第350話 新生牙裏学園の実力
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「流石狼騎、頼れるねー!」
「あんな守備に阻まれてたまるかよ、取れて当然だ」
2点目を決めて貴重な追加点を牙裏にもたらしてくれた狼騎、これに春樹が駆け寄り労うのに対して狼騎は決めて当たり前だという様子だった。
「ヤバいな…突き放される前に1点返して行くぞ!」
巻鷹が手を叩き、此処からだとチームを鼓舞する。点差はまだ2点で時間も前半だ。
室の高さを積極的に使った攻めを軸とした攻撃的サッカー、それを展開して逆転を狙う。
『琴峯、再び右サイド巻鷹が走る!おっとしかし今回は左サイドへと展開だ!』
右サイドを走る巻鷹、またこのパターンかと思えば今回彼はデコイ。そんなワンパターンな展開を琴峯もやらず、ボールを持った琴峯選手が左から攻め上がる。
室へのクロスを警戒する牙裏守備陣、だが彼の狙いはクロスではなく中央へと走り込む巻鷹だった。
中央へと低いパスを折り返し、巻鷹がそれを受け取ればその前には春樹が居た。
「おたくら、そこまで室の高さに依存してる訳でもないんだな」
「当たり前だ…!高さだけじゃねぇっての!」
もしも室が欠場したりでもしたら頼りきっている琴峯は総崩れを起こしかねない、それを考え当然室無しでの攻撃パターンもきっちり考えている。
巻鷹と春樹のデュエル、得意のスピードを活かしたフェイントで翻弄しにかかる巻鷹に対して春樹は惑わされず冷静に動きを見ていた。
「っ!」
一気に縦へと抜こうと企む巻鷹だが、春樹はそれをさせない。
その間に佐竹が巻鷹へと忍び寄り挟み撃ちを企む。
佐竹が来た事に巻鷹がハッと気付くが、それで春樹から僅かに意識が逸れていき、一瞬無防備になった足元の隙を逃さず春樹は右足を出してボールを弾くと佐竹がこれをフォロー。
『牙裏二人がかりで巻鷹を阻止!琴峯思うように攻める事が出来ない!』
『今のは天宮君と佐竹君良い守備でしたね』
「サイドの守備は甘い所あるなぁ、中央は中々硬いと」
想真から見れば両サイドの守備がそこまで堅くない、中央が堅めであると見ていた。
「そうだねー、夏とはやっぱ違うし色々変わってるよ牙裏」
「主にあの天宮春樹いう奴の存在がデカいわぁ、あいつが攻撃に守備と色々貢献しとるし。予選じゃハットトリックをボランチで達成やからなぁ」
どら焼きを食べ終えて暖かいお茶をすする弥一、その横で光輝は春樹のプレーに注目。
「小さいGKもなんか曲者っぽいし、このチームすっかり酒井狼騎だけのワンマンチームじゃなくなったって訳か」
押し気味に試合を進める牙裏、前回立見も琴峯とは当たっていて弥一が室を飛ばさせなかった事を摩央は覚えている。
今回は室が飛べて頭で狙えているにも関わらずまだ得点は0だった。
それだけ春樹達の守備が効いており、五郎がそのシュートを抑えられている事が大きい。
『再び巻鷹右サイドから高く上がり、室の頭ー!しかしこれも牙裏GK三好が止める!』
琴峯が再び得意のパターンで攻め、巻鷹から室と高いクロスが上がった所に頭で捉えて叩きつける。
だが五郎は再びキャッチする事に成功。
『牙裏カウンターに出る!』
五郎が低空飛行のパントキック、右足でボールを蹴り出せばそれを受け取ったのは狼騎だった。
GKからエースへと速攻、二人がかりで狼騎へと迫るが慌てることなくDFへと顔を向けたまま左のインサイドで右へとボールを軽く転がす。
その位置へと走っていた佐竹がダイレクトで返せばパスを出した瞬間走る狼騎がDF2人の間を突破。
1人のDFが右手を上げてアピールするがオフサイドの旗は上がらない。
抜け出した狼騎がGKをも抜き去り、無人のゴールへと軽く流し込み3ー0。
今日2点目の狼騎、前半で琴峯相手に早くも3点差とリードを広げていく。
『前半終了間際、酒井狼騎が今日2点目のゴール!三好から一気にカウンターが繋がり3ー0、琴峯にとってかなり苦しい展開となってしまいました!』
『点の取り合いになるかと思ったらこれは予想出来ませんでしたね…!やはり三好君が室君のヘディングを止めている事が大きな要因となっているかもしれません』
こんなはずじゃなかった。
フランスで更に成長したつもりでチームを引っ張り勝利に導くつもりでいたのがこうなるとは思っていなかった。
前半が終わって室は0点、シュートが撃てない訳じゃない。良いボールをもらって頭で合わせられていると思っている。
だがいずれも相手の小さなGKが阻止してしまう。
「室、根気良く行くぞ」
「マキさん…」
「しつこくしつこく行ってやる、あのGKが折れてゴールを許すまで何度でも、だ」
「はい…!」
