第324話 闘将の思い出
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「じゃあ間宮君、お大事にね」
「はい、お世話になりました」
病院の受付で間宮は看護婦へと頭を下げて挨拶をすると出入り口へと向かって歩き出す。
ユンジェイとの接触プレーで頭がぶつかり倒れていて、念の為に病院で検査を受けていた間宮は念の為に一晩を病院で過ごした。
結果としては体になんの異常も無く、また何時も通りに動ける。
練習試合が始まる前は病院の世話になるとは少しも考えていなかった、小さく吐息が漏れると間宮の前に意外な人物が現れ病院で顔合わせする。
「お疲れでーす、間宮先輩元気そうで何よりー♪」
「弥一…お前何だってこんな所に?わざわざ見舞いにでも来たのかよ、それともまさかお前が負傷とか病気でも?」
弥一が何時もの明るい調子で間宮の前に現れ、間宮は一瞬驚く。
まさか弥一の身に一大事でもあったのかとそれが頭に過ぎってきた。
「 いや?僕は何時も元気で健康ですよー♪」
「そいつは何よりだ、おう…外出るぞ」
変わらぬ弥一の姿を見て間宮は再び軽く息をつく。
何時までも病院内で立ち話をしていたら入院患者の迷惑になると、間宮は弥一を連れて出入り口を通り外へと出て来た。
「はー、病院は嫌いだからあんま世話にはなりたくなかったんだけどな」
うーん、と両手を上げて伸ばしながら解放感に浸る間宮。
「(しかもよりによってこの病院なんてよ…)」
立見の町で1番大きな病院として知られる立見中央病院、此処は間宮の中でよく覚えている場所だ。
「この病院で勝兄貴…勝也さんが亡くなったから、ですか?」
「!」
弥一が口にしたその名を聞いて間宮は目を見開き弥一へと振り返る。
そしてすぐに理解した、弥一が何故この病院にやって来たのか。
「ああ…あの人は此処で息を引き取ったんだ」
あまり振り返りたくない辛い出来事、自分だけでなく当時の立見サッカー部にとって忘れる事の出来ない悲しみと絶望の底に叩き落された時の記憶が嫌でも蘇る。
かつて立見サッカー部を0から作った神山勝也、彼はこの立見中央病院で亡くなった。
「(兄貴…)」
弥一の中で鮮明に浮かぶ生きていた頃の勝也、彼の場合は共にフィールドを走った小学生の時の姿や最後に見送りに来た中学生の時の姿と浮かぶが、立見サッカー部を作った時の勝也の姿は見られない。
「間宮先輩は勝也さんと親しかったんですか?」
「無理に俺に呼び方合わせなくて良い、お前があの人と親しかった事はもう知ってんだからよ」
弥一が勝也と幼い頃から同じサッカークラブで共に一緒だった事はもう知っている、彼がその弟分であるという事も。
「特別親しかった訳じゃねぇが…そうだな、俺が立見高校に来た理由を話してなかったか」
間宮は近くのベンチへと腰掛けると弥一もその隣へと座って彼の話に耳を傾ける。
言われてみれば間宮が何故この立見に来たのか、弥一はそれをまだ知らない。
中学時代の間宮といえばベストイレブンにも選出された優秀なDF、その頃の立見サッカー部は出来てまだ1年程で目立った成績を上げられておらず注目など皆無な時だった。
それが何故間宮に立見行きを決意させたのか、弥一としても興味があって聞いてみたい。
「立見サッカー部が出来て1年目の時、選手権の1回戦…見に行ってたんだよ。その時の俺は相手の強豪校に入るつもりで参考の為に実際この目で見ようと思ってな」
間宮の中で蘇る記憶、3年程前にあった立見の選手権1回戦。
「前半はもう立見が良い所無しで攻撃も守備も圧倒されて4ー0、何人かがへっぴり腰だったしそん時は立見情けなくてだらしねぇなって思ってた」
