第372話 ハーフタイム直前のアクシデント


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 真冬の寒さはフィールド上で繰り広げる熱戦がいつの間にか忘れさせてくれる。


 前半30分辺りとなって走り回る選手の頬から汗が滴り落ちていく、立見は執拗に半蔵の高さを使いチャンスを広げようとしていた。


『石田と但馬の頭!石田が落として緑山だ!』


 玲音の左から上がったアーリークロス、今日何度目か数え切れない半蔵と但馬の空中戦を半蔵が制すればポストプレーで明へと繋ぐ。


「(そんなワンパターンな攻め、何度も通すわけないだろ!)」


 しかしこのポストプレーを読んでいた春樹、明の前に立ち塞がると先にボールを取る。


「っ!」


 明はボールを取ろうとするが、春樹が腕を上手く使い明を近づけさせずキープ。


 牙裏のゴールへと向いた状態で春樹は五郎へと、明を背負いつつ右足でパスを送った。


 半蔵がこれに走り迫るが、その前に五郎は前へと思いきり蹴り出す。

 奪うとまでは行かずともGKにプレッシャーをかけ、キックの精度を狂わせようという半蔵の狙いだったが五郎のキックは正確に中盤の佐竹へと飛んでいた。


「川田離れるな!草太右上がってるぞ!」


 闘志を押し出しつつ冷静に後ろから状況を見て、間宮が各自に指示を飛ばす。


 川田と佐竹のヘディングの競り合いからボールがこぼれ、岸川が向かうが影山の方が先に取って牙裏に攻撃をさせない。



「(弥一は…狼騎の所か、今そっちの相手で手一杯だから今の守備に参加しなかった…)」


 立見の守備を観察していた春樹、彼無しでも立見は間宮、影山、田村の3年を中心とした連携の守備が堅く崩すのは容易ではなかった。


 この状況を見た春樹の口元には笑みが浮かぶ。




『再び立見、右サイドから氷神詩音!再び右から高いクロスが上がる!!』


 玲音がやったアーリークロスを詩音が今度は右から上げる、牙裏のDF陣としてはそう来るのが分かっていたが192cmの高さを誇る半蔵には高さで中々勝てない。


 位置はエリアの外、そこからヘディングは流石に無いだろうとポストプレーの読み。


 再び半蔵と但馬の空中戦となるが半蔵の頭は今回ボールを捉えられなかった。


「(そんな何度も同じパターンじゃないってね!)」


 ミスかと思えば、中央へと移動していた玲音がその先に待つ。

 半蔵のスルーから玲音の右足が球を撃ち抜く。


 勢いは充分、エリア外からのダイレクトボレーが牙裏のゴール左へと向かう。


 これに五郎は反応すればボールに向かい低いダイブで飛びつき、両手でしっかりとキャッチしていた。


「ええー!?これも駄目!?」


 玲音の中では良い攻めのつもりだったが再び五郎に防がれ、両手で頭を抱えてしまう。


 すると五郎はすぐ立ち上がり、前線へと向かってパントキック。ボールはセンターサークル付近まで伸びれば、そこに待っていたのは春樹だった。


 ボールを左足で受けて足元に収めると前を向いてドリブル。

 前がかりになっていた立見の中盤は薄め、今が攻撃チャンスだと春樹は攻め上がり佐竹へとパス。


『三好から天宮、佐竹と出して再び天宮!良いワンツーだ!』


 佐竹は背後に川田を背負いながらもボールをそのまま右へと流す。

 そこにパスを出した直後に走っていた春樹が追いつき再びボールを持つ。


「(不味い!)」


 此処で止めなければと影山が春樹へと向かい、止めに行くが春樹はその動きが見えていた。


 対峙したかと思えば瞬時にくるりと影山の前で右へと半転、自らの体を壁にして相手をボールに近づけさせず前を向けば春樹の右足からシュートが飛び出す。


 咄嗟に左足を出した影山のブロックも間に合わず、得意とするミドルレンジからのシュートが弾丸の如く勢いで立見ゴールを襲う。


「ぐっ!」


 これを立浪が左肩に当ててブロック、ボールは転がりセカンドとなる。

 立見としてはなんとかこれをクリアしていきたい。


 だがゴール前でセカンドとなれば牙裏には誰よりも早く反応する存在がいる。


 狼騎が動き出し、こぼれ球へと早くも詰めていたのだ。


「やばい撃たれる!!」


 エリア内で狼騎にシュートされれば不味い、ベンチから思わず摩央が叫ぶ。


 足を振り上げず、素早くシュートする事を意識して狼騎は左足のトゥーキックでボールを当てる。


