第319話 10人対10人の試合
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
立見と横浜の練習試合は膠着状態が続く。
明や氷神兄弟に半蔵といった1年の攻撃陣を横浜の守備陣が上手く凌いでいるが、その横浜の攻撃は噛み合わず思うような攻めが出来ていない。
辰羅川はこれじゃ駄目だとなってユンジェイへとプレーが途切れたタイミングで近づき話しかける。
「どうしたユン、今日は調子悪いのか?それなら早めに交代した方が良いぞ」
「そうじゃない」
体の調子が悪いのかと問われればユンジェイは首を横に振る、コンディションが悪い訳ではない。
ただ先程から弥一へのマークに拘り過ぎている所があり、満足な攻撃参加が出来ていなかった。
弥一を放っておけば不味い事になるかもしれない、だが彼が徹底マークに行ってしまうと前線の攻撃に厚みが足りなくなる。
特にユンジェイは攻撃の要でエースだ。
「向こうは俺を誘う為に上がって俺をゴールから遠ざけてプレーに干渉させないっていう狙いらしい」
「だったら他が弥一に注意するようにしてお前が前線残った方が良いじゃないか」.
「それだと他の選手の動きに察知しづらくなって隙が生まれてしまう」
辰羅川は他の選手達に弥一の上がりを注意すれば良いと言うが、ユンジェイはそれが罠だと言って今の作戦を良しとはしなかった。
「あえて奴の誘いに乗ってやる、向こうもゴールから離れてタダじゃ済んでいないんだ」
このまま弥一のマークを止めずに続行する、こちらがプレーに干渉出来ないのであれば同じ位置に居る弥一も干渉は不可能だとユンジェイは考えていた。
1度防がれたぐらいで無理だと折れる程にヤワなメンタルは持ち合わせていない、チームが勝てるならば自らゴールを奪えなくても構わなかった。
勝利の為ならそういう仕事に徹する事も躊躇しない、ユンジェイはそういう男だ。
立見がボールを持って再び攻め上がりゴールを目指す、その中で弥一は右サイドの隅を走るがそこにユンジェイもピッタリと追走して行く。
「よっぽど僕を追いかけ回したいみたいだねー」
「いちいちお喋りが好きな奴だなお前は…!」
相変わらず弥一は度々ユンジェイに対して声をかけていた。
「10人対10人に持ち込むつもりかな?」
「(狙いがバレていたか…流石の読みを持っている)」
読みどころか心の声で丸分かりであり弥一にバレているというのをユンジェイが気付くはずも無い。
「(だがバレた所でどうという事は無い、いくら立見が高校チャンピオンでもこっちはプロを目指すエリート集団。お前らとは基礎的な能力が違う!)」
チーム力、個人能力、全てにおいて立見に負けているとは思っていない。
自分達がこうしてプレーに干渉せず互いに1人抜けた状態のチームの総合力ならば横浜が上だとユンジェイは考えており疑わない。
プロユースの中でもトップクラス、その自分達が劣っている訳が無いと。
「っ…!」
ボールをキープする明は辰羅川の厳しい当たりに前を向けず苦戦を強いられていた。
元々一対一のデュエルが強く、奪うとまでは行かなくても好きに攻撃させない守備を心得ている。
「明!」
そこに明の耳に自分を呼ぶ声が後ろの方向から聞こえ、反応すると明は辰羅川と競り合いの最中で左足の踵を使って右方向へとパスを出す。
お洒落なヒールでのパスでボールが転がり、先に居たのは川田だった。
同時に右サイドの詩音が走り出す。
「左動き出したぞ!」
詩音の動き出しが見えたGKの見里崎がすぐさま指示を飛ばした。
「(俺へのマーク甘い!よし!)」
パスの方を相手に警戒された影響か今なら川田はほぼノーマーク状態、詩音が良いデコイ役として動いたのが効いた結果だ。
まだ立見にはシュートも無い、この嫌な流れを此処で断ち切らんと川田は右足を力強く振り切ってゴールに向けてロングレンジからシュートを撃った。
上手い具合に当たってくれた右足でのインステップキックはボールを剛球として飛ばすに充分なパワーが宿され、ゴール右へと良いコースに飛んでいる。
