第385話 アドバイスの中で起こるトラブル


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「おー、あったあった」


 光明が代表に合流して練習を終えたその日の夜、夕飯後に弥一はスマホを使って検索していた。


 代表へ呼ばれる程だ、なにか目立った実績があったんじゃないかと源田光明の名で調べてみればそれはあった。


 ただ想像とは違う実績だが。



「お前ブラジルに4年居たのかよ」


「正確には居る、だけど。まだ離れる予定無いからさ」


 光明の周りには人が集まっていた、初対面でどういう人物なのか気になりつつ積極的にそれぞれ交流を深めようとしている。


「それで俺らを知らない訳や、向こうやとテレビで高校サッカー流れんと思うしネットで見ない限り知る機会無いやろ」


 そう言う想真や代表に選ばれた高校生は選手権等で知られ、結構有名なつもりだ。

 だが光明は彼らの事を知らない、代表に自分の名が載った時に彼らの顔写真と共に名を見た程度だった。


 サッカー王国ブラジルでわざわざ日本の高校サッカーをテレビで流したりはしないだろう。


「知らないけど、上手いんでしょサッカー?でなきゃ代表なんて呼ばれないから」


「まあそりゃあ…なぁ」


 平然と言う光明に佐助、政宗の兄弟2人は互いの顔を見る。

 自分が監督で選ぶ立場でも下手な選手は呼ばない、上手い実力者を選ぶはずだ。



「(ちっ…いきなり来てデカい面しやがって、何様だよあのガキ)」


 光明を囲む輪から離れた場所で1人面白くなさそうな顔で月城がそれを見ていた。

 ブラジルに居たとはいえ、何の実績も無いほぼ無名な年下の光明。


 彼に好き勝手振る舞われるのは気に入らないと思っている。



「(わー、一悶着ありそうな予感ー…)」


 それを弥一も月城から離れた場所で、彼が光明を良く思っていない事を心で知ってトラブル起こるのではと予感する。




「悪い弥一、ちょっと背中押してくれ」


「ん?ああ良いよー」


 翌日の練習、そのアップで昨日光明と組んでいた番は弥一に柔軟の手伝いを頼み後ろから背中を押してもらう。


「昨日から結構柔軟やるようになったみたいだねー」


「あー、まあな」


 光明から柔軟をやった方が良いと勧められ、積極的に行う番。


「やっぱあの空手チャンピオンに何か言われたのかな?」


「え?空手チャンピオンって…」


 何故急にそれが出て来るんだと、柔軟をしつつ弥一の言葉が番は気になってくる。


「昨日調べたんだよねー、彼って小学校の時に空手の全国大会や世界大会で優勝してるんだ」


「空手の…全国と世界大会!?」


 サッカーとは違う分野で日本一、世界一を経験していると聞かされ思わず弥一の方へと振り向く番。

 そんな経験をしているのはテニスの方で、全国優勝を味わった春樹ぐらいかと思えば他にもまだ居た事に弥一も知った時は驚いたものだ。




 彼が空手使い、それも世界一を経験する程と聞けばその後のパフォーマンスは納得だった。


 佐助と並走して体のぶつかり合いでバランスを崩す事なく争い、ボール捌きだけでなく身体能力も高い。



「うおわ!?」


 更に守備もこなせると言うだけあり、光輝とのデュエルで隙を突き右から抜きにかかった所へガツンとショルダーチャージでぶつかる。


「上手いけど、体はあんま強くないね。特に首が弱い、上半身のウェイトトレーニングちょっとやった方が良いと思うな、でなきゃ海外の当たりには耐えられない」


 そして止めた光明は相手をしていた光輝の短所を指摘、抜群のテクニックを誇る光輝だが上半身が弱めであり優勝したとはいえフランスの時は屈強な海外選手のハードマークに苦戦。


