第375話 暴れる狼に狩人のやり返し


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











『1年の風見、左サイド上がって来た!天宮出した…っと長過ぎた、ラインを割って立見ボールのスローインです』


『後半の立ち上がりは良い動きを見せましたがね、今ちょっと調子が落ちてそうですよ』


 中盤から左サイドのスペース目掛けて正二が走り、春樹が右足でロングボールを出すも正二の頭上を越えてしまう。


「っ…!すまん正二!」


「切り替えましょ、次次!」


 春樹の調子が崩れ、牙裏の攻撃リズムが狂って効果的な攻めが出来ず。

 正二はそんな春樹へ励ますつもりで声をかけていた。


 司令塔の佐竹も下がって守り、前線は狼騎1人を残す形だ。


「攻め時だよ攻め時ー!此処ガンガン押し込んで行こうー!」


 流れは立見にあると弥一が前線へ後押しするように攻めろと声をかけ、早速効果が出たのか詩音が1人ドリブルで突破して右サイドを駆け上がって行く。


「(押し込まれるかよ、くそ!)」


 詩音に追いつき並走している正二、自慢のスピードが守備でも活きて相手の突破を阻止しようと、詩音の左から思いきり肩でぶつかっていった。


「うわ!?」


 しかしショルダーチャージを仕掛けたはずの正二がバランスを崩す。

 ぶつかられる前に詩音はボールを左足で止め、自らも走る足を止めればスピードを上げて走っていた正二は止まらず、目の前から詩音が消えたように錯覚してしまう。


 そこから再び詩音はドリブル、進行方向を右サイド一直線から中央のゴール前へと目指して斜め前方へと進む。


「んのやろ!」


 同じ1年に負けられないという意地からか、正二は諦めず追走。そこからスピードに乗って詩音のボールを狙いスライディングに行った。


 それを詩音はボールと共にジャンプして躱し、会場の歓声と注目を浴びつつゴールを見据えた状態で左へと右足のインサイドでパスを送る。


『氷神詩音、見事な個人技!パスに反応していたのは氷神玲音だ!』


 見ずとも彼ならそこにいるはず、パスの先には玲音が走り込んでいる。

 双子ならではの連携でシュートチャンスが生まれた。


 牙裏DFも寄せに行くがそれよりも玲音の左足が捉える方が早く、ボールはDFを抜けてゴール左へと飛ぶ。


 しかし飛んできたシュートに対して優れた反応を見せるのは牙裏ゴールを守る五郎、玲音のシュートに飛び付いて両手でキャッチ。


『あーっと、良いシュートでしたが三好がまたしてもキャッチ!後半も好セーブを見せてくれます!』




「止められてはいるけど、うちの方が攻撃出来てるよね?」


「ああ、何か向こうの攻撃噛み合ってない感じするし。弥一が叫んでるようにマジで攻め時だよ」


 立見が押していて今がチャンスだよね?と鞠奈が摩央を見れば、摩央もそれに頷く。

 牙裏の守備から、五郎から1点取るならこの流れの間に取るべきだと。



『牙裏、三好から出され佐竹!三笠と激しい空中戦だ!』


「ぐぅお!」


「がぁっ!」


 180cm台の大型中盤選手同士の迫力ある空中戦、激突を恐れず思いきり突っ込んで行った三笠とパワーで競り負けんとしていた佐竹。


 どちらのボールともならず転がり、それを取ったのは狼騎だった。


『ようやくボールに触った酒井狼騎!立見にとっては怖い選手が来る!』


「.草太!」


「おう!分かってる!」


 間宮の声に応え、狼騎の前進を阻止しようと田村が走る。



 その瞬間、田村の顔面にボールが目の前まで迫って来ていた。


「ぐえっ!」


 遠い位置から狙ったか、それともわざと田村の顔面を狙ったのか、狼騎が繰り出した左足による豪球が田村を襲い、まともに顔へ受けてフィールドに崩れ落ちてしまう。


『あー!酒井あそこからロングか!?田村が受けてセカンド…再び酒井が追いかける!いや、神明寺クリア!』


 田村が受けたボールは後方へと転がって行き、狼騎が持ち前の瞬発力で追いかけるも先に弥一の方が追いついてボールを蹴り出してタッチラインを割る。


「草太!おい!」


「う…ぐ…」


 プレーが途切れると間宮に影山、立見の仲間達が田村の元へと駆け寄り、間宮が呼びかけるも田村は起き上がれず。


「脳震盪かもしれない、一度外へと出そう。担架を!」


 主審は担架を要請、田村は一度フィールドの外へと出されて続行出来るか回復が待たれる。


『立見またしてもアクシデント、石田に続き田村まで続行不可能か!?』


『レギュラーの選手が2人も欠くとなると苦しくなりますね立見、田村君は3年で経験あって右サイドの攻守を支える要ですから』



「交代だ、歳児!」


「はい…!」


 これに立見ベンチはすぐ動く、後半の出番に備えアップしていた優也が薫に呼ばれる。


 ポジションはそのまま田村に代わり右サイドのハーフ、本来ならFWだがこの1年で守備を磨きサイドのプレーヤーとしての経験も積んで来た。


 今の彼なら田村の代役は務まる、薫は迷いなく優也をフィールドへと送り出す。


『おっと、やはり田村は交代ですか。田村に代わり此処で立見は歳児の登場です!』


 立見に2人続けて負傷退場者が出て、異様な雰囲気漂う中で優也が田村に代わり後半から出て来た。


「俺が田村先輩の位置に入って、システムはこのままです」


「分かった」


 優也はベンチからの伝言を伝えればそれに間宮が頷く。


