第330話 少年がGKを選んだ理由
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「お疲れー、ゴロちゃん帰ろうぜー」
狼騎と追加の練習を終えた五郎、帰り支度を済ませて部室を出て正門へと向かう途中で愛奈が彼に対して軽く手を振っていた。
「あ、あれ?向坂先輩帰ったんじゃなかったんですか」
「どうせやる事も無いから練習見てたんだよ」
愛奈は帰らずに五郎と狼騎の練習を見ていたようで、五郎の方は集中してたせいかその姿に気付く事は無かったらしい。
「そうだ、腹も減ってるだろうし途中で見かけた定食屋で飯でも食ってかない?あそこ美味そうだったしさ」
「あ、じゃあ家族に連絡しとかないと…」
愛奈からご飯へと誘われると五郎は練習でお腹を空かせており、彼も通学途中で見かけた定食屋は美味しそうと思いながら通っていた。
五郎がスマホを取り出せば家に今日は友達とご飯食べて来る、と連絡を入れておく。
改めて五郎は愛奈と共に今朝通った通学路を遡るように並んで歩いて目的地へと目指す。
「しかしまあ、ボールを取ったり弾いたり蹴ったりしたかと思えば速く走って遅く走るを繰り返したりと、何時もああいう練習してんのか?」
「今日のインターバルトレーニングに関しては何時もじゃないですよ、あれは結構体に負担かかって大変ですから」
何時もあの練習なのかと歩きながら愛奈に聞かれれば、五郎は一部だけたまにやる練習と説明していく。
「サッカーじゃ何時急いでダッシュするか分からないから普通にランニングするより効果的、だったか」
「そうですね、長時間走り回りますけど展開によってダッシュするタイミングは色々変わって何時起こるか分かりませんから」
今日その練習について付け焼き刃の知識を披露してみせた男子学生の言っていた事を愛奈は思い出す。
単純に走れば良い訳ではない、大勢が入る四角いフィールドの中で皆がボールを追いかけ回すスポーツかと思っていた愛奈だが、その印象も変わりつつある。
「ふうん…」
横で歩く五郎の姿を愛奈は改めて見る、華奢で女子の愛奈より低い身長。2人が並ぶ姿を見れば大半は愛奈の方がスポーツをやっていると思われそうだ。
彼のポジションはGK、五郎と同じGKをやる他の選手達は皆背が高かった。190cmある者も居たり160cmにも満たない五郎は周りからすれば一際小さく見えるだろう。
体の大きな者が集まるポジションを小さな彼が何故やるのか、その事を聞こうとしたら目的地の定食屋はもう見えていた。
大通りに面した場所にその定食屋は経営していて、安い価格で定食が食べられ牙裏学園が近いというのもあり社会人の客だけでなく学生の客も多く訪れる。
五郎と愛奈が向かい合う形で席へと座り、それぞれ食べたい物を注文。
「そういえば、ゴロちゃんってどうしてキーパーを選んだんだ?」
此処で愛奈は先程聞こうと思っていた事を五郎へと聞く。
大きな体をした男達が集まる中で小さな彼が何故そのポジションをやるのかと。
「サッカーを始めた頃は違うポジションだったんですけど、きっかけはプロの試合を見に行った時ですね」
五郎は懐かしそうに昔を振り返ればかすかに笑みを見せながら愛奈へと語り始める。
「初めてのJ1での観戦、家族とゴール裏の席でした」
当時小学校3年生、ポジションはFW。プロのストライカーを間近で見れると楽しみに観戦していた頃だ。
同じポジションのプロのプレーを参考にしようとしていたがこの日に輝いたのはストライカーではなかった。
「相手チームが攻めていて撃ったシュートの数も多かったんですけどね、でも…それを全て止めてチームのピンチを救ったGKの姿が凄い格好良かったんです」
良いコースへと飛んだシュート、これは決まるとなったのに対してGKは地を蹴ってボールへと向かって飛んで行けば懸命に片腕を伸ばして触れればシュートの軌道を逸らし、相手の得点を阻止。
その時五郎の周りは得点が決まったようにGKのピンチを救うセーブによって盛り上がり声援がより一層熱を増していく。
次にピンチとなったのはDFラインの裏へと抜け出して来てGKとFWが一対一となる場面。
今度こそゴールかと思われたがGKが迷いなくFWへと向かって飛び出し、体を張って至近距離のシュートを阻止してみせた。
更に相手のチャンスは続き、ゴール前正面でFKを迎えるとキッカーの蹴ったボールはゴール左上隅へと飛ぶ絶妙なコースを描く。
