第374話 崩れ始めた参謀
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『前半は0ー0、立見は前半に石田負傷という大きなアクシデントが起こりましたが後半にどう影響してくるか?』
『両チーム選手の交代がありました、立見は負傷した石田君が下がり三笠君。牙裏は左SHの若松君に代わって風見君が入ります』
『やはり石田君は続行不可能でしたか、牙裏はこのタイミングで風見君と畳み掛けに来ましたね』
ハーフタイムが終わり、後半戦を戦う選手達が歓声を浴びながらフィールドに姿を見せる。
今度は立見からのキックオフでセンターサークルにはFWへと上がった明、トップ下の川田がセットされたボールの前に立つ。
「川田があの位置に?ボランチじゃなくなったのかあいつ」
佐竹はセンターサークルに立つ川田へと視線を向けており、彼がそこに居るという事は本来の守備的位置でなく今の川田は攻撃的な位置だと分かった。
「関係無い、正二が入ったし左から崩すぞ。バタバタする中で作られた急造の陣形なら脅威でもなんでもない」
本来の陣形でなければ力は落ちる、一気に仕留めようと春樹に対して佐竹は頷いた。
ピィーーー
後半が始まり明が軽く蹴り出すと、川田が受け取り後ろへと下げて三笠がボールを持つ。
「わっ!?」
そこに狼騎が早くも三笠に対し、寄せて来て三笠は驚きつつもなんとか奪わせまいとボールをキープ。
「こっち!」
同じ1年の立浪が声をかけると三笠は右のヒールで後ろへパス、これを再び狼騎に詰められる前に立浪は右足で大きく前へと蹴り出す。
「狙われてるよ三笠ー、しっかりー!」
落ち着かせようと弥一が三笠に声をかける中、狼騎がまだ後半入ってこの試合に慣れきっていない三笠を狙ってボール奪取を狙っていたのだと気付く。
後半もやる気充分、狩る気満々だなと思いつつ前へと向かって弥一はコーチングで指示。
「左抜けるよ左ー!」
弥一から左と言われて玲音がこれに動く、前半の終わりに気を抜いて通してしまった事を引きずっていると見て牙裏の右を守る丸岡をターゲットにしたようだ。
「っ…!」
玲音の動きを当然無視や放置は出来ない丸岡、視線が玲音へと向いてマークする。
前の方で相手と体がぶつかりながらも大柄な体格を活かし、川田は相手の岸川を跳ね除けて前を向いた。
そこから得意の左足、やや距離がありながらロングを狙ってシュートに行く。
「うぐっ!?」
川田のパワーある長距離砲を津川が左肩で受けると激しい痛みが走り、顔を歪めつつ肩を抑えてしまう。
その間にセカンドボールを明が取ればチャンスと見てドリブル。
「っ!」
だが春樹、但馬の2人がかりで明のドリブルをなんとか阻止。
但馬がボールを蹴り出しピンチを凌ぐ。
『立見、川田のシュートから緑山が拾ってゴールに迫るが、牙裏2人がかりの懸命な守備で守りきった!』
『これは牙裏にとって怖い攻撃ですね、川田君ならあの距離から決められる力がありますし、緑山君は非常にテクニックに優れてますから彼のドリブル突破とか鍵を握りそうですね』
プレーが途切れたタイミングで春樹は近くの選手を集めると、フィールドにて緊急会議だ。
「川田に何本も撃たれると面倒だ、但馬。あいつに付け」
「おお、けど中がそれで空いちまう…氷神兄弟に入られると不味いぞ」
「そこは僕がカバーする、後は奴のコーチングに惑わされるな。左と言われて何人かそっち意識して川田へのチェックが遅れてたしな」
弥一が左と言っていてそちらを狙ってくる、そちらへと何人か意識が向いて川田にシュートを許した事へと繋がったのだと春樹は話す。
「煽りだけじゃなく奴のコーチングも完全無視だ」
「ええ?完全無視ってそれは…」
一切惑わされるな、但馬が無茶だと思う中で煽りに加えて弥一の指示もフェイクの可能性が大いにあると見て指示を伝える春樹。
後半開始前に言われた弥一の言葉への怒りを残しつつ…。
「(はぁっ…落ち着け…落ち着け…煽りが得意なのは分かっている、思い悩めばそれは弥一の術中にはまってしまう…!)」
心で強く落ち着けと自らに春樹は言い聞かせていた。
イタリアでどんなに強くなろうが心技体、全てにおいて弥一に負ける要素は無いはずだ。
動揺さえしなければ確実に勝てる。
立見は三笠のスローインから影山が胸でボールをトラップし、弥一へとパス。