「それにしてもあいつ、わざとじゃないか…!?腹や顔面に当てたりと」


 度重なる狼騎のプレー、それによって仲間が負傷していく事に川田は狼騎に対して怒りを見せていた。


「落ち着けよ、ハッキリとラフプレーをされた訳じゃない。わざとシュートで狙ったにしても…証明出来なくてそれで審判に睨まれるのはこっちになっちまうんだ」


 怒る川田に対して間宮は冷静だ、怒っていない訳ではないがわざと当てたか、シュートでゴールを狙ったかという証明は難しいだろう。


「そうそう、落ち着いて何時も通りサッカーするといいよもっちゃん♪」


「あ、ああ…」


 怒って無さそうな弥一は明るい笑顔を見せ、川田はそれを見て落ち着く。




「どうせ、あの狼は五体満足でフィールドから出られないし」


「え?」


「何でもなーい、さあ行こう行こうー」


 ぼそっと言った弥一の言葉、それが何なのか気になったが弥一は試合続行だと促す。





「僕を殺すって言いながら違う方行ってんじゃん、逃げてんの?」


「…何?」


 狼騎の側まで向かえば弥一は彼に聞こえるくらいの声量で言い放ち、これに狼騎は射殺す程の目つきで弥一を睨んでいた。


「ああ、僕に勝てないと見て避けたんだ。分かる分かる、厄介なの避けてゴールを奪うのはセオリーだからねー」


 だが睨んで来るのもお構い無しで刺激させるような言葉を言い続ける。


「田村先輩や間宮先輩に向かって出来ても僕に同じ事、無理って認めてるようなもんだよね?」


「…!!」


 田村と間宮のようにシュートをぶつけてみろ、まるでそう挑発して不敵に笑う弥一、それを見た狼騎の瞳に殺気が宿る。


「てめぇ…死ぬ覚悟出来てんだろうな?」


「だから怖いってー」


 睨む狼騎から弥一が離れるも、その視線は向けられたままだ。




『牙裏、スローインから風見がボールを受ける!』


「(あれ…?)」


 ボールを受けた正二、このままドリブルに行こうとした時に彼の視界はそれを捉える。


「(酒井先輩がフリーじゃねえか!ラッキー!)」


 立見のゴール前を走る狼騎、誰のマークもおらず付ききれてないんだと正二は判断すればフリーの状態となってる狼騎へ迷わずパスを送った。


 狼騎がパスを受けるとそこに弥一が向かって行く。彼を目の前にした時、狼騎はギラっと弥一を睨む。


「(ブッ殺してやる!神明寺弥一!!)」


 左足を素早く振り抜けば、矢のような勢いのシュートが弥一の顔面へと向かって伸びて行く。

 先程田村が喰らった一撃が今度は弥一に襲いかかっていた。


 狼が狩人の喉元へと喰らいついた瞬間。



 顔面に向かう球に対して顔を左へ逸らし、避けたかと思えば右足が狼騎のシュートを捉えていた。


 まるでジャンピングボレーに近い形、それは狼騎のシュートを打ち返していた。



 ドゴォッ



 自分が撃った直後、狼騎の反射神経を持ってしてもそれに驚く間も避ける間も無く、次の瞬間狼騎の顔面にボールは凄まじい勢いで飛んで来て命中していた。



「ごはっ…!」


 打ち返された弥一のシュートをまともに顔面に喰らい、狼騎は仰向けに倒れればフィールドの上で大の字となる。



「お、おい酒井!」


「狼騎先輩!?」


 プレーが途切れたタイミングで狼騎へと近づく、その中にはゴールマウスから飛び出して駆け寄る五郎の姿もあった。



『今度は牙裏の方で酒井が倒れている、大丈夫でしょうか…!?立見に続いて牙裏にアクシデントです!ボールを受けた酒井起き上がれません!』


『脳震盪でしょうか?ううん、負傷者の多い選手権決勝になってきましたね…』



「あっぶなー、一歩間違えてれば僕がああなってたかも…!」


「まあ、ありゃ…気の毒だけど自業自得ってやつ?流石にあんな状態になって「ざまぁみろ!」とか言えないけどさ…」


 牙裏の様子を遠めから伺う弥一、その横で川田は狼騎に対して怒っていたが、彼があの状態になると心配になってきて複雑な心境だった。



「(とりあえず、殺し合いは僕の勝ちって事で)」


 場内が騒然となる中で偶然、アクシデントを装っているが弥一は狙ってやっていた。


 ゴール前でわざとフリーにしたり事前に狼騎へ煽る言動、弥一に対して狩りに行くのを狩り返す為だ。



 仲間を故意に傷つけられたらそれ以上にやり返す、弥一に情けや容赦という物は一切無い。


 倒れて気絶している狼騎がその証拠だ。






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 佐助「弟の事でか…」


 政宗「それで何で俺も呼ばれるんだよ、兄貴だけでいいだろ?」


 弥一「折角だから兄弟揃ってのが良いでしょー?うちの氷神兄弟とか何時も揃って参加だしさ♪」


 佐助「まあ政宗に関しては心配させられるような事は結構あったな、サッカーでの怪我とかがあれば小学校の時に遠足で1人迷子になってしまったり…」


 政宗「それ大分昔じゃねーか!?そんな前の事わざわざ引っ張り出すなって…」


 佐助「何言ってる、あの時どれだけ心配したと思ってんだ」


 政宗「それ言うなら兄貴こそ温泉旅行の時に迷子なって泣いただろ!?」


 佐助「な!?それは幼稚園の時だろ!だったら…!」


 弥一「えー、収拾つかなくなってきたんで強制終了でーす。兄弟は仲良いなぁという事で、質問まだまだ受け付けます♪」

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