第352話 2度目の選手権初戦


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 全体の1回戦が終わってから2日後、選手権は2回戦に入りシード校も此処から登場となる。


 王者立見高校の選手権初戦の会場は超満員の観客で埋まり、注目度の高さを表していた。寒い冬の大晦日にも関わらず会場の熱気が寒さを凌駕していく。


「選手権だと立見、今日は何点取るんだろうな?」


「何処まで無失点記録伸びるんだ?」


 と、主にこういった話題ばかりで相手の東豪がどうという話はあまり出て来ていない。




「今日の立見は今までの相手よりも1ランク…いや、2ランクぐらい上のレベルと言ってもいい。はっきり言って今の彼らは強い」


 試合開始前のロッカールームで東豪の監督が腕を組んで難しい表情で選手達へと言う。


「事前に話した通り、守りに入り過ぎるな。引いてしまったらそれは相手の思う壺だ。強気に東豪のサッカーを見せつけよう!」


 自分達は負けに来たのではない、勝ちに来たんだと力強くそれを伝えれば選手達もそれぞれ応えていた。



「(立見が、弥一が凄ぇ事は分かってる。けど一泡吹かせてやらぁ!)」


 弥一達と戦う時が来て番は密かに気合を入れると、チームメイトと共にフィールドへ歩き出す。




「や、フランスぶり♪」


 選手入場口まで来て立見と共に縦へと並ぶと、番の横に弥一の姿が見えれば向こうから声をかけて来る。


「何言ってんだ、抽選会で会ってるだろ」


「ユニフォーム着てる戦闘モードだったらそうなるでしょー」


「ああ、まあそうだけど…」


 明るくマイペースに話す弥一、番は出来る限り冷静に会話していた。

 試合前から乱れてはプレーに影響が出てしまう。


 心理戦は弥一の得意分野、そのリングに上がるつもりは無い。


「弥一、今年最後のサッカーだ。手加減しねぇぞ」


「うん、まあ大事な選手権の戦いだし手抜きする人誰もいないだろうけどねー」


「あ…それもそう、だよな」


 そもそもこんな大舞台でわざわざ手加減する者などいない、揚げ足を取られていく番。



「あーロングスローとか怖いだろうねーっと♪」


 弥一はそう言ってから列と共に進んで行く。


「(あいつ、王者としてのプレッシャーとかそういうの全然無さそうだな…どんなメンタルしてんだよ)」


 色々とプレッシャーが何かと付き纏う立場、それにも関わらず小さな彼は何時も通りだった。


 番は深呼吸した後に列を進む。


 フィールドへと出て来て緑の芝生に足を踏み入れた瞬間、満員のスタンドからの声に出迎えられた。




『選手権は2回戦へと入り立見高校が登場!前回王者の初戦の相手は神奈川の東豪大学附属高校、予選を僅か失点1で勝ち上がった強固な守備に加え強力な攻撃陣も兼ね備えたチームは立見を倒せるか!?』


