第326話 かつてのチームメイトと再会、奥底の心
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
神明寺弥一、神山勝也。
当時の柳FCを全国優勝へと導いた要の選手達として知られるが何も彼らの力だけで優勝した訳ではない。
天宮春樹。
弥一が柳FCに入る以前より在籍していた勝也の1つ下の学年で勝也を強く慕っていた。
共に優勝を味わっただけではない、共に敗北を知って悔しさにまみれたりも経験している。
これも弥一が勝也の居る学年へと入る前の事だ。
「う…畜生…畜生…!!」
全国優勝を果たす事が出来ず敗退が決まった柳FC、春樹は悔し涙を流しながら仰向けに倒れ込んでいた。
懸命に疲れるまで走り、転んで倒れてユニフォームが泥まみれになっても構わず勝つ為に動いたがスコアは最後まで動かせず終わる。
「大丈夫、まだ来年あるし…次であいつらぶっ倒して全国制覇してやろう」
そう言いながら春樹と同じくユニフォームが泥で汚れてるが勝也は明るく笑って手を差し伸べていた。
春樹は勝也の手を取って立ち上がり、勝也は他の仲間達へと声をかけに行く。
その時に春樹が勝也の肩が震えている事に気付いた。
仲間を励ましながらも勝也の方も負けて悔しく思っている、それを出すまいと本人は振る舞っていたつもりだが完全に隠して演じられる器用さを彼は持っていない。
「(僕がもっと強かったら…!)」
自分になんとか出来る実力があったら勝也を負けさせる事は無かった、春樹はもう2度と負けるものかと強く誓い次の日からより練習へと打ち込むようになる。
そして弥一が新たに入った年の全国大会で柳FCは全国制覇を成し遂げたのだった。
「会うのは柳FC以来だけど、お前の活躍は耳にしてるよ弥一。高校に来て1年だけじゃなく留学してたイタリアでも大暴れだったそうじゃないか」
「大暴れっていうかまあ、イタリアでは色々経験させてもらいましたねー」
立見の駅前広場にあるベンチに腰掛けている弥一と春樹、彼らの前を行き来したりスマホを弄りつつ談笑する人々はこの2人が高校で有名人とは思っていない様子。
関心無い彼らのおかげで人々の風景の中に自然と溶け込んでいた。
「春樹さんの方こそどうしたんですか?石立中で天才や化け物達と三連覇を達成して伝説を作ったかと思えば牙裏の方に行ってテニスプレイヤーに転向するなんて」
春樹の経歴については弥一も知っている、サッカーのみならずテニスの方でも日本一へと輝けば嫌でも有名人となれる。
それがSNSの方で調べれば彼に関する情報が容易に調べられるものだ。
此処に来る前に弥一は春樹の経歴をスマホで調べて知ったのだった。
「転向って訳じゃないんだけどな、テニスに関しては親が昔それでならしていて僕もやらされていたんだよ。ま、昔取った杵柄ってやつさ」
はは、と軽く笑って春樹は昔の事を振り返りつつ話す。
「テニスの方やらされてたのによく柳FC通う事許されましたねー」
「そこは親にサッカーやらせてくれって頼み込んだ、そっちの方がやりたいって言ってOKしてくれたよ。駄目だとか言われてたら終わってたかな?」
テニスを勧めていた親だったがそこまで強制していたわけではないらしい、サッカーがやりたいと言う春樹を優先してくれたようだ。
「それとテニスに関しては総体でもう終わりさ、此処からはサッカーに専念する。牙裏の方でサッカー部とテニス部を掛け持ちでやってるもんでね」
「総体の時はテニス優先で出なかったんですねー」
牙裏の試合は弥一も見てきたが春樹の姿は一度も見てはいない、その時はサッカーではなくテニスの方で出場していたらしい。
「本命は選手権の方だよ、高校の同じ大きな大会でも世間的に見てるのは冬が多くて有名だ。牙裏は今それに備えてる」
