第363話 八重葉VS牙裏 二度目の対決


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。








「牙裏学園には前回勝っている、かと言って今日も勝てるとは限らない。その上前回と比べ今大会の彼らは非常に此処まで好調で圧倒的だ」


 試合前、最後のミーティングを行う八重葉。監督は牙裏に対して要注意だと選手達に伝えていく。


 牙裏はこの準決勝までに多くの得点を重ねているだけでなく失点も無い、成績で言えば立見にも負けていなかった。


「わかってはいるだろうが、酒井狼騎と天宮春樹。牙裏の攻撃の軸はこの2人が担っている、マークは怠るな」


 特に多くの得点を重ねている狼騎と春樹、2人が八重葉にとって止めなければならない厄介な存在。

 彼らを止めて失点を抑える、それが八重葉に求められる事だ。


「時間だ…行くか」


 時間を確認した照皇が静かに皆へと告げればフィールドに立つイレブンはロッカールームを出て歩き出す。





「八重葉に対してやる事は特に変わりはしません」


 牙裏の監督を務める松永、大事な準決勝でも穏やかな姿は変わっていなかった。


「その時の相手に有効だった事が今日も有効だとは限らない、だったら蓋を開ける前からあれこれ決められません。前半好きにやりましょう」


 相手の攻略は選手達に任せ、臨機応変に対応。この言葉にそれぞれ頷いて応える。


「おっし、行くぞ!」


 佐竹の声でロッカールームを出るスタメンのイレブン。




『立見と最神の試合が終わり、立見が一足先に決勝戦進出を決めた今残された切符はあと一つ!それを取るのは八重葉学園か!?それとも牙裏学園か!?』


『どちらも相手に差をつけて勝利しているチーム同士ですからね、総体では八重葉に軍配が上がりましたが今回はどうなるのか分かりませんよ』


 前の試合が終わってから熱気冷めやらぬ状態で、八重葉と牙裏の選手達がフィールドへと入って来て彼らにスタンドからの大歓声が出迎えていた。



 キャプテンの照皇と佐竹が審判団の前に集まりコイントスを行ない、牙裏が先攻を取る。



「向こうの先攻だ、酒井を中心にあいつらはスピードあって速攻を得意としてる。立ち上がり集中だぞ」


「分かってますって、速攻ならこっちだって得意分野ですし」


 照皇が八重葉の円陣へと集まり、コイントスの結果を伝える。


 速攻を得意としている事は皆が分かっていて、月城はそれ以上に自分達が上だと得意げな笑みを浮かべた。


「決勝戦の立見に備えての温存、そう考えては今の牙裏には勝てない。全力で勝ちに行くぞ!」


 決勝へ向けて力の出し惜しみはしない、本気で行くと照皇の声と共に各自が声を揃えた後にフィールドへと散る。




 狼騎は黙って八重葉のゴールを見据えていた、今日の獲物を観察するかのように。


「おい狼騎、集合…」


「いいよ、集中させといてやろう」


 佐竹が集合の為に声をかけに行くが春樹はそれを止める。

 今は彼の集中を高める時、邪魔をするのは無粋だろうと声をかけることはなかった。






 白いユニフォームの八重葉学園、GKの色は黄。


 グレーのユニフォームの牙裏学園、GKの色は赤。



 八重葉学園 フォーメーション 4ー4ー2



     笠松  照皇

      9    10


  石山   中村   立石

   11     8     7


       仙道(政)

        6

 

  月城  仙道(佐) 藤堂  笹塚

   2    5     4     16


        小林

         1



 牙裏学園 フォーメーション 4ー4ー2


      高柳  酒井

       9    10


   若松   佐竹   岸川

    7     8    11


         天宮

         6


   渡辺  但馬  津川  丸岡

    2    5     4    3


         三好

         1

 



「どっちもシステム一緒の4ー4ー2か、どっちもワンボランチで同じだな」


 両チームのスタメンやフォーメーションが明らかとなり、半蔵はそれぞれの陣形をじっくりと見ていた。


「これで牙裏の方が多く得点してるんだよね、一試合多く戦ってるのもあるけどさ」


「それでも凄い得点力に変わりないけどね、全部5点差以上の大差で勝ってるしさ」


 詩音、玲音の双子も揃って目の前で始まろうとしてる準決勝に注目。揃って同じタイミングでお茶を飲む辺りは流石のシンクロだった。



 どちらもシステムは同じ、鍵となるのは両者の攻撃陣。


 得点王を争う照皇誠、酒井狼騎。2人のストライカーにかかっていると言っても過言ではない。

 世間でも2人のエースストライカー対決という声が上がる程だ。



 牙裏が先攻を取り、センターサークルには狼騎と高柳の2トップが立つ。



 ピィーーー


『準決勝第2試合が今キックオフ!酒井から高柳、後ろに戻して佐竹がボールを持つ』


「丈、来てる!」


「うお!?」


 佐竹がボールを持った所に照皇が寄せて来ており、春樹の声でとっさに照皇の出した足からボールを守ればヒールで春樹へとバックパス。


 今度は春樹へと照皇が走る。


「(スタミナの温存は考えずの全力プレーか、気を抜く暇が無いな!)」


 相手のプレスが来る前に春樹は左サイドへと展開し、月城の居るサイドを避けてのサイドアタックに出ようと若松を使う。


 大きく出されたボールを胸で受ければ若松は走る、だがその間に八重葉の立石が近づいてライン際の攻防となった。


 やがてボールが出ると判定は八重葉ボール。


『サイドの攻防からスローインへ、おっと笹塚すぐに投げ入れた!これは奇襲だ!立石から大きくサイドチェンジ、左サイドに待っていたのは月城!』


 スローインから八重葉はすぐプレーへと入り、左へとサイドチェンジで月城がこのボールを受け取り縦に爆走。


「入れさせるな!」


 但馬の声と共に丸岡が向かう、月城は左を守る岸川を突破していた。


 ドリブルで中への侵入はさせない、そこを月城が強引に侵入を試みる。



 と、見せかけてゴール前でフリーになっていた中村へと左足でグラウンダーのパスを送る。


『月城突破か!?いや、パスが出されて受け取ったのは中村だ!』


 中村は左足でワントラップしてコントロールすれば右足のミドルシュートでゴールを狙う。



 ゴール右へと勢いあるシュートを飛ばすと、対してゴールを守る五郎が正面でこれをキャッチして防ぐ。



『八重葉、最初のシュートでしたが牙裏の小さな守護神三好がキャッチしました』


『フリーとなりましたが中村君、正面に行ってしまいましたね。ただシュートで攻撃は終わったのでまずは良い立ち上がりです』



「(牙裏の無失点を支えるGKか…)」


 照皇はボールを持つ五郎の姿を見ていた。


 一般のGKより大きく下回る身長と体格だが、彼は室のシュートを完封している。


 狼騎や春樹だけではない、この小さな守護神も大きく立ち塞がる可能性がある。



 それは照皇だけではない、スタンドから見つめる弥一も同じ考えだった。



「上がって上がってー!」


 天才2人からそう思われている事を知らないまま五郎は前へと大きく蹴り出す。




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