第349話 冬の高校サッカー選手権開幕戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
試合開始のキックオフから電光石火だった。
琴峯のキックオフから始まり、何時も通り右サイドの快足SHでキャプテンの巻鷹へと繋ぎ、その間に室がゴール前へと上がって行く。
巻鷹がボールを受けてそこから室への高いクロスを上げれば何時も通りのパターン。
だがこれに反応し動き出していたのは牙裏のエース狼騎だ。
彼が素早く巻鷹へ詰めたかと思えば、蹴ろうとしていたボールへ足を出して弾かせ、そのボールを但馬がフォローして取る。
奪取に成功した牙裏は但馬から佐竹へとパスが渡れば一気に速攻、「遅らせろ!」と琴峯GKの声が響くも佐竹は相手DFとのデュエルで真っ向から突破、と見せかけて右のアウトサイドで軽く右へと転がり出されていた。
牙裏の選手達がそれを取る前にそのパスを受け取ったのは春樹。
相手DFを右のキックフェイントで翻弄し、躱せば二人目が迫る前に空いたシュートコースを見つけると春樹は左足を振り切った。
低空飛行でボールはゴール右下隅へと向かうと、それにGKもダイブして右手を伸ばすが最も取りにくいコースを突かれ、これに届かずゴールネットに球は突き刺さった。
これが前半開始から50秒の出来事だ。
『牙裏速い!速攻から繋いで最後は天宮の左足!大会第一号ゴールは牙裏の背番号6、天宮春樹から生まれたー!』
『点の取り合いになるとは思ってましたが、一分足らずでもうゴールですか!これは攻撃の琴峯もこのまま黙ってはいないでしょうし、まだまだ得点動きそうですね』
「やられた…くそ、悪い!酒井があんな下がってるとは思わなかった…!」
「大丈夫ですってマキさん、まだ始まったばかりですよ。此処から取り返していきましょ!」
自分がボールを取られたと落ち込む巻鷹を室は励まし、切り替えて1点を早めに取り返そうとしていた。
彼の言うように時間はまだ前半1分近く、たっぷりと時間はある。
「おいおい、巻鷹さんがボール取られるなんて珍しいで」
巻鷹とは代表候補の合宿で一緒になっており、力を知っているUー19代表組。その中で光輝が口を開き巻鷹から奪取した事にやや驚いていた。
「フン…あのゴロツキ、守備も結構出来るみたいやな。きっちりやらしいタイミングで足出しとるし」
「あー、あの狼の事をそう呼んでんだ?」
「夏の時に腹にシュートをブチ込まれたんやこっちは!ゴロツキで充分やろ…!」
総体の時にやられた事を想真は忘れていない、腹にシュートを打たれてその間にゴールを決められた事を忘れる訳が無かった。
「酒井の守備もだけど、天宮のフェイントからのシュートも凄かったな。DMFだけど前線の選手並か、それ以上に攻撃能力が高く思えたぞ」
「ああ、それについて同意見やな。伊達に石立中で三連覇しとらんって訳かい」
牙裏が全国的に知れ渡り春樹がテニスプレイヤーとしてだけでなく、過去に石立中で狼騎、龍尾と三連覇に貢献した事はファンなら大体知っている。
なので摩央や想真がそれを知るのは容易いという訳だ。
そしてどら焼きを食べる弥一とも小学生の時に柳FCで共に全国制覇した事も知れ渡っていた。
「おっし、まずは奇襲1つ成功だ。此処からあっち一気に来ると思うから焦らずじっくり守るぞ」
全国で得点を決めて一通り喜び合えば春樹は此処からのプランを簡単に皆へと説明。
琴峯が室の頭を主軸に攻めてくる事は試合前から想定している、分かっていても止めるのは難しい、それが室という大会最長身ストライカーだ。
試合が再開されると琴峯はすぐに攻め込んで来るかと思えば前には出ず、後ろでボールを慎重に回していた。
リードされているが消極的に思える琴峯のプレー、だが彼らにとってこれで良い。
室が前にさえ上がればそれで準備は整うのだ。
「ロング来る!気を付けて!」
「分かってる!」
