第357話 同じ手で止めさせない
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「一失点で慌てるな、焦るな!此処で崩れんなよ!」
立見に思わぬゴールを許してしまう桃城、岩谷は皆へと声をかけて奮い立たせていた。
このままずるずると2点、3点を取られずなんとか1点で食い止める。
1点差ならまだ追い付ける範囲内だ。
『さあ1点を立見が先制して試合が早くも動き始めました、桃城の方は此処からどう動くか?』
『まだ序盤で1点ですからね、慌てる時間帯ではないでしょう』
桃城のキックオフから試合再開、彼らは慌てず落ち着いてボールを回していく。
「(もらいっ!)」
そこに相手の死角から詩音が忍び寄って来てパスをカット。
『おっとインターセプト!立見がボールを奪い再び攻め上がって行く!』
詩音のインターセプト、詩音から明へとパスが渡る。
ボールを受けた明の前に桃城の選手が正面から迫って来た。
それに明は慌てず、スピードを上げたドリブルで一気に相手を抜き去る。
明が左のアウトサイドで左へと軽くボールを出し、自らは間髪入れずにダッシュ。
ボールを受けた玲音はこれをワンタッチで明へと折り返せば、相手の選手をまた一人躱すワンツーの形になった。
前線の立見1年による連携に翻弄される桃城。
「固めろ中央!」
ゴール前から岩谷の指示、しっかりとゴール前を固めてしまえばいくら明が凄くてもそう簡単に突破は出来ない、失点は喰らわないはずだと桃城DF陣は考えている。
これに明は右サイドへと出して詩音がボールを受けた。
詩音から得意の右足で正確なクロスが桃城ゴール前に上がっていく。
半蔵が高く上がった球に対して地を蹴りジャンプ。
マークする相手DFも飛んで空中戦、半蔵の頭の方が高く正確に額でボールを捉えて叩きつける。
「うおっ…!」
地面を跳ね上げるボールに岩谷が倒れ込み、体で止めようとするが無情にも彼の頭上を通過していき、ゴールネットへと吸い込まれるように入った。
『立見2点目ー!石田半蔵、今大会初ゴール!頼れる大型ストライカーが貴重な追加点をもたらしたー!』
『かなり高かったですね、キチンと正確にボールを捉えていましたし。192cmの高さは相手にとって脅威ですよ』
「「半蔵ー、選手権全国初ゴールおめでとうー!」」
「おお、ありがとうなー!」
氷神兄弟2人から揃って祝福され、歓声を浴びる半蔵は誇らしげに右拳を天へと突き上げた。
「あの高さ、分かっていたのに…!」
「くそ、2点目か!まだまだこれからだ!」
2失点の桃城、悔しさを見せつつなんとか落ち着こうと声を掛け合っていく。
中央を固めてサイドを捨てる作戦はまだ変えない。
「(気付く様子無さそうだなぁ、自分達じゃその作戦は無理があるっていうのに)」
桃城側がやろうとしている事、前回の試合でやった東豪の守りを真似する。
弥一はそれを始めから分かっていた、だから彼はあっさりとサイドからの仕掛けが出来たのだ。
東豪がサイドをあえて捨てて中央を守る、その作戦が成り立ったのは中央に番のような優れたDFが居てこそだった。
彼が待ち構えていて半蔵の高さに対しても好きにはさせず、立見は崩すのに苦戦してしまう。
だが今回の桃城では半蔵の高さに対抗は難しい、彼に完璧なヘディングを許したのが証拠だ。
同じ作戦で行けば相手を抑えられる訳ではない、この後に彼らはそれを知らされる事となる…。
『勢いに乗った立見、今度は田村がボール奪取だ!』
弥一に負けないインターセプトで相手のパスを断ち切った田村、そこから間宮、影山と3年トリオがボールを繋ぎ影山が上がって行く。
影山から今度は左サイド、玲音へとパスが行く。それを読んでいた相手DFが寄せに走っていた。
だがその姿が見えていた玲音は冷静に前を向いたまま、左の踵で後ろへと流すと翔馬がボールを受けて玲音と相手を追い越し一気に左を突っ走ってのドリブルだ。
『立見良い連携!水島が左を独走!』
玲音と同じく左足でのクロスを得意とする翔馬、相手が来る前に余裕を持ってゴール前へと左足で上げた。