「うぉっしゃあー!」
気合いの声と共に見里崎がロングシュートに反応し、若干ホップして上へと上がったボールを両手でがっちりとキャッチしてみせた。
川田のパワーシュートを弾かず自分のボールにしてしまう辺りGKとしてかなりレベルが高い。
(「今のを取るか、流石は見里崎さんだな)」
同じGKとして大門は元々見里崎の事を知っている、本来ならUー19にも呼ばれる力を持つが怪我によって代表合宿やフランス大会は呼ばれなかった。
見里崎の怪我があったから大門がそこに呼ばれたのかもしれない。
「おらー!上がれ上がれー!!」
川田のロングシュートをキャッチしてから見里崎はすぐに味方へ上がるよう、大声で指示を出すと共にジェスチャーを送れば右足のパントキックで一気に前線へと大きく出した。
空高く上がったボールは宮下が落下地点へと到達、そこに立浪がやって来て共にジャンプして空中戦となれば立浪がヘディングでクリアする。
だがクリアボールを拾ったのは横浜の水戸、足元へと正確に収めれば彼は前を見据えていた。
「大門ミドルー!」
そこに弥一の声が飛び、そのすぐ後に水戸が右足のミドルシュートでゴールを狙う。
ミドルレンジから低いコースでゴール右隅へと速いスピードで向かっている。
だが大門は低いダイブでボールへと飛びつき、難しいコースのシュートを倒れ込みながら両手に収めていた。
「 ほうー…」
最後尾から大門のセーブを見ていた見里崎もこれに興味ありそうな反応を見せる。
「大門ナイスセーブー!向こうのキーパーに負けてないよー♪」
弥一の声に大門は翔馬へとスローイングでボールを送った後に弥一へ軽く右拳を上げて応えてみせた。
「…わかっていたのか?今のミドルを」
ユンジェイは遠めの位置にいたにも関わらず弥一がGKへとミドルが来ると声をかけていた事に驚いたらしい。
普通ならそんな事分かるはずが無い、読みだけじゃなく勘まで優れているとしか思えなかった。
「まあ、なんとなくねー」
本当はミドルを撃ってやろうという心の声を事前に聞いただけだが弥一は勘だと言っておく。
「…」
横浜のユースチームを率いる監督の富田は難しい顔をして今の試合状況を見ている。
スコアは0−0、互角の展開ではあるが本来のシステムからの動きが出来ていないように思えた。
富田は弥一とユンジェイの姿を見る。
彼らが先程からずっとプレーに干渉していない、ユンジェイが弥一を徹底マークしてばかりでゴールから遠くはなれてしまいFWとしての仕事が中々出来ていなかった。
攻撃の時はゴールへと向かって走るもののそこには最も厄介な弥一のマークがあり、パスを送れない。
これでは10人対10人だ。
「 ユン!執拗にマークし過ぎだ!もっと前行け!」
富田はそこまでマークする必要は無いと攻撃に備えるよう言うがユンジェイはその指示を無視した。
「(どいつもこいつも分かってない…こいつから目を離したら好き放題されて終わりだ)」
抜群の読みと勘で何をされるか分からない、未知の強さがあるからこそユンジェイは弥一から離れるつもりは無かった。
「(それに走り回り続けて30分ぐらい、そろそろ運動量がこの辺りで落ちて来るはず)」
スタミナには自信のあるユンジェイ、抜群の体力があるからこそ弥一の誘いにわざと乗っていた。
彼の方が先に動き回った事によって体力が尽きる、その結末を迎えるまでとことん走り合う。
「(自滅するのはお前の方だ、神明寺弥一!)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
優也「かなりしつこいな、あのユンジェイって奴は」
武蔵「本当にずっと弥一をマークし続けているし、あれ試合終了までやるつもりなのか?」
優也「ユンジェイじゃないからそこは分からない、ただ…なんとなくあいつは勝つ為にそれもやりそうな感じはするな」
武蔵「間宮先輩も早々退場になったし、どうなるんだこの練習試合…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます