第347話 冬に向けてそれぞれの過ごし方


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。












「もう1本だ!攻守の切り替えが遅い!」


 静岡にある八重葉学園、そのグラウンドでサッカー部は全体練習で攻守の切り替えについて再確認したりと練習を重ねていた。


 照皇、政宗、佐助、月城といった主力メンバーもその中に混じり中心となって動いていく。


「はぁっ!はっ…」


 息を切らしながらも最後まで走る月城、さらなるスタミナを付けようと奮闘しているようだ。


「無理するな月城ー!大会前に支障をきたすな!」


「っす…!」


 遠くから照皇にそう言われると、月城は大人しくグラウンドから出て休憩へと入る。



「まだまだ、次だ!」


 今日何本目かもはや数え切れない、照皇はゴールネットを揺らしておりもう1本に向けて早くも備えて行く。


「選手権近くなって照皇の奴気合い入ってきたな」


「今年が最後…って兄貴もそうだよな」


 照皇の姿を見て気迫が前にも増して感じられる、仙道兄弟がそれぞれ話していけば弟の政宗が照皇や兄の佐助が今年高校最後の大会だと話す。


「なんかあっという間にも思えるよな、この前高校のタイトル全て取ったかと思えばもう3年生だ、来年はお前や月城が要だぞ」


「ああ…」


 佐助にそう言われると政宗は休憩する月城の方へと駆け寄る。


 自分達がいなくなれば来年は政宗と月城の八重葉、彼らが新たな時代を作り上げてくれるはず。


 その前に心残りが無いように、最後の大会でタイトルを取る。


 照皇は高校生活最後の大会、プロへと行く前に弥一と決着をつけようと更に己を高め続けていた。






「俺が抜けた後に高校サッカー界オモロイ事になっとるやないか、悔しいわー。あと1年ぐらい若かったら一緒にやれとったのに」


「まだ充分若いやろ、若返り求めるの早すぎやで兄貴」


 大坂のお好み焼き店にて鉄板の前で2人がそれぞれヘラを操り、器用にお好み焼きを完成させていく。

 そこにソースや青のりをかけるのも忘れない、特製ソースの香ばしく食欲が唆られる良い香りが鼻に伝わる。


 想真が行き付けのお好み焼き店で食事、その向かいに座る相手は彼にとってよく知る身近な相手だ。


 かつて高校サッカー界No1ゲームメーカーと呼ばれ、想真の兄である八神直人(やがみ なおと)。

 兄の誘いで共に食事へと来ていたのだ。



「お友達の神明寺弥一君がえらいDFの株を上げたんやろなぁ、最近小学生で何かとFWやMFやりたがっとるって構図少し変わってきてるで」


「え、そうなん?」


「DFが格好良い、ほんで選ぶ子が増えてきたって話や。これは日本サッカー界全体でDF強化とかありそうやな」


 小学生の間で圧倒的人気の前線ポジション、だが最近はDFをやりたいという子も増えてきて前向きにDFというポジションへ積極的に取り組んでいる。


「ホンマなら俺がその手本なりたかったんやけどな…」


「この1年であの子ごっつい活躍したやろ、チームとして結果も残しとるし、そら憧れる子増えるわ」


 弥一の此処1年での活躍、国内では選手権や総体での優勝。海外ではフランス国際大会優勝。


 それも全て無失点だ、これで注目されない方がおかしいぐらいだった。


「マジであいつ、凄いわ…正直ホンマの天才やと思う。けど何時までも上にはいさせへん、今回の選手権で下へと引きずり下ろしたる」


 彼の凄さを認めつつ想真は今回の選手権、そこで弥一の立見を倒して念願の全国制覇を果たそうとしている。


 直人も後一歩の所で八重葉に阻まれ、最神を全国制覇へと連れて行けなかった。なので今度こそという弟の気持ちはすぐ伝わる。


「なら、食って力付けようや。兄ちゃんがお前に特製のお好み焼き作ったる!」


「おおきに…って兄貴!それソースかけ過ぎやろー!」


 想真と直人、お好み焼きの作り方でいざこざがありつつも仲良い八神兄弟だった。





「せぇっ!」


 何本か厳しいコースに速く力強いシュートによってゴールを決められている、だが此処に来て連続して狼騎が放つシュートをセーブしている五郎。


 左上隅へと飛んだボールに対し、地を蹴ってダイブすると彼の両腕がしっかりとシュートを掴んでいた。


「はっ…!はっ…!次!」


「…止めとけ、オーバートレーニングは体に毒だ。此処で終わりにするぞ」


「あ、はい…」


 更に練習を続けようとする五郎に狼騎は今日の練習を終わらせ、五郎はそれに従い後片付けへと入る。



「フン、正直すぐに音を上げて辞めるかと思ったらまさか此処まで付き合いやがるとはな…」


「認めてくれたんですか狼騎先輩!」


「調子乗んな小僧、思ったより骨のある奴ってだけだ」


 認めてくれたと五郎が練習で疲れてるにも関わらず、ぱぁっと顔を明るくさせると狼騎はギロッと睨みながら勘違いするなと突き放すように言う。





 今年の4月、牙裏サッカー部へと五郎が入部して間もない頃に彼は狼騎と出会う。


 部活の練習終わりに関わらず、彼はゴールに向かって何本、何十本とシュートを撃つ。それもただ蹴るだけでなく、右足から左足に変えたり左寄り、右寄りと時には角度がほぼ無い所からもシュートしていた。



