第322話 見せ場を与えず封じ込める
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
幼い頃からサッカーを学び、共にテコンドーを磨き心身共に鍛え上げた。
将来の韓国A代表を背負うと期待されてUー20ワールドカップ優勝を狙える一員として、さらなる成長を求め日本へと渡りプロユースのチームで日々厳しい競争を戦い続けてきた。
その自分が激しい気持ち悪さと目眩に襲われてフィールドに倒れ伏すなと考えもしなかった、全ては相手の小さなDFによる下劣な策のせいだ。
「ユン、気分が悪いならこれ以上の出場は止めておけ」
「やれます!まだ、少し目を回した程度ですから!」
富田は気分が悪そうなユンジェイを下げようとするが交代を拒み、彼の方は続けて試合に出ようとしている。
ギラリと鋭い眼差しを向け、断固として引かぬ意志を見せれば勢いよく水筒の水を飲んだあとにフィールドへと戻って行く。
「(あんな下劣極まりない策にやられてこのまま引き下がれるか、神聖なサッカーを冒涜しやがって…!!)」
正直酷く気分が悪い、目眩もする。それでもユンジェイは意地で強行出場。
このまま弥一にやられて引き下がりたくなかった。
時に華麗な技で競い、時に体で激しくぶつかり合う。そうやって強い相手と競い合って来たユンジェイ、それがサッカーという美しい競技だと信じて疑わなかった。
だからこそ弥一のやり方が許せず怒りが頂点にまで達しようとしている。
「顔色悪くて辛そうだねー、大丈夫?こんな練習試合で無理する事ないよー」
「黙れ…!あんな幼稚にして下劣なやり方をするお前に屈したら韓国の恥だ…!」
目を回させた張本人である弥一、それを前にユンジェイは気分が悪いながら怒りを燃やして体を震わせており、意地でも負ける訳にはいかなかった。
「ああ、あれ?面白いように引っかかってくれちゃって思ったよりあんた単純だったよ♪」
「貴様!」
ユンジェイが何か言おうとした後に弥一は彼のマークを放置し、目の前から走り去る。
誰のマークもなくフリーで自由に動ける、だがひどい目眩に加えて気分が悪く体が重い。
走るにも思った方向へと進めずユンジェイは徹底マーク以上の負担が自分にのしかかって来るのを感じていた。
「あれは…駄目だ、交代用意!」
意地を張って強行出場していたがもう限界だと富田が判断すれば交代選手に準備するよう指示を出す。
「(残り時間も少なくなってきたし、そろそろ攻撃へと出ようかな)」
此処までスコアはまだ0ー0、1年達が前半より攻めが出来ているものの福丸や高木を中心に粘り強い守備を見せてGKの見里崎も何本かファインセーブによってチームのピンチを救っている。
これに弥一は自分も攻めたほうが良いと考え最終ラインからスルスルと上がっていく。
「逃がすかぁ…!」
弥一をまたしてもユンジェイが追いかけ、再びマークを実行していた。
「(無理しちゃって…相当頭にも来ているみたいだし、執念深い事も考慮すれば…トドメ刺しておくか)」
後ろから追いかけて来るユンジェイの気配を察知した弥一はその場で止まると彼の方へと振り返った。
息を切らして目の焦点が合っていない、もう限界だろうに弥一を執念深く追い続ける。
その精神力は凄いものだと弥一はユンジェイに対して素直にそう思えた。
もう此処らで楽にさせようと、弥一はユンジェイへ右手人差し指を彼の目の前に見えるよう向ける。
「(何をするつもりだ……!?)」
弥一の向けて来た人差し指を見ているとその指は右回りでクルクルと回し始めていた。
悲鳴を既に上げているであろうユンジェイの三半規管を弥一はさらなる刺激を与えて仕留めに行く。
「き、貴様…!またしても下劣な…何処までサッカーを汚せば気が済む…!」
「別に汚してる気は無いんだけどねー」
怒りを見せるユンジェイに構わず弥一はクルクルと、その顔の前で指を回して見せ続ける。