 おかげで満足するチャンスを思ったより作れなかった、その事を見抜いたように光明は助言する。


「せやな…アジアとかも中東辺りエグいぶつかり方してくるやろし、取り入れてみるわ」


 上半身をもっと積極的に強化、光明の当たりの強さを体感した光輝は彼のアドバイスを受け入れた。




「こっち!そら!」


 実戦形式の練習、赤組白組へと分かれての戦いで月城は得意のスピードを活かし左サイドを駆け上がりチャンスを作る。


「くっそ!やっぱ速いわ!入れさせんなー!」


 相手の想真がその速さに軽く愚痴りながらも、中へのドリブルでの侵入は許すなと指示。


 光輝とのワンツーで相手を突破し、月城は目の前まで迫る冬夜が完全に来る前に左足でクロスを上げた。



 これを室が合わせて空中戦で想真に競り勝ちヘディングを叩きつけ、ゴールを守る五郎が左手1本で弾き出す。


「あー、おっし!けど良い感じー!この調子で行くぞー!」


 惜しくも最後決まらなかったが悪くない、調子は良いと月城は感じていた。



「あんたって随分と効率悪い走りが好きなんだなぁ」


「…ああ?」


 ゲーム終了後、光明が月城の走りに問題があると言いに来れば月城はそちらを向けばギロっと睨むような目をしていた。


「スピード速いんだけど、なんつーか…単純」


「!?」


 速いスピードを誇る月城、その彼に対して単純だと光明はダメ出し。


「ワンパターンに速さでゴリ押しは格下には通じても格上にはあまり効かないって、緩急も付けようとしないなら相手にこの速さで行くとご丁寧に教えてあげてるようなもんだし」


 巧い格上の相手に月城は通じない、そう言い切る光明に対して月城はカッとなる。



「てめぇに何が分かんだ!このぽっと出野郎が!!」


 気付けば光明の胸ぐらを乱暴に掴み上げて怒る月城。


「そんな怒るって事は、あんたも実は分かってるとか?このままじゃ自分は通じなくて出番無いかもしれないってさ」


「ガキ…!!」


「落ち着け月城!」


 このままでは喧嘩が起きかねない状況、そこに同じ八重葉の先輩である照皇が止めに入って月城を光明から引き離す。


「すまん、源田。うちの者が」


 照皇は光明に対して謝る、同じ八重葉として連帯責任があると感じていた。



「(高校サッカーを見てなくて俺らを知らない野郎に何が分かる…!俺はこうやって来てんだ、今までも…これからも!)」


 番や光輝達が光明に言われてアドバイスを受け入れる中、月城は自分のスタイルを曲げる気は無い。




「大丈夫ー?彼ってプライド高くて血の気が多い所あるからさぁ」


 照皇達が光明から離れたタイミングで、入れ替わるように弥一が話しかけに行った。


「日本のプレーヤーは礼儀正しくて大人しいって感じだけど、ああいうのも居るもんなんだな」


 特に気にしていない様子の光明、月城に対して嫌いだったり苦手だと思うどころか珍しいタイプだなと思っていたようだ。


「まあ、そういう人は何人かまだ居るねー。おっかないFWの人とか」


「へー…優等生ばっかじゃないんだな」


 弥一の頭の中で浮かぶのは狼騎の姿、彼もそういう日本人のタイプではない。むしろ今の代表の中で誰よりもそれに当てはまらない人物だろう。


「ね、僕にも何かアドバイス無いかなー?」


 すると弥一は皆へアドバイスを送る光明に対して自分にも何か無いかと、興味深そうにじーっとその顔を見上げていた。



「……」


 最年少の自分よりも年下に見える弥一、その姿を光明は見下ろしている。


 明らかに細い、背が低く体が強く無さそうだ。彼も光輝と同じかそれ以上の弱点があると思われる。



「(何だ…?明らかに小さい子供みたいなのにこいつは…)」


 だがそれを指摘する事は無い、というより出来ないという方が正確かもしれない。


 彼の雰囲気、オーラが指摘を許さなかった。こんな奴は初めてだと光明は感じる。



「あえて言うなら、コンディションを崩さないように…かな。君、多分何よりもこのチームの鍵を握りそうだから」


「あー、これから海外へ行くからねー。コンディションは大事だよね、うん。気をつける♪」


 明るく微笑む弥一、そんな子供みたいな顔に光明は本当に俺より年上かと疑ってしまう。



 トラブルもありつつ、合宿の日々は続き大学生の選抜チームとの練習試合、その時は迫って来ていた。




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 此処まで見ていただきありがとうございます。


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 大門「何かトラブルあるかと思ったら…月城と源田、大丈夫かなあの2人」


 優也「知らん、それより俺らはレギュラー目指して練習やってくしかないだろ」


 弥一「おー、今日のビュッフェに美味しそうな炒飯あるー♡」


 大門「あっちは何時も通りか…」

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