出す。



「おっしぃー!岡田さんじゃなきゃ今ので決まってたかなぁ!?」


 思わぬビッグチャンスだったが決まらず、今のは岡田が上手かったと弥一は叫んだ。



「(マジかあいつ、そんなデカくない身長であんな高く飛ぶって…)」


 予想外の跳躍力を見せられ、彼を良く思っていない月城もこれには驚かされる。



 Uー20のCK、光輝が速いボールで照皇へ出すがこれは大城が頭でクリア。



 前半終了の笛はこのタイミングで鳴り響いていた。




「なあ、あんた前に俺が言ったの覚えてるか?」


「緩急つけろとかなんとか、だろ」


 ハーフタイムとなって休憩でベンチに座る月城、その右隣に腰掛けてきた光明。


「折角の練習試合だし、今試さない?失敗出来ないぶっつけ本番よりは気楽にやれると思うからさ」


 得意の速さに一工夫、それだけで彼はより強力な武器を手にする。

 先輩2人に長所を封じられている今、この練習試合の機会に試すべきだと光明は語る。


「それとも、このまま意地っ張りを続けて疲れて活躍出来ないまま交代を選ぶか?」


「選択肢限られるような事言ってんじゃねぇか…!」


 後者はどうやっても地獄行きのような選択肢、何のメリットも無い。


 月城もそれを言われては前者を選択するしかないと思っているが、彼の口車に乗っているようで気に入らなかった。


「お前の策に乗るんじゃねぇぞ、お前の策を利用して勝って俺がレギュラー掴むんだからな」


 あくまで自分が光明を利用する、そういった形で月城は彼に乗る事にしたのだ。


「(まあなんでも良いけどさ、勝てれば)」


 どっちでも光明には関係無い、彼が見ているのは勝利だけだった。





 後半はUー20の方に交代があり、政宗に代わって影山が投入。

 更に光輝に代わって明が入る。次々と新しい力をマッテオは試しているようだ。


 ボールを持つ明に蛍坂が激しく肩からぶつかる、しかし明はバランスを崩す事なくキープ。


「っ!(こいつ、結構強いな!)」


 大学で鍛えた強度にも怯む事のない明に強いと感じた蛍坂。


 すると明はぶつかり合いの中で左へとボールを出しており、それを受けた影山がすぐに折り返せば前へと走っていた明が受け取りに行く。


 だがそこに待ち構えていた大城、先に彼の長い脚が伸びて影山からのパスをインターセプト。



「下がってー、カウンター来るよー!」


 大城がボールを持つと弥一はカウンターが来ると察知、心での読み通り大城は右足のパワー溢れるキックで前線へと縦一直線のロングパスを送った。


 ロングシュートを思わせる程のスピードで飛べば中盤をすっ飛ばし、前に居る鳥羽へと渡った。


 そこに佐助が迫り鳥羽と争うと…。



 ピィーーー



 鳥羽を倒してしまい、笛が鳴ってファール。


 大学選抜のFKでゴールまでは30mにも満たないほぼ正面の位置だ。



「(FKとなればやっぱ来るよねあの人)」


 大門の指示で壁が作られる中、目の前でボールをセットするのは鳥羽だ。

 その姿を弥一は見ている。


 大学選抜内で1番のキックを誇るであろう鳥羽、大学で更に磨き上げた必殺のFKで狙って来る可能性は高い。

 かと思えばUー20エリア内には最長身の大城も入って来て彼の頭での狙いも匂わせた。



「(どっちだ…?直接?それとも…)」


 どちらかで来ると守備陣が予想する中、鳥羽は助走を付けてボールへと迫る。


 すると鳥羽は蹴らずに右足の踵でボールを後ろへと流した。

 これを直人が右足で直接蹴って狙う。


 壁の右横をギリギリ抜けてそこから曲がり、ゴールへと向かうカーブキックだ。


 鳥羽が蹴って直接狙うか大城の頭と思っていた守備陣、直人が蹴って来る事に意表を突かれてしまう。



 だが1人、事前に作戦を心で読み、トリックプレーを見破っていた。


「甘いよー!」


 弥一が左足のボレーで直人のカーブキックを蹴り返して粉砕、このFKを阻止して得点させなかった。



 更に彼の蹴り返した球はそれだけじゃ終わらない。


 1人前へと残っていた月城がこれを追っており、ボールに追いつこうとしていた。


「(まともに競えばやっぱスピードはあいつが上…けどボールを持った時なら!)」


 これに村山も追っている、月城が1人残っているのを見れば彼もマークとして残っていたのだ。

 同じチームで過ごし彼のスピードは分かっている、人間1年程でそう簡単に速くなるものではない。


 彼がドリブルでスピード重視するならと計算していく。


 だがボールに追いついた月城はその場でピタッと急ストップをかけた。


「っ!?」


 カウンターで速攻が求められる、スピード自慢の月城なら尚更飛ばすはずだと思っていた村山は急に止まれず意表を突かれてしまう。


 そこから左サイドではなく中央へと向かうドリブルを月城が仕掛ける。


 大城が上がってしまって手薄な大学選抜の守備陣、予想外だった弥一と月城のカウンターに榊が戻れと叫び岡田はディレイと叫ぶ。


 月城の前には泉谷が迫っていた。


「(ムカつくけど譲ってやるよ畜生!)」


 左足でパスを出した月城、ボールは右斜めに出され榊の裏へと抜けると榊の後ろから飛び出し疾走する光明の姿があった。


「やろっ!!」


 GKと一対一になる、素早く察知した岡田は早めに飛び出してシュートコースを狭めに光明へと向かう。


 大胆にも飛び出して来た岡田だが、光明はそれを慌てずワンフェイントで躱すと無人のゴールへと右足で蹴り込む。



「ナイスパスだったよ月城ー」


 練習試合ながらUー20となったチームで初ゴールを決めた光明、良いパスだったと右手親指を立てて称賛する。


「ふん…お前もまあまあ良い走りだった」


 俺程じゃないけどな、と付け足しながらも月城は称賛し返す。



「(と言っても今のは俺達の力30%ぐらいで、70%はあっちの手柄なんだけどなぁ)」


 月城と話した後で光明が見つめる先はゴールを喜ぶ弥一の姿。


 FKのシュートを蹴り返してカウンターにするなどプロでも簡単に狙って出来る事ではない、それを彼はやってしまった。



 凄いのが日本の代表にいるもんだなと思いつつ光明は位置へと戻っていった。





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