「この野郎…!絶対にブチのめし…!」
そこまで言い切る前にユンジェイは前のめりにバタッと倒れた。
完全に目を回して立ってられなくなり、彼の意識は途切れてしまっている。
「ユン!た、担架ー!担架ー!」
辰羅川がボールを取るとタッチラインへと蹴り出してプレーを一旦切り、担架を要請する声が上がった。
本来ならば足元の技術だったり裏への飛び出しが優れたエースだったのだが、弥一はそれらを一切やらせる事なくユンジェイを途中交代へと追い込み本領発揮させないまま封じ込める。
いきなり立ち上がりから間宮を退場へと追いやったユンジェイが続いてこのフィールドを去って行った。
「へっ…ざまぁ、好き勝手やりやがった報いだ馬鹿め」
仲間の退場にも関わらず宮下が担架へと運ばれるユンジェイの姿に対してそう呟く。
「(仲間から結構嫌われてるねぇ〜、流石にちょっとかわいそうになってきたかも)」
近くでその呟きを聞いていた弥一、ベンチては仲間割れが起きかけた時といい横浜全体のチームワークというよりもユンジェイに関する連携が悪かった。
どちらにせよチームのエースは退場、弥一を縛る者はもういない。
そこから弥一は水を得た魚の如く自由に動き出していく。
「こっち、戻してー!」
変わらず辰羅川のマークを受けながらボールをキープしている明に弥一は後ろから声をかけた。
その声が聞こえた明は右のヒールで後ろへとボールを戻し、弥一がそのボールを取る。
と見せかけてダイレクトで右足をボールへと当てれば左サイドの玲音へと向かっていた。
これには横浜の守備も対応が間に合わない。
レーザービームを思わせる軌道のパスが玲音へと通り、そこに横浜DFがクロスやドリブル突破もさせんとばかりに玲音へ激しく体をぶつけに行く。
「(フィジカルじゃ勝てないから…躱そっ!)」
「うおっ!?」
体格で明らかに上の相手にぶつかり合いで勝てるわけが無い、小柄な玲音はそれを理解して相手のショルダーチャージを上手く躱し、その隙にエリア内へと侵入する。
「(パスが来るとしたらこっちか!)」
福丸は詩音が走り込んで行く姿が見えて彼のマークに向かう。
玲音の前には高木、GKの見里崎と居る。すると玲音は素早くその場で左足を振り切った。
角度は厳しいながら左足での左斜めからのシュート、狙いは僅かに空いているゴール左下隅だ。
狙い通りのコースにボールは飛ぶが相手のGKはプロユース屈指の見里崎、玲音の近距離から来たシュートにも素早い反応を見せると体にボールを当てて体を張りゴールを阻止。
弾かれて高くボールは上がると、落下地点に半蔵が走り後を高木が追っていた。
「行けぇー!押し込め半蔵ー!」
弥一の声が後押しとなったか、半蔵は高木と共にジャンプし空中戦を迎えると高木相手に今度は競り勝ち頭でボールを捉え叩きつける。
体勢を立て直した見里崎が飛び付き左腕を伸ばすもその腕をすり抜け、横浜のゴールネットが揺れだした。
此処まで横浜の守備陣の前に立見の攻撃陣が沈黙していたが後半33分、ついに均衡は崩れる。
半蔵のゴールで立見が1−0と1点のリードを奪う事に成功。
「やったー!ついに先制ー!」
本来の密着動画の事を忘れ、鞠奈は立見の先制ゴールをベンチの仲間達と共に喜んでいた。
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武蔵「テレビで芸人さんがぐるぐるバットで回ってそれでフラフラするみたいなのは見た事あるけど…彼もあんな感じのを喰らったのかな」
優也「それ以上、かもしれない。結構長い時間弥一は動いていたしな」
摩央「というか最後あいつトンボ捕りみたいな事してなかったか?指先でグルグルと」
武蔵「あれは反則じゃないのかな…?」
優也「判定する審判も困惑しそうだ」
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