第364話 鮮やかな先制点
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
両者のストライカーが注目される八重葉と牙裏の試合。
此処まで多くの得点を重ねる照皇、狼騎の2人をフリーにはさせず互いにマークが付いていた。
中盤では激しいボールの奪い合いが続く。
『八重葉、中盤でボールを持つ佐竹に中村と立石が2人で奪いに行く!』
「ぐ…!」
体の強さに定評ある佐竹だが2人がかりの厳しい当たりに苦戦、彼のパワーをもってしても突破は難しかった。
そこへフォローに近づく岸川、佐竹はそちらへとパスを混戦の中で出す。
「(いただき!)」
だがその前に月城が岸川の前でインターセプト、ボールを取れば前線の笠松へとパスを出せば笠松はそれを折り返し、再び月城がそれを受け取り壁パスとなって相手を躱す。
『月城と笠松、良い連携を見せて再び左サイドからチャンスを作る!』
得意のスピードでサイドを突き進む、かと思えば月城は左足のアーリークロスでゴール前に高いボールを送っていた。
GKの五郎も飛び出せない位置を狙ったクロスだ。
照皇が月城から送られたクロスに対して跳躍、マークする但馬も合わせて飛ぶ。
この空中戦は互角でボールが転がっていく。八重葉の石山が迫るがその前に春樹が取り、大きく前へと繰り出してクリア。
「天宮春樹…此処まで多く得点してるけど今の所は守備に専念か」
「相手が八重葉だからね、今までみたいに簡単には前へと出づらいんじゃないかな」
スタンドから春樹のプレーを観察する間宮と影山、彼が前へと出て来ての攻撃参加はまだ見られない。
八重葉が攻勢に出ていて牙裏にチャンスらしいチャンスは来ていなかった。
シュートは八重葉の方が3本撃っていて牙裏はまだ0だ。
「(なんかおとなしいなぁ、牙裏の方…)」
これまで大差で相手を下し続けているチームにしては押され気味、相手が八重葉ならそうなる事は仕方ない。
多くの人々が思う中で弥一は何か狙いでもあるのかと熱戦真っ只中のフィールドを見ていた。
『この前半は八重葉が押し気味となってきたか、牙裏は未だシュートがありません』
『中々エースの酒井君へとボールが渡らない上に中盤の攻防で八重葉が勝っていますからね』
中盤を八重葉が制している、そうなれば支配率は高まり自然と攻撃のチャンスも増えていく。
『此処も取った仙道兄弟の弟政宗!』
相手のドリブルからカットに成功し、政宗が中盤の守備をしっかりと努めて相手を好きに攻めさせない。
そこから政宗は中村へと繋ぎ、そこから右へと展開。すると驚きの動きが見られた。
『おっと月城がこの位置!?何時もの左から右へと代わって走る!』
「(ワンパターンに左ばっか走る訳ねーだろ馬鹿め!)」
月城と言えば左サイドのスペシャリスト、その印象が強かったが彼はイメージを利用し何時もとは違う逆サイドを爆走。
これには彼と対峙する牙裏の選手も「何でこいつがこっち居るんだ!?」と戸惑いを見せていた。
「(中々面白い事かましてくる2年だな!)」
月城が右サイドを突破してくるところを見て、あのままではエリア内への侵入を許すことになると考えた春樹が自ら走り止めに向かう。
そこに月城はドリブルから切り返し、進行方向とは反対側を向くと左足で中央に折り返す。
中村が待っており右足を振り上げてシュートに行く、彼のモーションが見えた佐竹がブロックしようと立ち塞がる。
思った通りシュートが飛んできて佐竹が体を張ったブロックでボールが大きく弾かれると牙裏のゴールラインへと飛び、主審が八重葉のCKと判定を出していた。
「兄貴、出ないのか?」
「奴を見ろ」
「…あ」
セットプレーのチャンス、長身の佐助も攻撃参加すれば高さによる得点がより期待出来るが前に出ようとしない兄に弟の政宗が声をかける。
すると佐助がそちらを見るよう言えば政宗は気付く。
狼騎が戻らずカウンターに備えている姿を。
「もしも俺が出てカウンターで奴に出されたら失点はほぼ免れない、総体で結構やられてただろ」
怖さは知っている、なので彼をフリーにはさせられない。