強豪校相手に加えて負ければそこで終わりという一発勝負のプレッシャー、それが彼らの持ち味を奪ってしまったのかもしれない。
「けど、後半の立見はまるで別のチームのようだったんだ」
後半の立見のサッカー、全員が必死で食らいつき絶望的な点差を追いかける。その中心となった男に間宮は気付くと目を惹かれていた。
「特にキャプテンの神山勝也…あの人は文字通り鬼気迫るような気迫で動き回って攻守共に引っ張り誰よりもでっかい声を出して試合を続けてたんだよな」
「…」
勝也の鬼気迫る気迫、それに関しては弥一も心当たりがある。
最後に共にフィールドへと立った試合でも間宮が話していたようなプレーで皆を引っ張っていた。
「ずば抜けたテクニックとかある訳じゃない、けど…あの人の姿は不思議と目が離せなかった。気付けば試合が終わるまでその姿を追いかけてたんだ」
あの日に見た勝也の姿は間宮から見てまさに闘将、試合が終わる頃には間宮の心は決まっていた。
あの人の居るサッカー部に行きたい、あの人と共にサッカーをやりたい。その想いでいっぱいの間宮は強豪校へ行かず立見へ行く決意を強く固め、次の年に入学していた。
「勝也さんがいなかったら今の俺は間違いなくいなかった、本当ならもっと色々教えてほしかったんだけどな…」
「…」
病気じゃなかったら、それは間宮だけでなく弥一も数え切れない程に思っていた事だ。
彼が末期癌でなければ生きていて去年も立見に居た、色々教えて欲しかった、共に喜びを味わいたかった。
「あの人の姿は多くを惹かれさせる、僕もそうでしたから」
「お前に後は成海先輩、豪山先輩とかもな」
「それと勝兄貴とお付き合いしてた京子先輩も、ですね」
勝也の周りには多くの者が惹かれ集っていった、それが立見サッカー部という1つの集まりとなって彼らは高校サッカー界で歴史を塗り替え、その名を刻む活躍を成し遂げている。
「弥一、俺は全国制覇1、2回達成で満足なんかしねぇぞ。最後になる選手権で連覇を達成した男になって勝也さんに報告すんだからな」
「分かってますって、先輩達の最後の選手権も勿論勝って優勝させますから♪」
「相変わらず憎らしいぐらいの自信だなお前は」
生意気な所は1年経っても相変わらずとマイペースに笑う弥一を見て間宮も小さく笑った。
去年の選手権、今年の総体と既に冬と夏の2大大会を立見は制覇しているがそれで2人とも満足はしていない。
さらなる栄冠を狙おうと冬は選手権の連覇を目指す。立見はこれから高校サッカー界の王者としてマークされ、より厳しい戦いとなるだろう。
「おい、それより長く話し過ぎたかもしれねぇ…急ぐぞ。朝練どころか授業にも間に合わなくなる!」
「じゃあ急ぎましょうー、ダッシュダッシュー♪」
スマホの時計で時刻を見れば授業開始の時刻が迫っている、今日の朝練は参加出来ない事を弥一と間宮は既に部へと報告済み。
朝の授業には顔を出すつもりでいたが長く話し過ぎた。
弥一と間宮は揃って走り出し立見高校を目指す。
その頃、立見高校前には遠くから学校を見ている1人の人物が居た。
制服姿で自販機にて買ったオレンジジュースを飲んでいる。
制服は立見の物ではない。
「はるばる来たけど、さてどうしたもんか…」
牙裏学園の天宮春樹、彼の姿がこの日立見にあった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
間宮「はぁ〜、不思議なもんだな。どうもあいつにはペラペラと喋っちまう」
弥一「誰の事ですかー?」
間宮「!誰でもねーから、それよりお前は練習の準備しとけ!」
弥一「はーい(頭の事もあるし、あんまからかうのは止めとこっか)」
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