第331話 公式戦の初戦に向けて練習と発表


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











「えー、みなさん。選手権の予選の組み合わせが発表されました」


 牙裏サッカー部にて放課後の練習開始前、部員達の前で50代くらいで白髪混じりの年配男性が穏やかな口調で話す。

 彼がこのサッカー部の監督を務める松永総二郎(まつなが

 そうじろう)だ。


「我々牙裏学園は1回戦からで相手は雅乃坂(みやびのざか)高校さんです、その試合に備えてみなさん練習頑張って行きましょう」



「雅乃坂…?」


「強い所だったか?」


「分かんね、聞いた事ない」


 対戦相手の雅乃坂については部員達が話すと皆心当たりが無い様子。


「さあさあ、未知の相手を気にするより僕らの力を高めるのに集中集中。行くぞー」


 ざわざわと騒ぐ部員達に向かって春樹がパンパンと手を叩き練習へと促し、各自が動き出す中で春樹は1人の部員を呼び止める。


「風見、お前最近頑張ってるようだから此処でアピールすれば公式戦出られるかもしれないぞ」


「え、マジっすか!?」


 呼び止められたのは1年の風見正二、春樹から初の公式戦でメンバー入りどころか試合に出られるかもしれないと告げられれば分かりやすくテンションが上がってくる。


「お前と同級生の五郎だって1年で控えに居るだろ、ちゃんと1年にも可能性あるって証拠だ。頑張ってけよ」


「うぉっす!」


 張り切って練習へと向かう正二の姿を見て実に分かりやすい反応だと、春樹は微かな笑みを浮かべていた。


 春樹の記憶が確かならば正二は左サイドハーフの選手、スタミナに難があるものの彼は中々のスピードを誇る。


 加えてレフティー(左利き)と貴重な存在であり、彼が機能するようになれれば牙裏にとっては大きな武器となる可能性があった。

 今の彼のスタミナを考慮すれば後半に疲れが出て来るであろう終盤辺りの時間帯に相手を引っ掻き回すのが良い。


 正二の成長を願いつつ春樹自身も練習へと入って行った。




 1回戦まで時間もなく牙裏サッカー部は実戦を意識した練習を多く行い、試合の方へとシフトを切り替えていく。


「そのまま上がれ上がれ田中ー!」


 紅白戦で控え組がレギュラー組の右サイドを切り裂かんと、空いている右のスペースへと出されたスルーパスに田中と呼ばれた1年が走る。


 通ればチャンスとなるボールだが誰よりもそれを察知して動き出す人物が居た。


「狙いが見え見えだ!」


 春樹がスルーパスを上手くカットすれば、そのままクリアするかと思えば前方を見渡しフリーとなっている選手を見つければ、右足で人と人の間を通す正確さに加えて速いパスを送った。


「右フリー!気を付けてー!」


 控え組のゴールマウスを守る五郎は味方へと懸命にコーチング。


 レギュラー組はキャプテンの佐竹を中心にボールを繋ぎ、右サイドを走らせてそこからクロスが上がり佐竹自ら頭で合わせてヘディングでゴールを狙う。


 ゴール右へと飛んだ良い佐竹の頭だが、それに素早く反応していた五郎がボールに飛びついてこのシュートをガシッとしっかり掴み、倒れ込みながらキャッチング。



「ナイス五郎!こっちー!」


 五郎のセーブを褒めつつ右手を上げ、ボールを欲しがる正二。

 立ち上がった五郎はその姿に気付き低い弾道のパントキックを右足で蹴ってボールを送ると、真っ直ぐ正二へと飛んで向かっていく。


 五郎から飛んできたボールを胸で受け止め、足元へと落とし正二は前を向いた。そこに目の前で春樹の姿を見てしまう。


「(うわ…!?)」


「(スピードあると分かってて誰が真っ直ぐ走らせるか)」


 正二がスピードに優れたのは分かっている、だったら縦には抜かせないと春樹はそのコースを防ぐ形で立っていた。


「(こんの!だったらそのまま躱してやる!)」


 春樹相手なら一対一で躱せる、正二はそう判断しパスには行かず自らドリブルで抜き去る選択を取り、ボールを何度もまたぐシザースの動きを見せて春樹を翻弄しにかかる。


 そして右から春樹を抜こうと正二が動き、春樹もそれに対して動けば正二の足元はそれに反して右足のインサイドで小さくボールを左へと軽く転がせば、左足で前方へとボールを蹴り出す。