「上がって上がってー!ロング行くよー」
ボールを持ちながら弥一は声を出していく、彼のコーチングは無視しようと決めた牙裏。なのでロング行こうという弥一の言葉は無視していた。
だが、その言葉通り弥一の左足から一気に縦へのロングパスは出る。
「(な!?マジで来やがった!)」
ロングパスは無いと思っていた但馬、それが影響して川田との空中戦で対応が遅れてしまい川田の頭が競り勝つ。
こぼれたボールを詩音が取るが、そこに春樹がすかさず寄せて来た。
「っ!と…!」
春樹の厳しい寄せに詩音はボールをキープするので精一杯。
なんとかパスしようと試みるが、再びボールはこぼれて佐竹がこれを取った。
「カウンター!!」
その瞬間に怒号のような春樹の声が飛ぶ。
「右気を付けろ!来てるぞ!」
後ろに下がりつつ間宮は上がって来ている正二の姿を捉え、注意するよう田村へと指示。
一方で牙裏の方は佐竹から下がった位置で高柳がボールを受け、そこからドリブルで行くかと思えば左へのパス。
上がって来た春樹がこれをトラップして前を向く。
『牙裏良い連携!天宮がゴール前に来ている!』
此処まで多くの得点をDMFながら決めているせいか、牙裏の応援席から大きな歓声が上がってきた。
そこに春樹を止めようと間宮が迫る。
春樹の視線は真っ直ぐ間宮へと向いて、このままドリブルで来るのかと間宮は身構える。
「(来るなら来な!)」
牙裏の中で狼騎に並んで要注意のプレーヤー、止められないと1点の可能性が非常に高い。
この時、春樹の視線は下の方へと向いていた。
「!」
右か左、どちらのフェイントでもなく股の間からボールを通す気かと間宮は読み、下へと意識し警戒。
だが春樹の狙いは違う。
下へと向いたまま器用に、左足の踵で蹴れば間宮の頭上をボールが越えていく。
難しい股抜きと見せかけた突破、春樹が間宮の左を抜いて蹴り上げた球へと迫る。
「「(通行止めっとー!)」
「!?」
春樹が追いつきチャンスかと思えば、間宮の後ろに弥一が音もなく忍び寄ってフォローし、左足で思いきり蹴ってクリアしていた。
ボールは牙裏陣内まで行き、右のタッチラインを割ってスローイン。
立見の闘将である間宮を抜いたはずだった、だが後ろに居た弥一に止められ、春樹は何故気付けなかったと悔しさを見せる。
「(くそ…!弥一が狼騎のマークを放って来ていたなんて、だったらあっちフリーだったじゃないか?何故気付けなかった…!)」
弥一は狼騎の相手で手一杯、そう思っていたがこっちへと止めに来るとは思っていなかった。
「ねえ春樹さん?」
「!」
いつの間にか再び弥一が春樹の隣に立っていて、マイペースな笑みを見せていた。
「強くなったけど、弱くなったよね」
「…!?おい、それはどういう意味…」
それだけ言い残すと弥一はさっさと離れて行った。
「おい弥一!」
「春樹、だから無視しろって!お前が守れてねぇだろ!」
「っ!」
弥一に追求しようとする春樹を止める佐竹、お前が一番今術中にハマってるぞと注意。
アクシデントで立見が不利な状況に追い込まれる、だが弥一が春樹の心を動揺させた事によって牙裏の歯車が狂い始める。
その結果、狼騎に中々渡らず彼はまだボールに触れられていない。
「(あの野郎…笑ってられるのも今のうちだ…!)」
虎視眈々と弥一を狩る時を狙い、狼騎はコーチングを積極的に行う弥一を見据えていた。
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此処まで見ていただきありがとうございます。
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詩音「今回は僕達に質問かー」
玲音「男と分かった後でも言い寄られた事…うん、あるねえ」
明「あったのか…そいつ見境ないな」
詩音「勿論お断りしたけどねー、普通に無理だもん」
玲音「そうそう、1回目でもうお断りしたからね。しつこく来ないでほしいよ」
摩央「お前らに言い寄ってたのが弥一だったら付き合ってたかな?なんて…」
詩音「…」
玲音「…」
摩央「そこ、サッカー以上のマジ顔で考え込むな」
明「あー…質問の方まだまだ受け付けています…」
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