第333話 高校サッカーの頂点に立つ小さな少年
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
雅乃坂を大差で下し楽々2回戦進出を果たした牙裏学園、次の試合に向けて再び始まる練習の日々。
五郎も次の試合でGKとして公式戦のゴールマウスを守れるよう様々な体勢でのキャッチングにセービングと、先輩や同級生達と共に練習をこなしていた。
「ゴロちゃん頑張ってるけど次とかスタメン行けないかねぇ?」
「それは難しいと思うよ、GKはフィールドプレーヤーと違って中々出番に恵まれないし今加納先輩から変える理由も無いと思うから、3年同士の守備陣の連携もあるし」
愛奈はクラスメイトの千尋と共にサッカー部の練習を見学、五郎が練習を頑張っていて次こそスタメンに選ばれないかと思った。
だがそれに対して千尋はシビアだ。
いくら五郎の調子が良かろうと、前回ミス無く失点無しで試合を乗り切った正GKから代えるという理由は特に無い。
相手も次からより手強くなる、次も五郎ではなく何時も通り加納が守ると千尋は考えていた。
片方が出ればもう片方は出られない、試合でゴールを守れるGKはたった1人だけだ。
「(おっかない先輩と居残り練習もいっつもしてて努力凄ぇ重ねてるんだけどなぁ…)」
五郎が狼騎と練習終わりで暗くなるまで居残りの練習をしている、その姿を見てきている愛奈としては努力が報われて五郎が試合に出る事を望んでいる。
愛奈の視線の先には懸命にボールをキャッチする五郎の姿があった。
次の日の昼休憩、2年の教室で千尋と昼食を一緒に食べる事が当たり前となりつつある愛奈。
「ねえ、何時も思うけどそれ…太らない?」
「や、あたしいっつもこれぐらい食ってっからさ」
既にボリュームある肉の惣菜パンを1つ平らげて、次のサンドイッチへと手を伸ばす愛奈に千尋はよく太らないなと思いつつスマホに触れていた。
パンやサンドイッチだけでなく弁当も購買部で買っていて、愛奈の食事量は食べ盛りの男子学生並かそれ以上だ。
一方千尋の方は太る事を気にして小さな弁当1つで昼食を終わらせている。
「あ、動画上がってる…!」
愛奈が昼食を食べている向かいで千尋は動画サイトをスマホで見ていて、そこに新着動画が上がっている事に気付く。
「なんの動画よー?」
「立見高校の神明寺弥一君の独占インタビューだよ!」
「立見…あー、今の高校サッカー界で最強って言われてる所だったか」
前に千尋から立見について聞かされた事、それを愛奈は思い出していた。
今の高校サッカー界で1番強い高校、その中心にいるのが天才DFと言われる神明寺弥一だと。
「(どんな奴だ一体?)」
1番強い高校で特に最強の存在、ごつい男だろうなぁと想像を膨らませつつ、愛奈はサンドイッチを食べながら自らもスマホで動画サイトへと見に行く。
弥一の独占インタビュー動画を上げたのは高校サッカーを専門とした公式チャンネル、各地の予選の戦いといった様々な高校サッカーの情報を幅広く伝える事で知られるチャンネルだ。
「今日は高校サッカーで最も強く、注目される立見高校。その要として活躍する神明寺弥一君に迫りたいと思います」
「あはは、よろしくお願いしますー♪」
女性のインタビュアーと共に映る弥一の姿、彼はカメラへと向かって明るい笑顔で手を振って挨拶した。
「(これが神明寺弥一?思ったより子供っぽいっつーか…子供だよなこれ)」
愛奈が初めて見た弥一の姿、それに対しての感想はとても高校の頂点に立つ男という感じには見えない。そんな印象だった。
「神明寺君は立見のみならずUー19でも活躍でしたよね、フランスでは強豪と言われるベルギーを下して日本の勝利に貢献したりと」
「あれは僕一人の力じゃないですねー、皆の向いてる方向が1つに噛み合ってこその優勝ですから♪いやー、あの大会は大きな選手ばっかで大変でしたよー、特にアメリカとか凄かったですしー」
「あ、ええ。そうですね、アメリカは大会で1番の平均身長を誇って大型選手が揃ってましたからね、日本は初戦でアメリカのデイブ・アーネストにベルギーのアドルフ・ネスツと海外の同世代で強敵と言われた彼らを蹴散らし…」
インタビュアーはベルギーの話をする予定だったのだが、弥一の方からアメリカについての話が出て来たのてそれに合わせインタビューを続け、どうにかアメリカからベルギーへと話を軌道修正させる。
「ベルギーのアドルフとは神明寺君のイタリア留学時代の友人という噂も出ていますが彼とはどういった関係でしょうか?」
「噂通り、彼とはイタリアのミラン時代でサッカーをした仲ですよー」
特に隠すような事はなく、弥一の方からアドルフとはイタリア留学時代の友人だと答えていた。
「イタリアのミラン、となると今セリエAで活躍してミランを躍進へ再び導いているあの天才サルバトーレ・ディーンとも交流があるのでしょうか?」
