第325話 牙裏から来た男
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ふー、間に合った〜」
此処まで急いで走って来た詩音と玲音は立見高校の正門前が見えた事にホッと息を吐く。
彼ら2人は練習試合に出場しており、今回の朝練は免除されて早朝ではなく授業に合わせて何時もより遅めに登校していた。
ゆとりを持ち過ぎて遅刻の危機に陥りかけてはいたが。
「よっ、久しぶり氷神兄弟達」
「「え?」」
声をかけられた2人は声をシンクロさせつつ同時に声のした方向へと振り返る。
「相変わらず息ぴったりだなぁ、2人とも揃って同じリアクションしちゃって」
「あれ…ひょっとして」
「天宮先輩、ですか?」
「そうそうそう!覚えててくれて助かるよ」
一瞬誰だと自分達とは違う制服を見て思ったが、顔を見て何処か見覚えがあると氷神兄弟が記憶の糸を辿っていけば、中学時代に1年間だけ一緒だった先輩だと思い出す。
「中1で控えだったけど2人とも目立ってたからこっちはよーく覚えてるよ、僕らの後に全国制覇してくれたかと思ったらまさか立見に入ってるとはね」
「そんな目立ってたんですか、分かんなかったー」
「それで違う学校の天宮先輩がどうして此処に?」
立見の制服を着る生徒達が登校する中で春樹1人だけが他校の制服だ、登校する生徒の中には興味惹かれてかチラチラと見ている。
「あー、ちょっと立見に会っときたい奴が居て入ろうかと思ったんだけど部外者は駄目だと門前払い食らってさ。そりゃこっちもアポ無しでいきなり来るのも悪いけど」
「立見は結構注目される高校になって取材とか多くなったんですよねー、それで色々押しかける人とか増えてきましたから」
「勉強や部活の妨げになるとかで警備も厳重になってますし、今部外者の出入りは厳しいと思いますよー」
高校サッカーの歴史に創部僅か数年でその名を刻み込んだ立見の名は今や全国に広がり、名が知れ渡った影響からか珍しい物見たさで押しかけて来る者も出て来ていた。
その影響で今は部外者の出入りは厳しく警備にも目を光らせる。
春樹はそれで立見の校内に入れなかった。
「(やれやれ、立見サッカーの練習を偵察出来るかと思ったら想像以上にガードが固いか…)」
岐阜からわざわざ来たが、収穫が何も無い時に終わりそうだった。
「ああ、だったらちょっと伝言でも頼めるかな?」
そんな時にこうして中学時代の後輩達と出会えたのは春樹にとって天の助けかもしれない、春樹は氷神兄弟へと伝言を伝えればその場を後にして去って行く。
「急に何で来たんだろ?しかも伝言って」
「さあ…」
急に立見へと訪れた春樹に対して一種の不気味さを感じた詩音と玲音。
そんな中で2人へと声を掛ける者達が居た。
「はよー!お前らこの時間帯に登校なんて珍しいじゃん?」
「はよー、昨日練習試合あったからね。今日は朝練とか休みで今日はゆったりで良いんだ」
彼らは詩音、玲音のクラスメイトでテニス部に所属する友人だ。
春樹と話して立ち止まってる間に彼らと会うことが出来て共に教室を目指し歩いて行く。
「そういやさっき一緒だったよな、天宮春樹と」
「え、知ってんの?サッカーそんな詳しくないとか言っといて実はマニアでしたってやつー?」
「いや何言ってんだよ、牙裏の天宮春樹って言えば高校テニスじゃ有名だぞ?1年で全国大会行ったかと思えば去年と今年に優勝を掻っ攫った全国プレーヤーだ」
「えー、あの人がテニスの方で…」
テニス部の友人から春樹について聞かされれば氷神兄弟は揃って驚く、中学時代のサッカー部の先輩が何故違う分野で活躍しているのか頭が混乱しそうだった。