この試合まだ得点が生まれてない、そろそろゴールしないと不味いという焦り、室の様子から察した巻鷹が声をかけていた。
室はその言葉に強く頷き諦めず、何度も行ってやると決意新たに後半戦へと向かう。
牙裏の方は後半戦、左サイドに1年の風見正二を入れれば琴峯のようにサイドアタックの強みが出て来て左サイドの攻撃にも出て行き、攻める手を緩めない。
「(初の全国、国立競技場!最高じゃーん!!)」
全国の大舞台に加えて聖地国立、これに臆するどころかテンションが上がる正二は左サイドを鮮やかにドリブル突破で抜き去り、ゴール前の狼騎へと左足で速いクロスを送った。
これを狼騎は頭で合わせ、室のお株を奪う叩きつけるヘディングでこの試合ハットトリックとなるゴールを決める。
『牙裏4ー0!代わって入った1年の風見から酒井の頭、今大会ハットトリック第一号は牙裏学園の酒井狼騎だ!』
「風見正二か、あの足の速さとドリブルは良ぇもん持っとるわ」
「最近の1年は凄いなぁー」
弥一、想真の2人は正二のプレーを見てスピードとテクニックが中々高い1年だと見ていた、更に大舞台で緊張による固さも特に感じられずメンタル面も優れてるようだと。
「うお!」
室は諦めず、再び空高く飛べば頭で合わせてヘディング。
しかし五郎が正面でしっかりとキャッチ、甘めのコースを逃さずボールを手の中に収めていく。
「五郎ばっかに仕事させるなー!俺らも守ってくぞ!」
但馬達牙裏のDFも五郎に頼ってばかりではない、楽にクロスを上げさせるのを阻止したり中盤で厳しくチェックに行ったりと奮闘。
「ぐ…!」
疲労も出て来て巻鷹は二人がかりの守備に苦戦、そこに正二がボールを掻っ攫ってしまうとすかさず佐竹へパスを出せば自らは左サイドを独走。
そこに佐竹から空いている左のスペースへとボールが出されれば正二はそれに追いつき、足元に収める。
ゴール前で狼騎には2人のマーク、正二は左足でクロスを出した。
狙いは狼騎、ではなく何時の間にかゴール前へと走り込んでいた春樹だった。
低い浮き球のボールを彼は右足のボレーで合わせ、タイミングばっちりのボールはグンと勢いを付けてゴール右を捉えていた。
このボールにGKは一歩も動けず、豪快にゴールネットが揺れるゴールが炸裂。
『5ー0!天宮春樹2点目!これはもうほぼ決定的なゴールか!?』
「あ…!」
巻鷹に責任がのしかかる、自分がボールを取られた事からの失点となったのだから。
「(こんな、呆気なく終わっちまうのかよ!マキさんと最後の選手権!最後の大会なんだぞ!?)」
諦めきれない室、1点を取って反撃の狼煙を上げたい所だがゴールが遠い。
室は2年、此処で終わっても来年がまだある。しかし巻鷹は3年で今年が最後の大会。
此処で終わりにさせるかと室はヘディングから一転、自らボールを地上にて胸で受ければ右足でロングシュートを放つ。
最後の意地のシュート、ゴールまで伸びていくが五郎はこれを正面で受け止めてキャッチする。
そして五郎がキャッチし、ボールを蹴り上げれば試合終了の笛が鳴り響き開幕戦の勝敗が今決まった。
『試合終了!牙裏学園、室を擁する琴峯高校を5ー0と大差で勝利!』
『まさかこんな差がつくとは、力の差は無いように思いましたが勢いが牙裏に味方したと言った所でしょうか』
「終わっちまった…まさか初戦でこんな事になっちゃうなんてなぁ…」
「っ…マキさん、すいません…!俺の力不足で…!」
「阿呆、お前はガンガンシュート行けただろ。相手がそれだけ強かったんだよ…」
項垂れて涙する室、天を仰ぎ巻鷹も泣いていた。今年最後となる大会で1点も、一矢報いる事も出来ず敗退。
悔いは当然残ってしまう。
「室を完封して5得点…ホンマに夏とはちゃうわ」
「せやな…」
牙裏が琴峯を此処まで大差で下す、大会前は思っていなかった事で想真、光輝の最神2人は驚いている。
「……」
弥一は無言でフィールド上で喜び合う牙裏の面々を見ていた。
牙裏5ー0琴峯
酒井3
天宮2
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此処まで見ていただきありがとうございます。
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摩央「はぁ〜、5ー0か。開幕でいきなり牙裏かましてきたもんだよな」
弥一「僕らの時は確か2ー0だったよね、確かフィジカルめっちゃ強いけど蕎麦ぐらいしか食べちゃ駄目な地獄の縛りしていたっていう」
摩央「蕎麦だけ…年越し蕎麦食うぐらいしかねぇな俺は」
弥一「天ぷら蕎麦とか美味しいけどねー、海老天最高♪」
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