それに対してGKはボールへと向かってダイブ、両腕を伸ばせば良いコースに飛んでいたボールへと届き、掴み取れば決してその手を離さずキャッチした後も体でボールを包み込んで離さなかった。
当時の五郎はそのキャッチングしたGKの姿が強烈なまでに自らの目に焼き付いて離れず、何時の間にか最初のFWの動きを参考にからGKの動きばかりを追いかけるようになっている自分が居た。
その日の試合は1ー0で終わり、スーパーセーブを連発したGKのおかげでチームが勝利。
守備のポジションがヒーローとなれた試合、五郎はこの試合でGKというポジションに強く惹かれて次からポジション変更を申し出て自らもそうなる事を目指すようになったのだった。
「はぁ〜、幼い頃のプロの試合が影響してねぇ。それでゴロちゃんはその後活躍はどうだったんだ?」
「それがあまり背が伸びなかった影響あってGKとして試合やらせてもらえませんでした」
小学生はまだGKとして試合に出られたが中学時代になると、周囲との身長差が出て来て五郎がゴールマウスに立つ事は無かった。
当時の監督やコーチからは身長が足りない、お前の小さな体じゃGKは向いてないから諦めた方が良いと言われて五郎の守護神としての可能性を否定され続けてきた。
スタメンに選ばれるのは五郎より身長が高く掌が大きなGKばかりだ。
しかしそれでも諦めきれない五郎は自ら選んだポジションから逃げずに練習を、努力を続けた。何時かは選んでくれると信じて。
結局彼が試合に出られたのは紅白戦や練習試合だけで公式戦は無し、五郎は中学時代の実績が一切無いまま牙裏学園へと入学していった。
「何だ、小さいから駄目だとか決めつけちゃって。そういう決めつけと自分の常識でそいつの力を測るのは駄目だろ」
身長が低い、それだけで選ばれない事に納得いかない顔を見せる愛奈は落ち着こうとお冷で運ばれたコップに入った水を一気にゴクゴク飲み干す。
「まあでも…普通に考えれば大きい方が手足のリーチが長くなってボールに届きやすく有利ですからね、僕はそれで不利なんだと思われたんだと思います」
GKというポジションはサッカーの中で最も身長が大事、際どいコースに飛ぶボールへ届く為には長いリーチは有利。更にゴール前へ上がったハイボールをキャッチしたり弾き飛ばすのにも必要で、五郎も身長がいかに大事か理解している。
大きくなる努力はしているものの彼の身長は残念ながら今も低いままだ。
「だったらゴロちゃん、小さいGKで活躍して身長なんかくそくらえ!って世間に伝えようよー。今のままじゃ他の小さいのも身長低いってだけでおとされそうだし!」
「え、そ、それは…」
そんなだいそれた事を自分が、そう愛奈へと言いかけた時に五郎の脳裏に1人の選手が思い浮かぶ。
自分以上に小さい体でCDFとして高校だけでなくUー19でも活躍した天才。
高校サッカー界最強プレーヤーと言われる神明寺弥一。
選手権で歴史を刻み伝説を作り出し、更に立見で無失点記録を更新中。
小さな体で信じられない記録や快挙を次々と達成させた弥一の活躍を五郎も知っている。
体が小さくてもやれる、それを弥一が証明しているなら自分も証明したい。身長に恵まれなくてもGKが出来る事を。
「選ばれるように…僕も頑張っていきます」
「よーし、その意気だゴロちゃん!頑張れよー」
まずは今のチームでスタメンに選ばれて公式戦に出る事、それを目標に五郎は改めて決意すれば愛奈はそれに対して明るく笑うとエールを送る。
そこに2人が注文した料理が運ばれ、五郎は豚の生姜焼き定食と愛奈は天ぷら定食をそれぞれ食す。
値段が安いにも関わらず材料は良いものが使われ、料理は美味しく食べ盛りの2人は味わって食べ進めれば定食をあっさりと完食して帰宅するのだった。
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弥一「あー、何か今日は定食が食べたい気分ー…何にしようかなぁ?豚の生姜焼きだけでなく鶏の唐揚げも気になるし、チキン南蛮も気になる〜…刺し身定食も捨て難いしな〜」
摩央「良いから早く決めとけっての」(自分はさっさとカレーライスを注文していた)
大門「プレーとか迷わないんだけどなぁ、此処は迷いまくりなんだ」(豚の生姜焼きだけじゃ足りずチキン南蛮も追加で注文)
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