第343話 冬の日常からの息抜きで思わぬ出会い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
季節は12月、夏の残暑はもう欠片も無く皆が厚手のコート等を着て歩くのが当たり前な気温だ。
「うわ、今日さっむ〜」
「雪とか降るんじゃねぇの?」
何時も通り朝練に参加の立見サッカー部、何時にも増して冬の寒さが厳しくなってきて何人かの部員が寒そうに両腕を擦って少しでも暖を取ろうとする姿が見える。
しかし練習が始まればたちまち寒さは忘れていく、目の前のボールを追い掛けたり走り回っている内に暑さの方が支配してくるからだ。
「これ去年より寒さ厳しくなりそうかな?」
「それは下旬まで分かんないけど、ただ確実にこの感じだとベンチコートいるだろうし」
話しながら互いにパスを送り合う武蔵と翔馬の姿、なおボールのスピードは速め。
立見サッカー部に1年以上居る彼らにとってはこれが日常だ。
「はい次こっち走ろうー、肩や腕に無駄な力入れちゃ駄目よー」
「はーい!」「うおーす!」
「何か声元気で余裕ありそうだからもう1セット追加しようかー」
弥一の方は自らも走って1年達へとナンバ走法の指導、緩くやっているように見えて意外とスパルタで容赦無い。
特に彼がインターバルトレーニングを指導する時は四方八方に移動して走り、弥一のその日の気分でジョグやダッシュのタイミングに走る方向がコロコロ変わり部員達にとっては地獄のトレーニングだ。
フィジカル関連の練習は合気道が中心となり、他には高速でボールが撃ち出されるサッカーマシンを使った練習を行い個々の力を上げていく。
そこに全体のチーム練習を入れて連係やチーム力を高めるのが立見流だ。
「12月中旬になってきたら全体練習主体に切り替える」
「分かりました」
監督の薫から先の練習予定について伝えられると、摩央はスマホで管理する立見の予定スケジュールへと操作で書き加えていった。
暇さえあればスマホを弄る依存症がこういう所で役に立っている。
立見サッカー部は12月末の選手権に向けて着実に準備を進めていた。
「あ〜、無事にテスト乗り越えられた〜」
日々の練習や試合よりも疲れた様子で、教室の机へと自らの顔を沈める弥一の姿がそこにある。
「一時期は赤点の危機とか囁かれてたけど、よくまあ此処まで来たよね」
前から外国語以外の成績に不安があった弥一、そこで成績優秀な同じ部の関係者に面倒を見てもらっていて鞠奈もその1人だ。
「先に言うと密着動画は無理〜」
「流石にそんな頭から煙出てそうなショート寸前まで追い込まれてる子に動画撮らせて、なんて言う程あたし非常識じゃないから」
今の弥一に密着動画を撮ったとしてもまともな動画にはなりそうにない、そこは鞠奈も分かっていた。
「勉強中はもう何回も思った〜、これよりも連日試合に毎回スタメンで動く方が楽だって」
「どんだけ勉強嫌なの君は、それで立見の入学試験とかよく受かったよね」
「そこは人生一すっごい勉強したから〜」
サッカーでは無双っぷりを見せている弥一だが勉強が苦手、彼にとっては練習や試合よりもテスト勉強の方が疲れるものだ。
文武両道を目指す立見高校だが弥一の場合は武の方へと偏り過ぎて文の方が欠けていた。
「終わったから部活の方行っていいよね?ね?」
「うんうん、部活もうすぐ終了の時間迫ってるけどそれでも良いなら」
部活の方に戻って良いとなった弥一はいそいそと早歩きで、サッカー部の居るグラウンドへと向かう。
「プライベートな神明寺弥一は食べるの大好きでよく遊ぶ、勉強はちょっと…いや、かなり苦手か。案外普通の高校生と変わらないんだよね…」
高校サッカー界で最強プレーヤー、天才の素顔は特別という訳じゃない。
普通の高校生と変わらず、ただサッカー好きで食べる事や遊ぶ事が好きな少年だ。
世間じゃ凄い人に見られてるが実物は自分達と変わらない、間近でマネージャーをしていて愛奈は改めてそう思いつつ勉強の後片付けを始めた。
弥一にとって厄介なテストが終わり、解放されれば部活の無い土曜日に輝咲とデートの約束をして当日に立見の駅前で合流。
「うん、ベストショット♪良いのが撮れたー」
都内のゲーセンでプリクラを弥一と輝咲の2人で撮り、色々名ツーショットで撮っていき、中には30cm程ある身長差を補おうと輝咲が弥一を後ろから抱えて撮るというショットも撮ったりしていた。
「この1枚はちょっと恥ずかしかったけどー…」
「そうかい?こんな君の姿も中々レアで良いなと僕は思うよ」
輝咲にとってはこれがベストショットの1枚となったようだ。
「あー、取れない〜」
プリクラ機から移動し、次に遊ぶはクレーンゲーム。人気の大きな黄色い電気ネズミのぬいぐるみを見て輝咲が可愛いなと呟いたのが聞こえ、弥一は彼氏として良い所見せようと挑んだ。
だがアームでガシッと掴んでもスルリと抜けて落下してしまう。
流石の弥一もぬいぐるみやアームの心を読むなど出来る訳もなく、普通に自らの腕で取りに行くしかない。
しかし彼も100円玉をマシンに飲まれてばかりではなかった。
感覚を掴めば10回目間近の挑戦でぬいぐるみを上手く穴へと叩き落とすと、景品口から目当てのぬいぐるみゲットに成功。
「輝咲ちゃん取れたー、はい♪」
「良いのかい?ありがとう弥一君」
元々は輝咲が欲しがっていた物だ、弥一から大きなぬいぐるみを受け取れば輝咲は嬉しそうに微笑んだ。
何時もは王子様のように格好良い彼女だが、この時は可愛い乙女だった。
「あ、ついでにあれやろっと♪」
弥一は小さな菓子が複数取れるチャンスのクレーンゲームを見つければ1ゲーム挑戦。
すると一発で大量の菓子を景品口へと落とし、多くの菓子を獲得に成功する。先程のぬいぐるみと比べればどうという事は無い難易度に加え、菓子が食べたい欲も力となったらしい。
「この後ご飯とか行くんだから、少しだけにしときなよ?」
「分かってるってー」
ルンルン気分でゲーセンから出て来た弥一、輝咲から食べ過ぎないようにと母親みたいな事を言われながらも一口サイズのビスケットをサクサクと食べていた。
「あれ、神明寺さん!?」
「うん?」
次に行こうとした時に自分の名を呼ぶ声に気付く、何時だったか聞いた覚えがある声だ。
「急にどしたゴロちゃーん……」
声のした方へと弥一が振り返ったタイミングで白い帽子を被る少年へ連れらしき背の高い金髪の女性が駆け寄る姿が見えた。
少年は総体の時にも会った、牙裏学園の控えGK三好五郎だ。
「あんた…!」
「ん?」
五郎と一緒にいた金髪の女性、彼女は輝咲の姿を見れば睨む目へと変わっていた。
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鞠奈「はぁ〜、クリスマスイブも近いってのに彼氏も無しで1人ぽつぼつと動画作業…雪の降るイブの日に恋人と甘い口づけで結ばれる…なーんて、そんなん漫画やドラマだけの話だよねー」
京子「っくしゅん!…寒くなってきたからちゃんと暖かくしないと…」
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