 それを見ていた五郎は考えるより先に体のほうが動く。


「先輩!僕も一緒に練習させてください!」


「ああ?」


 土下座するような勢いで五郎は狼騎へと頭を下げ、一緒に練習したいと頼み込む。


 最初は無視して続けていた狼騎だが、五郎はしつこく何度も頼み込んで来ていた。


「…フン、誰も居ないゴールよりはマシか」


 根負けしたつもりは無い、自分の練習効率が上がると思っての事だ。



「わっ!?」


 初めて受ける側として狼騎の前に立つ五郎、鋭いそのシュートに練習する姿勢を見てまるで一目惚れしたかのようにこの人と練習したいと思い念願が叶った。


 そのファーストシュートは全く反応出来ずゴールを決められる。


「この程度かよ、何も無いのと変わらないじゃねーか」


「…!もう1本お願いします!」



 しかし何本撃っても五郎はそのシュートに触れられず、何本も決められ続けてしまう。



「とっとと諦めとけ、所詮チビにGKは無理だ。リーチがどうしても足りないんだよ、それはもう努力云々じゃ何も埋められやしねぇ」


 狼騎は息を切らす五郎へと容赦無い言葉を浴びせる、此処でGKを諦めさせて引導を渡すかのように。



「いやだ…」


 だが五郎はその言葉に反発。


「背が小さいから、それで無理なんてだけで…諦めたくない!」


「現実を見ないクソガキが…!無理だっつってんだろ!」


 狼騎は右足のシュートを再び浴びせる、五郎には取れないであろう右上隅のコースを突いたボールだ。



「(背が小さい、リーチが短い…だったら!)」


 五郎はそのシュートに素早い反応を見せると思い切って飛び付き、今日一番の跳躍を見せる。


「(その分遠くへ飛んでやる!!)」


 そして懸命に左腕を目一杯伸ばせば掌へと当ててシュートを弾き出す事に成功した。



「や、やった…止めた…」


「一回だけな、試合ならてめえは大量失点で終わりだ」


「あはは…ですよね…」


 やっとシュートを止めたと伝わったボールの感触を噛みしめる五郎、それに対して現実を知らせる狼騎に五郎は苦笑した。


 本来GKは10回に1回の失敗も出来ず通せない最後の砦、それが今日だけで何回も通してしまっている。

 そういう意味で今日は不合格だろう。


「来れるなら、来い。そんな温いレベルで守られちゃ勝てる試合も勝てなくなっちまう。とりあえず何も無しよりはマシな相手だしな」


「!はい!毎日来ます!」


「土日は休みだろうがバカ小僧」


「あ、そうでした…」






 そこから今日まで五郎は狼騎のシュートをほぼ毎日小さな身で向かい続けた、彼の成長速度には内心狼騎も驚く程で気付けば半分以上の確率でシュートを止められてしまう日まであるぐらいだ。



「狼騎先輩、僕か先輩の決めた得点を絶対守りますから!優勝しましょうね!」


「意気込んでねぇでさっさと帰って休め」


「あ、はい!お疲れ様ですー!」


 何処までも素直な少年、五郎は狼騎に言われて帰り支度を済ませて家へと帰って行った。


「…取るに決まってんだろ」


 狼騎が再びゴールへと見据えれば、そこに一瞬弥一の姿が見えた。


 その幻影を掻き消さんと狼騎は左足のシュートを放ち、豪球がゴールネットを激しく揺らす。


 狼は今、獲物に飢えていた。







 都内の寺にある墓、数多く立てられている墓の1つ。

 その前に弥一は花を供えると手を合わせた。


「(勝兄貴…)」


 神山勝也の墓、弥一はそこへ墓参りに訪れる。フランスや総体を制したが、色々バタバタしていて遅れた彼への報告の為だ。



「(忙して中々来れなかったよ、ごめん。それでこれが終わったらまたしばらく来れないと思う)」


 彼と対面し話すように心の中で弥一は勝也へ報告していく。



「(勝兄貴の作り上げた立見、高校サッカーの2大タイトル獲得して今度は連覇への挑戦だよ。立見が絶対王者になって迎え撃つ方になっちゃったんだ)」


 生きていてこれを聞いたら驚くだろうなぁ、ともしもの世界線を思いつつ弥一は語り続ける。


「(選手権は勿論連覇する、そんでその先にある…Uー20ワールドカップ。これも優勝するから)」


 国内の大会優勝だけではない、国際大会の大舞台。そこでの日本優勝も弥一は狙っている。


「(その大会が終わってからまた来るよ、土産話を沢山持ってね)」


 弥一は合わせていた手を解いて目を開けると、次はその時に来ると約束して立ち去って行く。



 高校サッカー選手権の開幕はもうすぐそこまで来ていた。



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 摩央「暑かったり寒かったりといぞかしい季節になってきたな、今日は寒っ!」


 弥一「うーん、アイスの美味しい季節だったりラーメンの美味しい季節に急に変わったりと大変だぁー」


 摩央「また食べ物かよ、とはいちいち突っ込まねーぞ」


 弥一「ツッコミ放置ー」

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