「神明寺君!ちょっと忘れかけていたけど今日は密着動画撮らせてもらうからね?」
「ああー、昨日とかバタバタしててそれどころじゃなかったっけー」
昼休みとなって弥一が何時ものように購買店へと向かい今日の昼食は何にしようかと考えている横で、密着動画の件で話そうと同じ速度で歩く鞠奈の姿があった。
昨日は練習試合があったり後に辰羅川に誘われて焼肉をご馳走してもらったりと、鞠奈が弥一の密着動画を撮る暇など全く無く鞠奈にとってはマネージャー業務をひたすらこなす何時もの日となった。
今日こそは撮って自身のチャンネルをバズらせる、強く闘志を燃やした鞠奈は動画についての打ち合わせを始めようとする。
「神明寺先輩ー!」
その鞠奈の声を遮るような形で詩音、玲音と氷神兄弟が揃って登場し弥一へと駆け寄って来る。
「どしたー?2人もこれからご飯?良ければ一緒に食べよっか?」
「あ、是非お願いします♪」
「って詩音!その前にあるでしょ伝言!」
弥一にご飯へと誘われると詩音は満面の笑顔でお供しようとする、それを玲音が用件があるだろうと止めれば弥一の前へと進み出た。
「実は僕達朝に中学時代の先輩と会ったんです」
「中学時代の?2人の中学って確か石立中だっけ」
「そうです、そこの先輩で天宮春樹って人が居ましてその人が朝に来てたんですよ」
氷神兄弟は今朝の出来事を弥一へと伝えていく、そして最後に春樹から頼まれた伝言についても伝えた。
「神明寺弥一に天宮春樹が立見駅前の広場で待つ、これだけ伝えてくれれば良いって…」
「ふうん、あの人がねぇ」
「え?何か知ってそうな感じですね!?」
弥一は特に驚きもせず彼について知っているようであり、氷神兄弟はどういう関係なんだと気になってくる。
「ああ、その人はさ…」
特に隠す事ではない、弥一は2人へと話していく。
「(何かいつの間にか仲間外れにされてるし、何?急に天宮春樹とか新たな新キャラ出て来たんだけど!?神明寺君の知り合いっぽいし…!)」
いつの間にかすっかり蚊帳の外となってしまった鞠奈、とりあえず天宮春樹が誰なのか分からないので鞠奈はユンジェイを調べた時と同じように、またファンの力を借りてSNSで調べようとスマホをこっそり操作していた。
放課後を迎え、今日は部活の方は控え組を中心とした練習となりレギュラー陣は練習試合を行ったので体を休める為に今日の部活に出る事は禁じられている。
弥一は帰り支度をして学校を出ればその足で立見駅前へと歩いて目指す。
普段なら駅へ向かい電車で帰る所だが今日はその前に行く所がある。
駅前の広場へと向かうと様々な人々が待ち合わせ場所に使ったり一休みする憩いの場として使ったりと、多くの者が集まっていた。
弥一を呼んだ者は何処に居るのか、その者はすぐ見つけられて弥一は広場の長椅子へと近づく。
制服を着た1人の人物がスマホを見ていて弥一がその前に立つと気付いたようで視線を向けて来た。
「怪しんで来ないかと思ったけど助かった、丁度見ていた小説を読み終えた所だよ」
弥一に此処へ来るよう氷神兄弟へ伝言を頼んだ張本人の春樹、弥一の姿を見てホッとするように笑う。
「そりゃ来ますよー」
春樹の事を弥一は有名になる以前から既に知っている、何故なら。
「柳FCで僕や勝兄貴と共に戦って頂点取った仲ですから♪」
ーーーーーーーーーーーーーーー
鞠奈「えーと、なになに?高校テニスで2連覇達成のオールラウンドプレーヤー?いや、サッカーじゃないの!?」
翔馬「今日はなんか姉坂さん賑やかだなぁ」
武蔵「スマホにツッコミ入れたりしてるし、何調べてんだろ…?」
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