弥一の留学時代、イタリアのミランと聞いてそこから話題を将来バロンドールも狙える逸材と名高い天才、ディーンについても触れていく。
「んー、向こうはどう思ってたか分かんないですけどー、僕は友人のつもりで接してましたよ♪」
あまり言うとディーンやミラン側に迷惑だと思ったか、弥一は彼と友人関係だとは言わず友のつもりで接していたとだけ話す。
インタビューは進み、弥一が色々な美味しい食べ物に関心があったりする事を語ったり結構スマホゲームもやっているとプライベートな部分も語れば話題は高校サッカーの話へ行く。
「神明寺君で欠かせないのがやはり前回の選手権決勝、八重葉学園との試合で見せた伝説のゴールですね。あれは世界に衝撃を与えたと思いますがご自身ではどう思ってますか?」
立見と八重葉の選手権決勝、弥一が天才GKと言われた工藤龍尾からゴールを奪ったプロでも出来ないような離れ業。
相手のゴールキックを振り向いてボレーで蹴り返すという超スーパープレー、これを真似する物が世間だけでなくテレビや動画の企画で続出したがいずれも再現に至る事は無かった。
「いやー、どうと言われてもあの時は僕も無我夢中でしたからねー。必死で決めた1点ですけどそれで僕を覚えてもらってるなら嬉しい事ですよ♪」
「という事はご自身で再現というのも難しいでしょうか?」
「今此処でやれと言われたら絶対出来ない自信しかないですねー♪」
あまりの神業故に撃った本人も再現は至難の業、それ程の高難易度だった。
「そんな伝説を生み出した前回の選手権から1年、新たな立見となって挑む今回ですが意気込みの方は?」
「勿論2連覇を狙いますよー、前回の選手権に続いて夏の総体も取りましたし、チームも勢いありますからね。今年の立見も優勝出来ると思って臨みます、その前に東京予選勝たなきゃですけどね♪」
「では目標は東京予選突破、更にその先の選手権2連覇ですね」
「あ、違いますー」
「東京予選も全国も無失点で制覇する、それが目標です」
今までマイペースに答えていた弥一だったが、最後の目標は不敵に笑って言い切っていた。
ただでさえ今の無失点記録もとんでもないが弥一はそれでも物足りず、さらなる記録更新を目指す。
「はぁ〜、神明寺君マイペースな可愛い子かと思えばこんな大胆でビッグマウスな事言えちゃうんだもんね…普通言えないよ」
動画を見終わった千尋、弥一の大胆な発言は自分じゃどんなに凄くても言えないなぁと語りつつ残りの弁当を食べていく。
「これが神明寺弥一ねぇ…」
今の高校サッカーの頂点、動画に映るその姿を愛奈は眺めていた。
学校が終わり五郎は今日も狼騎との居残り練習をこなし、帰り支度をすれば待っていてくれた愛奈と一緒に帰宅の道を並んで歩いていた。
「ゴロちゃん、今の高校サッカーの頂点の奴って変わってんな」
「え?」
愛奈から急に言われた言葉に五郎は一瞬何のことだろうと思った、高校サッカーの頂点を考えると立見、そして弥一の顔が頭に浮かんで来た。
「まあその…変わり者というかマイペースですねあの人って」
五郎は初めて弥一と会った時の事を思い出せば、自分のペースで美味しくご飯を食べていた姿が印象に残る。
「あんだけ小さいのが活躍してんだからゴロちゃんもいけるいける、次こそスタメンな♪」
「わっと…!頑張っていきます…!」
励ますつもりで愛奈は五郎の背中を右掌で押し、それに堪えながらも五郎は次の試合へ向けてまた頑張って行くと答えた。
何時かは立見と、弥一と今度はフィールドの上で戦えるように。
だが、次の2回戦も皮肉にも千尋の読みが当たり五郎はまた控えだった。
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弥一良いぞー、もっとやれー!もっと言えー!とかなったりこの作品を応援したいとなっていただけたら作品フォロー、または☆の評価を送るボタンをポチッと押していただけると大変ありがたく嬉しいです。
摩央「立見のインタビューあいつが答えて大丈夫ですかね…?」
間宮「さあなぁ、また何か言って振り回しそうな感じするけど…向こうが弥一をご指名してた事だしな」
影山「今頃全試合無失点目指します、とか言ってたりして」
大門「それは弥一なら言いそうです、というか言いますね!」
弥一「333ゾロ目ー!(後ろからクラッカーをパーンと鳴らし)」
大門「おわぁ!?」
間宮「な、何だ弥一てめぇ!?インタビュー行ったんじゃ!?」
弥一「せっかく333話と滅多にないゾロ目まで来たもんだから何も無いのは寂しい、と思ってちょっとしたドッキリ仕掛けましたー♪」
摩央「そういうのは1周年でやれ!1ヶ月後に盛大に!」
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