第351話 決定する初戦の相手


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 開幕戦が終わった高校サッカー選手権は翌日から本格的に1回戦がそれぞれの会場で始まる。


 シード枠の高校は1回戦が免除されているので、それぞれ次の対戦相手となる高校をじっくり見れるメリットがあった。


 無論王者である立見も例外ではなく、1回戦で争う相手を見ようと会場に姿を現していた。


「えーと、お弁当今日はどれにしようかな〜?」


「呑気に選んでるとキックオフの時間迎えるぞ」


 弥一はスタジアム内にある弁当屋で今日食べる昼食をどれにしようかと悩んでいた。

 共に偵察へと同行に来ている優也は早々とおにぎり2個とサンドイッチを購入し、弥一待ちの状態だ。


「よーしキミに決めたー♪」


 ようやく決まったようで弥一はふわとろのオムライス弁当とサンドイッチを選び購入。


 弥一と優也は共にスタンドへと向かって歩き出す。



「ほら、摩央。お前の分の弁当」


「ああ優也ありがとな」


 先に行って席を取っていた摩央と合流し、優也が頼まれた摩央の昼食を手渡しそれぞれ席へと座る。



 この会場で始まる試合は神奈川代表の東豪大学附属高校と沖縄代表の青門(せいもん)高校、勝者が次の2回戦で立見と戦う。



「東豪は神奈川予選を失点1、決勝戦以外は全部無失点だな。得点は25…守備重視かと思えば結構得点を重ねてるチームだ」


 レベルの高い神奈川予選、そこで僅か一失点のみで勝ち上がり得点を多く重ねている。摩央の説明を聞きつつ弥一と優也の2人はグラウンドにてアップする両チームを見ていた。


「守備は番を中心に堅めだよね、そんで25点の攻撃陣を支える要が居る訳だ」


「ああ、ていうかこいつの名前見て正直ちょっと驚いた。いや…かなりかな」


 番以外に東豪を支える要の選手は既に知っている、それは弥一に優也も把握していた。

 だがそれを知った時いずれも「え?」といった感じだ。


 それは攻撃選手の2人が原因である。




「3年の豪山智春(ともはる)、3年の成海薬都(やくと)…まさかあの2人の名前を聞くとはねぇ」


 成海、豪山。立見の3人にとって忘れられない馴染みある名だった。


 勝也と共に立見サッカー部を作り上げた初期メンバーで去年まで初代のキャプテンと副キャプテンを務めた先輩達だ。


「あの人らに弟が居るとか聞いたこと無いけどな…」


「まあ、俺達も同じ立見でも全員の家族構成とか知り尽くしている訳じゃないしな。突然弥一の兄貴とか弟が出て来ても驚かない」


「僕一人っ子だからそれは流石に出て来ないよー」


 豪山と成海は現在大学1年、あの2人が高校3年ならば1個下となる。


 ちなみに智春は豪山と違い身長低めのトップ下で髪は黒髪短髪、薬都は190cm近くある長めの茶髪で長身のFWだ。

 東豪は智春、薬都が攻撃の要となり守備を番が支えるというチームで神奈川予選を安定した成績で勝ち上がっていた。




 両チームともアップは完了、キックオフの時が迫ればユニフォーム姿となって再びフィールドへと登場。

 番はスタメン、そして話題の智春と薬都も同じくスタメン出場だ。



「相手の青門はPK勝利3つ、結構ロースコアで勝ってるな。失点は少ないけど、得点も少ない」


「PK勝ち3つは相当勝負強いな」


 摩央、優也は青門についてもしっかり調べていた。いくらUー19の番が居るとはいえ勝利が確定という訳ではない、青門が東豪に勝って次の相手になる可能性は充分考えられる。