兄弟で話し合い狼騎のカウンターに備え、彼らは残る事にした。
『前半の30分過ぎ、八重葉はセットプレーのチャンス。この時間帯に先制点が決まれば大きい!』
『佐助君は…上がってきませんか、牙裏には酒井君のスピードがありますからね。カウンターでの失点が怖いですから彼を警戒しての事でしょう』
八重葉でCKのキッカーを務めるのは中村、右からのコーナーで近くの月城へと渡してショートの方を選択した。
「!?」
すると照皇がエリアから出て密集地帯を抜け出し、フリーとなる。
但馬が追いかけようとするが混戦の中ですぐには照皇へと迫れなかった。
ゴールからは距離が遠くなったものの自由に動ける、それに照皇ならば狙える距離だ。
左足で月城から照皇に正確なパスが行くと、照皇は直接合わせて得意の右足がボールを撃ち抜く。
「(よし!完璧!)」
シュートが飛んだ瞬間に月城はそれが良いと確信、ボールは左上隅へグンと勢いづいて向かっていた。
だが月城がそれを完璧だと思った矢先、五郎がシュートへと向かって跳躍すれば決まったと思われたボールをキャッチして防ぐ。
『あ〜っと防いだー!牙裏GK三好、照皇のダイレクトシュートを止め…っとすぐ出したスローイング!!』
月城が驚く暇も実況がそれを喋る間も無く、五郎は立ち上がるとすぐにボールを右手で投げた。
その先には春樹が待っている、トラップかと思えば周囲を、会場を驚かせるプレーを彼は実行。
なんと春樹はダイレクトで右足を合わせて自軍エリアにも関わらず、ゴールに向けて思いっきり撃ったのだ。
「シュートだ小林ー!」
佐助が撃ってきたと気付きGKへと伝えれば政宗がシュートをブロックしようと前に出る。
「ぐぅっ!」
春樹の右足シュートを政宗は右肩口に当てて止める、ボールは弾かれて後ろへと転がって行く。
それに対して素早く動き出し、反応する者が居た。
高校随一の瞬発力と反射神経を誇る狼騎があっという間にトップスピードに乗ってボールを取り、政宗を抜き去る形となる。
『取った酒井!此処で一番怖い存在についに渡る!ゴール前、仙道佐助追い付けるか!?』
「うおっ!」
体格で勝る佐助、並走する狼騎にシュートを撃たれる前になんとしても止めてやろうとショルダーチャージを全力で仕掛けに行く。
それに対して狼騎は反応していた、並走する佐助にピタっと足を止めてしまえば走りながらチャージを仕掛けようとしていた佐助は目測を誤り体勢が崩れる。
狼騎がその隙にボールと共に再び進みGKと一対一。
猛然と迫る八重葉のGK小林の飛び出し、狼騎は柔らかなタッチでボールを操り躱した。
そして無人となったゴールへと右足で狙う。
後ろから佐助が迫っていたが遅かった、彼が辿り着いた時には八重葉のゴールが既に揺らされた後だ。
『き、決まった!セットプレーのピンチから一転してのカウンターが炸裂!!三好の好セーブから天宮の弾丸ボール、それを拾った酒井狼騎の個人技で八重葉から先制です!』
高校サッカーの超強豪から、Uー19の代表にも選ばれた仙道兄弟を相手にゴールを決めた狼騎。
スタンドが盛り上がりを見せる中で本人は決めて当然と思ってるのか、喜びを表してはいない。
「(ラフプレーで来るかと思えば…あんな鮮やかに躱すテクとかあったんだ、石立で連覇する程のプレーヤーだからそういうの兼ね備えてても不思議じゃないだろうけど)」
ラフプレーが総体では多かった狼騎、だが今回は技で綺麗に決めている。
そういうのも持っているんだなと弥一は狼騎に対する認識を改めていた。
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川田「なあー、摩央。弁当食いきれないなら食ってやろうか?」
摩央「いいって、お前食い足りないだけだろ。あんなボリュームあるの食ってまだ入るのかよ…」
川田「食べ盛りで運動部ならこれくらい普通だろ、お前が少食なんだって」
摩央「俺だって人並みのつもりだし、ってもう得点入ってんじゃねーか…!」
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