第373話 ハーフタイム後の揺さぶり
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「立見は災難だなぁ、負傷者が出るなんて」
「それも1年だけど高さで圧倒的な強さを持つ石田半蔵、彼の戦線離脱は立見にとって大きいと思うよ」
「と言うと?」
前半が終了し、ハーフタイムへと入って両チームがロッカールームに引き上げる姿が見える。
空き時間を利用して愛奈は2人分のホットココアを買って来ると千尋に差し出し、自分の分のココアを飲み始めた。
「立見には前線に高さある選手があまりいないの、氷神兄弟とか控えの歳児優也も小柄だし。あれだと高さを使った攻撃が今後は難しくなるから、彼の離脱は大きな痛手になってくるはずなんだよね」
立見の選手で高いのは主に後ろのDF陣、前線は半蔵以外に千尋が把握している限り半蔵のような190cm越えは勿論、180cmクラスの攻撃的な選手はレギュラーにいなかったはずだと。
「という事は後半、牙裏が優勢になると見て良い?」
「それは分かんないなぁ、向こうがハーフタイムでなんの対策もせず後半臨むっていうのは無いだろうし」
厄介な高さが消えたので後半は牙裏が有利になるのかと、愛奈は単純に考える。それに千尋はうーんと考え込んでいた。
とりあえず確実なのは今立見は不利な状況、後半に向けての対策を彼らは必死に考えている時だろう。
牙裏ロッカールーム
「まずは絶対王者相手に0ー0、良い前半でした」
前半を戦い抜いた牙裏の選手達がロッカールームで各自休む中、松永が前半よくやったと褒めの言葉を送っていく。
「これに関しては五郎がよく守ってくれた、ナイスセーブだったぞ」
「あ、いえ…選手達がコース切っていたのもあってのおかげで」
春樹が五郎を褒めると照れた様子で謙遜する、前半に再三の好セーブでピンチを救った牙裏の小さな守護神がいなければ、此処までの無失点も前半のスコアレスで折り返しも無かったかもしれない。
「相手には悪いけど、立見の厄介な長身ストライカーはあの様子だと後半は無理だ。そうなると代わって前線に来るとしたら歳児優也、または氷神兄弟のどっちかになる可能性が高い」
後半に向けて春樹が話し始めれば、牙裏の参謀の策に皆がドリンクやタオル片手に耳を傾ける。
その中で狼騎は1人壁に寄りかかってドリンクを飲んでいた。
「だとしたら警戒するのはグラウンダーのクロスか、あいつらその辺りを合わせるのがお手の物だったな」
「あえて裏をかいて高さで来るかもしれないが、向こうの位置をしっかり把握してマークを怠らなかったら急なハイボールも対応可能なはずだ。丸岡、今度は気を抜くなよ?」
「悪い…まさか神明寺があそこからまた来るなんて思ってなかった」
但馬と話し合い、丸岡に前半の終わりで気を抜いた事をしっかりと指摘して春樹の話は続く。
「正二、アップはしっかりしてきたんだろうな?後半頭から出てもらう」
「!うっす!」
国立の決勝戦、憧れていたフィールドに立てると正二は気合い充分だ。
「(立見は石田が抜けた事でバタついている、おそらく想定外の交代。此処で正二のスピードで掻き回していく、今が投入にはベストなタイミングのはず)」
攻めるなら今だと判断した春樹、立見が最も混乱して隙のある時に畳み掛けようと正二というカードを躊躇なく切っていた。
これで立見の守備を破壊しに行くつもりだ。
立見ロッカールーム
「やはり石田はこれ以上の試合続行は無理か」
ドクターからの判断は☓、今日の決勝戦でプレーする事はもう出来ない。
半蔵の離脱を薫は静かに聞いて受け入れていた。
「これ、余計負けらんなくなったよね」
「半蔵って真面目だからね、自分が離脱しなければって多分重く受け止めて落ち込みそうだよ。負けた時は」
同じ1年で中学時代から半蔵を知る氷神兄弟、真面目で責任感の強い彼ならそう考えてしまうだろうと。
「ただ…半蔵が抜けたとなると…ハイボールを使った攻めは後半、難しいと思う…」
「だよねぇ…後半は無しで行こうか」
