第356話 新たな年を迎えた試合で会場を揺るがす


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











「大丈夫?弥一君、寒くないかい?」


「平気だよー、カイロとか持ってるしー」


 新年を迎えて新たな年となった今日、弥一は輝咲と共に都内の寺へと初詣に来ている。


 厳しい冬の冷え込み、厚手の黒いロングコートを来て防寒対策をしっかり整えた輝咲。

 弥一の方は革ジャンを着ていて変装の為の黒キャップも被り、輝咲と比べて薄着に見えるがポケットにカイロを忍ばせていた。


「大事な選手権の真っ只中で風邪など引いたら洒落にならない、体調管理はしっかりしないと駄目だよ」


「それは薫監督からも口酸っぱく言われたねー、風邪など体調を崩さないように各自気を付けるようにってさ」


 主にコンディション管理についての指導を重視する薫、これまで食事のタイミングに入浴の時間帯など疲労や体調に関わる事を教えられてきた。


 おかげで前にも増して快眠出来たりと、弥一や立見の皆は良い状態を維持出来ている。

 弥一に関しては快眠が過ぎて何度か遅刻の危機に陥った事はあるが。



 改めて薫に感謝しつつ弥一と輝咲は初詣の寺へと訪れた。


「(今年は何願おっかな…?)」


 此処に来るまで弥一は特に願いを決めておらず、まだそれはまっさらな状態だ。


 1月1日の今日、初詣に来ている客は多い。その中で願う事は人それぞれだろう。

 やがて弥一達の番が来ると、2人は並んで賽銭を投げ入れて手を合わせる。


 その時に弥一はふと隣の目を閉じる輝咲の姿が見えれば、願う事は決まった。



「あ、屋台やってるから行ってみよー♪」


「食べ過ぎないようにね」


 美味しそうな食べ物の屋台に惹かれる弥一、輝咲から注意を受けつつも向かっていた。


 屋台を巡りつつ2人は新年の正月デートを楽しむ。明日は新年最初の試合、それに備えて英気をたっぷりと養っておく。






 翌日の2日、高校サッカー選手権は3回戦が各会場で行われる。


 立見は昼12時からのキックオフで岡山代表の桃城(ももしろ)高校との試合だ。



 桃城の方はだいぶ早い時間に会場入りすると、ロッカールームで入念な打ち合わせをしていた。


「立見の2回戦を見て結果的に3点取ってはいたが、セットプレーを取られるまでは0ー0…サイドを犠牲にした中央固めに苦戦していた印象がある」


 茶髪の坊主頭、桃城3年のキャプテンでGKを務める岩谷隆(いわたに たかし)がチームを引っ張る。


 岡山予選で失点2、PKに滅法強く2度のPK戦を制して勝負強い。

 1回戦を2ー0、2回戦で1ー1、PK戦で岩谷の活躍により勝利してこの3回戦まで駒を進めてきた。


「此処は東豪さんのやり方を見習い、俺達もある程度はサイドを捨てて中央に守備を集中させよう。それで立見の隙を突いてカウンター、1点を狙う」


「それで後は逃げ切り、だな。決まらなくても0ー0でPKだったら俺らが勝つし」


「そこは任せろ、PKになれば桃城の勝ちだ」


 此処までPK勝ちを何度もしている事からPK戦に対して絶対の自信を持つ桃城の面々。


 立見が相手だろうとそれは変わらない。





『新年最初の試合を迎えました高校サッカー選手権、3回戦で立見を迎え撃つのは堅守を誇る桃城高校。県予選も含め3度のPK戦を制して勝負強さが光ります!』


『この立見戦でもその勝負強さが発揮出来ればどうなるか分かりませんね、まずは彼らが何処まで守れるかにかかってくるかと』


 立見の試合となればやはり注目度は高く、新たな年を迎えても変わらず観客席は埋まりほぼ満員となっていて、大歓声がフィールドの選手達を出迎えた。


「立見GO!」


「「イエー!!」」



「良いな、作戦通り…ぬかるなよ」


「おう」



 両者が円陣を組んでからポジションへとそれぞれ散り、試合開始の準備は整った。