インターハイと選手権、高校の大きな大会と言われる代表的な2つの大会だが世間では正月にテレビでも放映されて多くから見られる選手権の方が有名で知られた存在だ。
なので春樹は総体よりも選手権で勝つ方が大事だと考えていた。
「そんな大事なときに此処来てて大丈夫です?」
「僕にとっては此処へ来るのは同じぐらい大事だったさ、何しろ…あの人が過ごした最後の場所なんだからな。立見っていうのは」
「ああ…そういう事」
今二人の頭には共に同じ人物を浮かべている事だろう。
弥一が兄貴分と慕っているように春樹も強く慕っていた人物。
「本当ならあの人が此処に居たはずなんだけどなぁ…」
勝也がもうこの世にいないことは春樹も当然知っている、彼もまた勝也の死に悲しんでいた1人だ。
「まあでも、今は弟分の弥一が勝也さんの作った立見を全国へと導いてくれた。あの人も喜んでると思うよ、弥一よくやった!ってさ」
「はは、勝兄貴は僕のプレー褒める度にそう言ってましたねー」
勝也ならそう言ってくれるだろう、生前の彼を知る弥一と春樹は互いにその姿を思い浮かべ笑い合った。
「でも、次の選手権だけは牙裏が貰う」
その時春樹の方から弥一へと挑戦状を叩きつけるような発言をし、視線は真っ直ぐ向けられていた。
次の選手権だけは、春樹は今年高校3年で選手権が最後の大会となる。
それだけでなく狼騎も3年で同じくラストイヤーだ。
「何か自信たっぷりって感じですねー?やっぱあの狼さん出て来ますよね、多分っていうか確実に」
「うん、来るね。お前の事をブチのめしたくてしょうがないそうだよ」
「わー、獰猛なのに目を付けられちゃいましたね僕♪」
総体で狼騎と出会った時に強烈な敵意を向けられた事を弥一はハッキリと覚えている、だがそれでもマイペースな態度は崩さない。
「変わんないな、年上ばっかのチームに物怖じとかしてなかったし。そのメンタルあったからこそ海外でも戦い抜けられたんだろうな」
当時の柳FCで弥一は小学4年生ながら勝也率いる上級生のチームに引き上げられ、周囲を年上に囲まれても弥一がそこへ溶け込み上手くやっていた事を春樹は知っている。
「ま、今日来たのもお前にちょっと挨拶に来たっていうのだったし。遠征や総体後にも関わらず元気そうで良かったよ」
ベンチから立ち上がる春樹、空は夕焼けへと変わっていて時間は午後の6時近かった。
立見の駅前も仕事帰りの人によって出入りが多くなってくる時間帯だ。
「牙裏は全国行くから立見も来てくれよ、と言っても負けるつもり無いだろうけどな?」
「無いですよ勿論ー」
「最神に琴峰、八重葉、牙裏にも全部負ける気ありませんから♪」
明るい調子で弥一は強豪校の名を次々と言っていく、いずれのチームにも優勝は渡さんと春樹から送られた挑戦状のような言葉を今度は弥一が叩き返して来た。
「いいね、選手権楽しみにしてるよ」
これに対して春樹は腹を立てず小さく笑った後に駅へと向かい歩き人の波へと入り姿を消して行く。
「(今のうちにのぼせ上がってろ弥一…)」
弥一と別れ、電車に乗った春樹は苛立った表情を見せた。
「(勝也さんじゃない立見なんざ不要だ、お前は新世代の立見もろとも選手権で叩き潰してやる…!」)
狼騎の弥一に対する敵意とまた違う敵意、それを春樹は抱いていた。
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鞠奈「え、神明寺君って柳FCであのテニスプレイヤーの人と同じチームだったの!?それも全国優勝!?経歴がハイスペックにも程があるんですけどー!」
彩夏「姉坂さーん、もう帰るよ〜?」
鞠奈「うわー、石立中って所で三連覇…漫画の世界から飛び出して来てない!?」
彩夏「何か1人でエキサイトしてるなぁ〜」
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