この試合スタメンGKに選ばれている五郎からコーチング、彼に言われるまでもなくDF陣を率いる但馬もそれは分かっていた。
その言葉通りDFラインの位置から縦に強いボールが蹴り出され、ゴール前にボールが高く上がり国立競技場の空を舞っていく。
太陽が出ていないおかげで肌寒いが、眩しくてボールが見えないという事は無いので安心して空を見上げられる。
室はボールの行方を見上げながら落下地点へとポジションを取っていた。
流石にこれをダイレクトでヘディングシュートは難しい、なので彼の選択はポストプレーだ。
『高く上がったボールに室がジャンプ、流石の高さ!』
ゴール前で室が但馬と空中戦になり、高さで室が勝つと頭で落としてそこに琴峯選手が走り込んで行く。
「(角度的にそのポストで来ると思ったよ!)」
これを先に見抜いていたのは春樹だった、室が落としたボールを読んで足を出してカットする。
『あーっと天宮インターセプト!室のポストプレーを読んでカウンターだ!』
すかさず春樹は取った位置から左サイドへと大きく出す、そこに牙裏選手が待ち構えていたが琴峯の包囲網にかかり囲まれてしまう。
サイドへ追い詰められてボールを琴峯が取り返せばそのままカウンター返し。
縦へと巻鷹に出され、そのままドリブルで右サイドを突き進む。
室はゴール前にマークを受けながらも上がっていた。
どれだけマークしようが空なら逃れられる、それが分かっているので巻鷹は欠片の迷いも無く得意の右足でゴール前に高く蹴り上げて送る。
空中戦となり頭一個分室が相手DFよりも高い、絶好球だ。
これは行けるという感覚と共に額でボールを捉えると地面にヘディングを叩きつけるように放つ。
同点ゴール、試合は振り出しに戻る。
そう思われたがそれは起こらなかった。
「…!?」
驚く室の前には難しいヘディングに飛び付き、完璧にボールをキャッチしている五郎の姿があった。
『おーっと止めた!同点ゴールかと思われた室のヘディング、牙裏の小さなGK三好がスーパーキャッチだ!』
『タイミング難しいはずですけどね、これをキャッチして止めますか…!中々出来る事じゃありませんよ!』
「ゴロちゃんやるねー」
「ゴロちゃん、ってあのちっさいGKの事言うてんのか?」
「うん、あの子そう呼ばれてるの♪」
セーブが難しいであろう球を取った五郎、弥一は最神の2人にも彼が普段そういうあだ名で呼ばれている事を伝えて確実に広げていく。
「あだ名は置いといてやな、今の難しいヘディングを取るって相当なGK技術…キャッチが優れてないと無理やろ」
「元テニスプレイヤーが加わったかと思えばチビのGKも加わってその上サブに左サイドの快足SHも控えとるし、これ夏の牙裏と全くちゃうぞ」
牙裏とは夏に戦った、想真や光輝はその時に彼らは狼騎に頼り気味のワンマンチームという印象あったがその考えは今覆されている。
その間に牙裏の方は再びゴールネットを揺らしていた。
決めたのはエースの狼騎、右サイドに出されたパスに反応しDFラインの裏へと抜け出してそのままトップスピードに乗ってGKとの一対一を確実に制したのだ。
2ー0、点の取り合いになるかと思われた開幕戦だが点差は徐々に開きつつある。
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此処まで見ていただきありがとうございます。
正直体調悪いな、執筆休もうかとなったりしましたがなんとか持ち直し今日も投稿出来ました!
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月城「皆、聞いたか今の?」
佐助「何がだよ?」
政宗「目の前の試合見てたし、何を聞いてたんだよ」
月城「牙裏の小さいGKあだ名ゴロちゃんらしいぜ、煽る時使えそうだなぁって」
政宗「そうなのか、って言ってる間2点目決まってるー!」
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