「沖縄かぁ、サーターアンダギーとか食べてみたいなぁ〜♪」


「相手より沖縄メシ行くなよお前…」


 沖縄と聞いてご当地グルメが思い浮かぶ弥一に摩央は呆れ顔だった。




 試合が始まるといきなり青門が猛攻へと出る。


 予選をロースコアで勝ち抜いたとは思えぬ攻撃的サッカーを展開していた。


「あいつら、予選とは違うサッカーを仕掛けて来たのか?」


「守備重視と印象ある事を利用しての奇襲、てところか」



『青門ゴール前いきなりチャンスとなるー!』


 先制の機会が転がって来た青門、ゴール前にFWへとスルーパスが出される。


 だがこれを受け取ったFWから番がぶんどり、最初のピンチを救っていく。


「どぉらぁ!」


 番の力強い右足のキックによってボールが飛ばされると一気に前へと風に乗って飛んで行った。


 低い弾丸のようなパスを智春がトラップ。


 彼よりも体格で優っている相手が迫り来ると、智春はそれを察知し素早く左へとパス。


 左サイドを走る東豪の選手、しかし流石予選を勝ち抜いた猛者だけあり速攻を受けても青門の選手達は慌てずゴール前をしっかり固める。


 それでも構わずゴール前で待つ薬都へと高いクロスは上げられた。


 空中戦となり、DFが競り合いに行くがそれよりも高い薬都の跳躍。その長身も加わり上から豪快にヘディングを叩きつけた。


 GKはこれを取れず、東豪が開始早々に先制ゴールを奪っていた。



「おー、豪山先輩を思わせる豪快なヘディングー」


「室程じゃないけどあいつ中々高いな」


 薬都の高い打点によるヘディング、弥一はその姿にかつての先輩を思い出していた。

 それは隣で見る優也も同じだろう。



 青門は反撃に出るも中央をガッチリ守る番を中心に、反撃の芽を次々と摘んでいった。


「番もあれからレベル上がったかなー?今の所は相変わらずフィジカルえげつないって感じだけど」


 フランス遠征で共に代表でDFとしてプレー、その時にオフサイドトラップが得意ではないのが分かり、フィジカルに特化したタイプのDFという印象が弥一の中で強かった。


 世界の屈強なプレーヤーと比べたら全体的にまだまだ体格等の問題もあってフィジカルで劣る日本。


 監督のマッテオはそれを埋める為に番へと目を付けていたのかもしれない。


 代表では厄介なアフリカ選手を抑えていた彼の得意とするマンマーク、それをこの試合でもいかんなく発揮して相手のエースに仕事をさせていなかった。



「(このまま、番達の居る東豪かな。この試合は)」


 そして弥一の思っていた通り、東豪はそれから薬都と智春を中心に攻めて行けば智春が鮮やかなミドルシュートを決めて追加点。



 2ー0と突き放し、東豪ペースで試合は進み最後までそれは動かなかった。



 東豪2ー0青門


 成海1

 豪山1



「(おっし!これで次が立見、待ってろよ弥一!)」


 勝利を噛み締めつつ、番は次の立見と戦える。フィールドであの頂点と向き合っての真剣勝負をする事を密かに望んでいた者としては願ってもない機会だ。



「おーい番、早く来ーい!」


「あ、はい!」


 3年の先輩から言われ、番はフィールド外へと出てロッカールームへ引き上げる。



「(初戦は番だけじゃなく成海先輩と豪山先輩のもどき2人かぁ、思ったより面白そうな相手になってきたかも)」


 知っている番との戦いになるかと思えば成海、豪山と元先輩に関連がありそうな選手の登場。


 面白そうな相手だと弥一は心でそう思いつつ会場を後にした。



 立見の初戦はもうまもなく、東豪との試合で2度目の選手権。彼らの開幕戦を迎えようとしている。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます。


 立見の初戦どうなる、この先が気になる。応援したいとなってくれたら作品フォローや☆評価のボタンをポチッと押してもらえると次の話を書く活力となって大変嬉しいです。



 弥一「今回の相手はニセ成海先輩とニセ豪山先輩だねー、そんで番も居るっと」


 摩央「ニセって、ニセモノ騙ってる悪役っていう訳でもないだろその人達」


 優也「偽名な訳ないしな、彼らの本名なら間違いなく成海、豪山その人になるだろう」


 弥一「これが他人だったら珍しい被りだよねー、そんなよくある名字じゃないと思うし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る