 前には人の姿は無い事は確認済み、後は正二が自身のスピードを活かし自ら蹴ったボールへと追いつくだけだ。


 しかし彼の思い通りにはならなかった。


 何故なら左足で正二がボールを蹴った時、春樹がサイドステップで横へと動き再び正二の前に立てば蹴られたボールを足に当てて弾いてみせたのだ。


「(な!?見破られただってぇ!?サッカーから離れてテニスしまくってたってのに…!)」


 今のフェイントで抜けたと思った正二は目を見開いて驚いていた。

 正直サッカーから離れてテニスの方に打ち込んでいた奴には負ける気がしない、そう思って一対一へと持ち込んで抜けると踏んでいたがそれは甘い考えだと知らされてしまう。


「惜しい、危うく抜かれる所だった」


 すれ違うと共に正二の右肩を軽くポンと叩き、伝えれば春樹は再びコーチングで指示を飛ばす。



「くっそー!まだまだー!」


「(ほう、中々負けん気も強いと…良いプラス要素だ)」


 負けてたまるかと再び走り出す正二、ほとんどが3年でレギュラーを固める中で1年でも試合に出られるチャンスがあると、正二は目の前に転がっている公式戦への出場機会を逃すものか、その気迫と勢いで再び走り出していた。


 正二の姿を見て春樹はフッと小さく笑う。





「以上が雅乃坂戦のスタメンとなります」



「「……」」


 五郎と正二の1年2人は揃って肩を落としていた。


 部室にて監督の松永から1回戦に出るスタメンが発表されたがほぼ3年、そして2年で固められて1年の2人は選ばれていない。


「.(僕はともかく…)」


 五郎はちらっと狼騎の方へと視線を向けた。


 先輩GKである加納の調子が良く、五郎もアピール出来た方だったがやはり正統派の方が好まれるのか、そちらの方が選ばれている。


 だが今回は自分だけでなく狼騎までスタメンに選ばれていない、実力で見れば確実に選ばれるはずが今回外されたのは五郎にとって意外だった。


 その狼騎の方は特に納得行かないという様子は無く、興味無い感じでそっぽを向いているようだ。



「では控えは…GK三好、DF若田…」


 五郎の名は控えの方で呼ばれ、総体に続き第2GKとして選ばれた。


「MF風見」


「!?」


 控えで正二の名前が呼ばれて、彼の仲間達がそれに驚く以上に本人が自分の呼ばれた名にビックリしていた。


「おいショウ、やったじゃんか!」


「俺ら差し置いて憎いぞこいつー!」


「は、はは。やったやったー!」


 仲間から祝福されて正二は控えながら初の公式戦メンバー入りを果たし、選ばれた実感が湧いてくればガッツポーズで喜んだ。


 五郎も内心で友人のメンバー入りを祝いつつ、狼騎が一足先に賑やかな部室を後にする姿が見えて五郎はその後を追って自らも続く。






「狼騎先輩、あの…!」


 スタメン落ち、それに対してどう声をかけていいのか分からないまま五郎は狼騎へと声をかける。案の定彼に話しかけてからその後の言葉が中々出て来ない。



「くだらねぇ事考えてねぇで今日も練習付き合うなら付き合え、ちゃんと集中しろよ。じゃないと意味ねぇからよ」


 そう言うと狼騎はすたすたとフィールドのゴールマウスへと向かって歩き出す、彼のシュート練習が始まるとこれまでの付き合いから五郎は分かっていた。


「はい!」


 五郎もゴールマウスへとキーパーグローブをつけ直しながら向かい、狼騎の前に立つ。


 そして2人は日課の練習へと入り、五郎と狼騎は辺りが暗闇に包まれるまでその動きを止める事は無かった。





 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます!


 何時かは五郎もスタメンに選ばれてほしい、応援してる!狼騎は何故外れたと気になったりしたら作品フォローかまたは☆を送って評価するボタンをポチッと押して応援してもらえると大変助かり次の執筆へのやる気となります!



 弥一「ふー、急に寒くなったなぁ〜。こういう時コンビニの肉まんとか美味しいから食べたくなるねー♪」


 川田「あー、俺そっちよりレジ横にあるチキンとかの方が良いかな」


 翔馬「僕は甘い物とか欲しくなるかなぁ、チョコチップメロンパンとか美味しいから」


 弥一「食べたくなったからコンビニまでダッシュしようー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る