 だがそこに弥一が滑り込んで来て狼騎のシュートをスライディングでブロック。


「…!」


「ナイスブロック弥一!」


 ボールが跳ね上がり、ゴール前に上がったボールは大門がジャンプしてキャッチすれば弥一のプレーを褒める。


 防がれた狼騎は弥一へ怒りに満ちた目を向けた後に戻って行く。



「ふう〜、去年の照皇といい今年は酒井にヒヤヒヤさせられるな…」


「杉原君、そろそろハーフタイムだからドリンクとタオル用意しに行くよー」


 ホッと一息の摩央に時間を確認した鞠奈が声をかけ、摩央や彩夏達マネージャーと共にドリンクとタオルの用意に入る。


 そんなつもりで入った訳ではないはずのマネージャーの仕事、気付けば鞠奈はすっかりと手慣れていた。




『前半も残りは1分とアディショナルタイムを残すのみとなってきました』


『牙裏の方も盛り返して来ましたね、流れが傾きつつある中で1点と行きたい所ですがこのまま0ー0でハーフタイムですかね』


 前半も45分を迎えようとしていてスコアは動かず、観客もこのままスコアレスでハーフタイムかと得点に変化は無いと予想する者も多かった。



「(良い感じで攻撃出来たけどなぁ、やっぱ立見の鉄壁は伊達じゃないか)」


 ボールは牙裏が敵陣で持つも途中で弥一がインターセプト、この時弥一は牙裏の右SDF丸岡が一瞬気を抜いていた事に気付く。


「玲音ー!」


 そこを狙って前半と同じ、丸岡の裏に空いたスペースへと玲音の名を呼んだ後に右足で再びレーザービームのような正確無比のロングスルーパスが出る。


「馬鹿!丸岡後ろだー!」


「!?」


 春樹の怒号が響くがもう遅い。


 弥一の声にすぐ反応し、左サイドのスペース目掛けて走り出した玲音。丸岡の隙を突いて裏へ抜け出せばドリブルで牙裏エリア内への侵入を試みる。


『立見再び神明寺からロングスルーパスー!氷神玲音が裏へと抜けて牙裏ゴール前!』


 津川が玲音の前に立ち塞がりドリブルやシュートを防ごうとしていた。


 だが玲音はどちらの選択もせず、左のヒールで右へとお洒落にパスを出す。その先には半蔵が居る。


 左足でワントラップし、右足でシュートを狙いに行く半蔵に但馬が懸命に自らの右足を出して半蔵のシュートを止めようとする。


 両者が激しく激突する中だった。


「!」


 半蔵の体に痛みが走る。



 ボールは転がり追いついた春樹がクリアし、ピンチを凌ぐ。


『天宮クリア!牙裏前半終了間際にヒヤッとしましたがピンチを凌いだ!…っと?牙裏ゴール前に立見の選手、石田が蹲ってます』


『痛そうに右足を抑えてますが…大丈夫でしょうか?』



「「半蔵ー!」」


 氷神兄弟が声を揃えつつ右足を抑えてフィールドに蹲る半蔵へと駆け寄る。


「右足…足首か?」


 川田は半蔵が痛そうに押さえている箇所を見れば、右の足首だと気付く。

 おそらく先程の激突で但馬の右足がシュートに行く半蔵の右足、その足首に当たってしまったと思われる。


 半蔵は一旦フィールドから担架で運び出され、試合はこのまま0ー0で前半が終了。


 あの痛がり方だと半蔵の試合続行はほぼ不可能と皆が感じ、立見としては頼れる長身ストライカーを失ってしまう大きな痛手だ。


 前半終了間際に大きなアクシデント、魔物が立見へと牙を剥いた瞬間だった。




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 輝咲「彼としたい事、ねぇ…それはまあ色々な所に一緒に行ったりしたいし恋人同士の事はしたいかなって」


 弥一「僕もそれは、うん。望んでる…えーと…この後にデート行っちゃおっか?」



 摩央「雰囲気甘くなってきたなぁ、ちゃっかりリア充の仲間入りしたりとあいつもやる事やってるよな…」


 田村「男の嫉妬はみっともないぜ青少年、男と女が2人で。それも惹かれ合うなら雰囲気はそうなる…それが愛ってもんだろ?」


 摩央「…間宮先輩、影山先輩。友人のお二方にお聞きしたいんですけど、こういう時どう返したりリアクションすれば良いんですか?」


 間宮「スルー安定に決まってんだろ」


 影山「右に同じく、あ…キャラへの質問まだまだ受け付け中ですよー」

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