「く…!」
高いボールが上がり、再び半蔵がジャンプ。今度はせめて楽にヘディングはさせまいとDFも空中戦で競り合う。
だが今度はポストプレー、半蔵が頭で送った先にいたのはエリア内へと混戦の中で侵入していた詩音。
右足のシュートを放てばゴール右へとボールは飛び、岩谷はそれに速い反応で飛び付く。
そこに目の前に居た桃城DFの右足に当たるとボールはコースが変わり、ゴールの右から左へと流れてそのままネットに入った。
「オウンゴール?1点入ったから良いやー♪」
主審の判定は詩音のゴールではなく、相手DFによるオウンゴール。よって公式記録は詩音のゴールとはならず。
だが3点目に変わりはない、詩音は構わず玲音や仲間と共にゴールを喜んだ。
「敵さん焦ってるよー、一気に畳み掛けようー!」
相手の心は3点目を失った事で焦り、そして迷いが生じている。
このままの作戦で良いのかと。
その心の迷いを弥一は見逃さず容赦しなかった。
乱れた守備に詩音が右から単独で切れ込み、半蔵へのクロスと見せかけて玲音への低いクロス。これを玲音は胸でワントラップして左足のシュート、立見の4点目となるゴールだ。
『前半で早くも4点目!立見の勢いが止まらない!』
『こうなると手がつけられないですよ!』
その勢いは後半になっても変わらない、どころか勢いは上がっていた。
川田がゴール前へと思いっきりロングスローを放り込めば、半蔵がその頭に合わせてヘディング。DFに当たって弾かれた所を詩音が詰めて蹴り込み5点目。
更に左からのCKチャンス、明が低いボールでニアへと送ればその位置に混戦の中で気付かれず走り込んでいた影山。頭から飛び込むダイビングヘッドで6点目を奪う。
まだまだ立見のゴールショーは終わらず、川田がフリーでボールを受ければ豪快なパワーあるミドルをエリア外から決めて7点目。
後半途中で氷神兄弟に変わり入った優也と武蔵、疲れが見える守備陣から優也が裏へと抜け出し岩谷との一対一を制し8点目。
明がDFからボールを奪い、そのまま持ち込んでシュートして9点目と様々な選手がゴールを決めていく。
そしてゴールショーのラスト、ゴール前で明がファールを受けると弥一が相手の壁の隙間を狙う正確なキックですり抜けるように真っ直ぐゴールへと向かう。
曲げるボールが来ると思っていた岩谷の裏を突く左隅をそのまま行くコース、岩谷はこれに動く事が出来ず10点目を弥一が決めた。
もう桃城の選手達にボールをセンターサークルに戻す体力や気力は残っていない。
「(強ぇって立見…!1ランク2ランク上じゃ済まねぇよこれ……)」
ゴール前で倒れ込んだ岩谷、生まれて初めて2桁の得点を決められたショックもあり立ち上がれなかった。
立見にPK戦に持ち込めば行けると考えていたが、それを粉々に粉砕される完敗。
今更ながら戦術を真似するべきではなかった、付け焼き刃で行くんじゃなかったかと思ったが既に遅い。
立見は今大会の選手権で全チーム通じて初の2桁得点を記録しての完勝、早々と準々決勝進出を決める。
立見10ー0桃城
神明寺2
石田1
詩音1
玲音1
影山1
川田1
歳児1
緑山1
オウンゴール1
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此処まで見ていただきありがとうございます。
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想真「あいつらまた派手な勝ち方しとんなぁ、ゲームや漫画の圧倒的強さを持つキャラの勝ち方やないか」
光輝「2桁得点とかホンマは滅多にないし、立見が異常なだけや」
月城「トレンド10ー0とか立見マジ半端無ぇとかあるぞ」
政宗「川田馬鹿力ー、とか歳児君マジ格好良い…色々言われてんな、後者は俺も女子から言われたい、男はいい」
佐助「本音漏れてるぞ弟ー」
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