 ピィーーー



 立見のキックオフで試合が始まり、持ち前の早いパス回しを展開すると桃城の方は中央の守備に集中した。



「っ!」


 中央を固められて明に2人の厳しいマーク、これまで数多くのアシストに加えてゴールも決めていて、相手にとって要注意選手なのでマークが厳しくなるのは当然だった。


「10番は目を離すなよー!」


 ゴール前から岩谷の声が飛び、明を逃すなと味方にしっかり伝えていく。



「(パスは厳しいか…)」


 影山がボールをキープしつつ明の方を見ると、パスは厳しいと明へ渡す選択肢は無くなる。


 他の選択肢を探そうとした時。



「こっちー!」


「(え!?弥一何時の間に!?)」


 影山の視界に飛び込んだのは左サイドを走る弥一の姿、玲音や翔馬が走るならともかく弥一がその位置を走るのは珍しく、影山も驚いていた。


 中央を固めてサイドはある程度捨てているせいか、弥一の走る左は今ガラ空きだ。

 広く空いた場所へと影山がパスを出せば弥一は足元に吸い付かせるように完璧なトラップを見せる。



「(そんなサイド捨ててくれるなら遠慮なく使うよー!)」



『あーっと!神明寺、左サイドから攻め上がる!何時の間にかこの位置に居たー!』


 思わぬ相手のサイドからの攻めに桃城DF陣は一瞬躊躇する、弥一がそこまで攻めてくるなら今総掛かりでボールを取れば立見のゴール前はチャンス。


 だがこれが罠なら?と同時にその考えも過ぎって踏み切れなかった。


「乱れるな!中央集中!」


 岩谷は変わらず中央の守備へと集中させる。



 その時、弥一は相手守備陣が躊躇した隙を突いて右足で半蔵へと低いボールを送った。


「(キックミスか!)」


 半蔵をマークするDFがその前に立ち塞がると、弥一が蹴った低いクロスを蹴り返す体勢となる。


 だがそのボールはまるで生きてるように曲がっていき、DFを避けるとゴールの方へと向かって伸びて行く。


「!?(カーブ…!!)」


 クロスと見せかけた弥一の鋭いカーブをかけたシュート、岩谷がこれにハッと気付きゴール左へと向かう球に右腕を伸ばす。


 反応は一歩遅く、岩谷の指先を掠めて桃城のゴールに吸い込まれるように入っていった。



 弥一のカーブシュートが決まれば会場が揺れる勢いの歓声が沸き起こる。


『入ったぁーー!新年初ゴールを決めたのは立見、神明寺弥一!今年も主役は俺だと言わんばかりのスーパーゴール!!』


『左サイドからの上がりにあの位置から直接ゴールですか!今年もまた彼に多く驚かされそうな気が早くもしてきましたよ!』



 新年初ゴールを決めた弥一は観客へと明るく笑ってゴールを喜ぶ。



「やられた…!サイドから神明寺が来るって、自由なリベロ過ぎるだろ…!」


 早々の失点を喰らって悔しさを滲ませる岩谷、氷神兄弟やSDFを差し置いて弥一がサイドアタックを仕掛ける事は想定外だった。



 だがこれはまだ立見のショータイムの幕開けに過ぎない、それを岩谷や桃城イレブンはまだ知らなかった…。





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 此処まで見ていただきありがとうございます。


 立見のショータイムが楽しみ、見てみたい。この先が気になり応援したいとなったら作品フォロー、☆評価ボタンをポチッと押してもらえると次の話を書く力となって凄く嬉しいです。



 弥一「気付くと後10日だねー」


 摩央「10日というと…あ、この作品始まってからそろそろ1年か!」


 優也「結局途中止まらず書けたな作者」


 大門「というかこんな長く続いたり話数も重ねられた…奇跡みたいもの、だよな?」


 弥一「残り10日、作者には是非油断せず書いていってもらいたいし無事にサイコフットボール1周年を迎えられたらなって思います♪」

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