『立見の神明寺君、東豪の青山君とUー19のDF同士の戦いでもありますからね。楽しみな一戦ですよ』



 審判団の前に両キャプテンが進み出る、間宮の前に出て来たのは成海薬都。彼が東豪を率いる主将だ。


「(偶然ってのは凄ぇもんだよな)」


 その名前を聞いて間宮も忘れる訳が無い、成海と豪山の先輩2人は今も鮮明に思い出せる。

 あの彼らが役割や体格が入れ替わってるようで変な感じだった。


 コイントスの結果、立見が先攻を取る。



 間宮が立見陣内へと向かえば組まれた円陣に出迎えられ、言葉を発していく。


「相手が何処の誰だろうが関係無ぇ。何時も通り…ぶちかまして行くぞ!」



「立見GO!!」


「「イエー!!」」



 何時もの儀式を終えて立見イレブンはそれぞれ散って位置へと着いた。




 ピィーーー



 立見のキックオフで試合が始まり、半蔵が軽く蹴り出せば明は後ろへと戻して弥一がそれを受け取る。


 まずはゆっくりとした立ち上がりだ。



「(抑えるとしたら、こいつか)」


 番の前に居るのは立見の192cmを誇る長身ストライカー。

 東豪にも長身選手は居るが、彼に高さで対抗出来るのは番ぐらいだろう。


 コートジボワールのエースを抑えた時と比べれば年下の1年である彼はそれより筋肉の厚みが無い、当たり負けはまずしない自信がある。



『左サイド!双子の兄弟の1人、氷神玲音巧い!振り切ったー!』


 ボールを持った玲音、素早い足で左サイドをドリブルで突き進むと並走してきた相手を急にボールと共にピタッと止まる。


 相手が勢い余って止まり損なってしまう間に左からエリア内へとドリブルで侵入を試みた。


「(結構人居るなぁ…!)」


 ゴール前を東豪は人数をかけて固める、思ったよりも多い人数に流石の玲音も突破に苦戦していた。


「(空いた!)」


 僅かな隙間を見てシュートが狙える、そう判断した玲音は左足で撃つ。


 DFの間をボールが通り過ぎてゴールへと向かえば、ほぼ正面にいたGKが近距離のシュートを体に当てて弾き、ボールが転がっていく。


 半蔵がボールを取りに行くが、その前に番の方が追いつき蹴り出していった。



 最初のピンチを脱した東豪が今度は反撃に出る。


『ボールを持った豪山、川田に寄せられながらもキープしていく!』


 大柄な川田から奪われまいと右サイドまで追い詰められながらもキープ。


 そこに2人を追い抜く勢いで東豪の右SDFが走り、智春は川田と争う最中で軽くパスを出せば味方へと通る。


「(よし!来い!)」


 薬都はチャンスと右手を上げてボールを要求、彼は190cm近くある長身だ。此処で間宮が来ても彼になら高さで競り勝てる。


 味方がアーリークロスで高いボールを上げた、大門も飛び出すのが難しい位置。


 後は飛んで正確にヘディングを叩き込むだけだった。




「ぐっ!?」


 だが飛ぼうと薬都が跳躍に意識を向けた時、自分の体に強い衝撃が伝わる。


 見れば弥一が薬都に対してショルダーチャージを仕掛けていた。

 これに飛ぶタイミングを狂わされてアーリークロスは流れ、そのまま大門の方に向かうとしっかりキャッチして抑える。


『東豪チャンスでしたがこのクロスは合わなかったか、エースの成海飛べませんでした』



「(な、何でこんな小さいチビの当たりに俺が…!?)」


 体格で勝る自分がこんな小さく細い相手に当たられたぐらいで怯む訳が無い、だが実際はそうなってしまっていた。

 薬都は信じられないといった顔を浮かべる。


 読みが鋭くインターセプト率が異常に高いというのは聞いていた、だがこんな当たりが強いというのは聞いていない。想定外だ。



 ただ弥一にとっては当然の結果、それよりも高い室にアメリカのデイブと数々の長身選手を相手にしてきた。


 今更190近い国内の高校生相手に怯む訳が無い。


「始まったばっかだよー!じっくりと行こうー!」


 その弥一は前に居る選手達へとすかさず声をかけ、コーチングを忘れていなかった。



 キャッチした大門はパントキックで高々と力強くボールを蹴り上げる。



 長身の川田が中盤での空中戦を制し、影山、田村と繋いで右サイドの詩音へと渡り今度は右サイドから突破を狙う。


 中央へ切れ込む、と見せかけてライン際を走る詩音に対して東豪の守備陣は中央をガッチリと固めていく。


『右サイド氷神詩音から高いクロス、青山これを頭で弾く!』


 中の人数に対して低いクロスのコースも難しいと見て、詩音は半蔵の頭に合わせようと右足で高く上げるも番の頭が届きクリア。



「(ふうん、氷神兄弟にある程度突破されるのは仕方ないと見て…中央を集中的に守るか)」


 後ろから弥一は状況を見ていた。


 これまでの相手はどうにか氷神兄弟を止めようとそれぞれマークを厳しく付けたりしたが今回はそうではない。


 サイドをある程度やられても中央に簡単には行かせないように人数を使って固めている。

 中央だけは意地でも崩させない、そんな強い意志が伝わる彼らの守備だ。


 そしてその中心に居るのがトップクラスのフィジカルを誇るCDFの番。



 彼らの守備をどう崩すか、立見に課題が求められる。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます。


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 川田「思ったより硬いなー、東豪の守備。青山とか居る分簡単じゃないか」


 翔馬「流石失点1…ていうかその失点どうやって取られたんだろ?」


 川田「摩央から情報聞かされただけで具体的な詳細までは…」


 弥一「おーい、次が来るよー」

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