前半は彼の高さのおかげで攻められた、その部分が大きかっただけに半蔵の離脱は痛い。明はハイボールをあまり上げずに攻めた方が良いかと考えている。
「DF側から言わせれば、グラウンダーの方に的が絞れて守りやすいねそれは」
DFの立場で考え発言する弥一。
「高さのストライカーを失ってもこっちには高さあるんだぞ、と思わせる必要はあると思うよ」
向こうに的を絞られればそれだけ守られやすい、守備側を惑わせるなら高さあると思わせた方がプレッシャーのかかる1点を争う攻防、それに加えて選手権決勝戦という大舞台で彼らにかかる負担はこれだけでかなり違ってくるはずだ。
「後半、石田に代わり三笠を入れる。明をFWに上げて空いたトップ下に川田、更に空いた位置に三笠だ」
薫から後半に向けての作戦が伝えられ、まずは半蔵と交代で三笠。不在となったFWの位置に明、その空いたトップ下へ川田を持っていき更に空いたボランチの位置に三笠とポジションを入れ替える。
万能な明をFWへと持っていき、その後ろに川田。更に引き続き左右に氷神兄弟という後半の攻撃陣だ。
システムに変更は無い。
「マジで?俺がトップ下…」
まさかこの決勝戦で自分が花形であるポジションをやるとは思わず、川田は驚いた顔を見せていた。
控えに武蔵が居て彼がトップ下を出来るはずだが、交代のカードを一気に此処で2枚切るのはまだ早いと思ったのかもしれない。
「いけるいける♪もっちゃんなら長距離のキャノン砲あるし、何より背高いよねー?」
「それはまあ…高いな」
外から強烈なシュートを狙える川田、それに加えてヘディングも得意。長身の彼がより前に居る事でハイボールの可能性を匂わせる事が出来る、弥一はピッタリだと川田のトップ下に賛成だ。
後半に向けての布陣は決まり、立見の選手達はロッカールームを出てフィールドへと向かう。
そこには牙裏も歩いており、彼らも戻る最中のようだ。
すると弥一は春樹の姿を発見し、フィールドへと向かう通路を共に並んで歩く形となる。
「やるもんだねー…凄いよ春樹さん」
「なんだ、おだてても何も出ないぞ?」
互いに前を見据えて進んだまま弥一は称賛するような言葉を口にする。
お得意の心理戦で揺さぶりにでも来たのかと春樹が返事に対応した後の事だった。
「やっぱあの人の金魚のフンやってただけの事はあるよね」
「…!」
次に弥一の発した言葉に春樹は反応し、歩いていた足が止まる。
試合前に春樹が弥一に対して抱いていた敵意、それを弥一は最初から分かっており此処でその言葉を口にした後で一足先にフィールドへ戻って行く。
「おい、春樹…!あれだけ神明寺の言葉には耳を貸すなとか口酸っぱく言ってただろ…!?」
「…わかってる、大丈夫さ…奴の思惑には乗らない…」
何やら弥一に吹き込まれたっぽいと見て、後ろを歩いていた佐竹が駆け寄り春樹の右肩に左手を置いて話しかける。
心理戦で揺さぶるのが得意である事は事前に打ち合わせ済み、春樹は動じるなと己に言い聞かせた。
だが弥一の言葉をかき消す事は出来ず心に残ったままだ。
弥一の言うあの人、それが勝也を指している事が春樹には分かった。
「(弥一…!僕にそんな言葉を吐いた事を後悔させてやる…!!)」
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マッテオ「まさか呼ばれるとは思いませんでしたね」
弥一「日本の食と文化、美味しいの沢山あるし楽しい事もあるからねー♪」
マッテオ「私としては寿司を食べながらアニメや漫画を見る…いや、天丼も捨て難いですね。それで見ながらでも…」
弥一「アニメや漫画は動かないんだねー」
マッテオ「そこは不動です、ああ。折角だから寿司でも食べに行きますか?話していたらえんがわや海老が恋しくなりましたよ」
弥一「魅力的な誘いはありがたいけど、デートの方に誘われちゃったんでお断り♪あ、質問の方まだまだ受付中なので遠慮無しで送って来てくださいー」
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