第316話 激しき韓国の虎
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「弥一!遅いぞ!」
「すみませーん、電車遅れちゃいましたー」
「いいから早く着替えて来い!」
間宮の大声に出迎えられ、弥一は無事に皆の居る立見サッカー部へと到着すれば部室へと入りユニフォームに手早く着替えていった。
そこから僅かな時間が経つと今日の立見の相手となる横浜グランツのユースチームが登場。
やはりプロの組織に所属するエリート集団だけあって貫禄がある、対面すれば互いに挨拶をしていく。
「よー、お前がキックオフゴール決めたって天才君?」
「見てたよ、あれ凄ぇな!」
「あ…どもっす…」
総体で決めた八重葉戦のキックオフから8秒でのゴールが強烈な印象を残したせいか明へと横浜の選手から近寄って来る者が多い。
横浜の選手達が立見の選手達と交流を深めていく中で1人だけ黙々とアップをして試合の準備を進める人物が居た。
チーム唯一の海外選手で韓国人のキム・ユンジェイだ。
「あの人何者なのかな?見るからに群れるのが嫌いな一匹狼ってタイプな感じだけど」
「え〜と…確か韓国人の人だねぇ〜、名前が〜…」
1人だけ離れた場所に居るユンジェイが気になって彼が何者なのか知らない鞠奈は近くに居た彩夏へと訪ねて最低限の情報を得ていた。
「(確か情報入手もマネージャーの務めなんだよね、よーし)」
すると何を思ったか鞠奈はスマホを取り出し操作を始める。
「キム・ユンジェイ、身長173cm体重58kg。利き足は左、幼い頃からサッカーだけじゃなくテコンドーを習っていてそれの韓国大会で優勝経験を持ってるみたいです!見かけによらず激しいプレーで韓国の虎と言われてますね!あ、好きな食べ物は焼き肉でサンチュで巻いて包んで食べるのが好きらしいですよ!」
饒舌に鞠奈はユンジェイについての情報を皆へと伝えていた、これらはSNSでマリーのアカウントで先程皆へとサッカーのユンジェイについて知ってるかと訪ねた結果だ。
JTuberとしてそれなりにファンの数を持つマリー、これが活きた結果だろう。
「確かチームの公式ぺージにもそこまでは載ってなかったはずだけど…姉坂さんテコンドーとかよくそこまで調べられたよね」
「えーと、たまたま知り合いでマニアの人が居てね。何でそこまで知ってんの!?てぐらい教えてもらったからさー」
摩央から言われた言葉に対して鞠奈は本当の事は言わずにマニアから聞いたと誤魔化す、此処でマリーだとはバレたくないが為の即興で作った嘘だ。
「あ〜、韓国の焼き肉とか絶対美味しいよねー♡」
弥一は弥一でユンジェイの好物が焼き肉と聞いて自分も食べたくなってきてしまう、やはり美味しい食べ物には目がない。
「お前試合前にカステラ食ったばっかだろ」
「だってー、甘い物の後はしょっぱいの行きたくなりませんー?」
「それはまあ分かるけど…」
「納得すんな!」
弥一と間宮、影山、田村の3年トリオのやり取りがあってから改めて薫は今回の試合について伝える。
「エースのユンジェイや他の選手達のプレースピードは同じ高校世代の中でもおそらくトップクラスに入るはずだ、攻守共に一瞬の気も緩められん」
薫の話を皆が聞き、改めて今回の相手が同世代で強敵である事を理解していった。
「この試合での鍵はセカンドをどれだけこちらが素早く拾えるか、向こうもその反応がおそらく速いだろうからな」
セカンドボールへの素早い反応と対応、それが今回立見に攻守の両方で求められる。遅れれば追撃が出来なかったり向こうの波状攻撃を受けてしまう。
「(だったら仮想酒井狼騎として良い練習になりそうかなー)」
弥一の中でセカンドボールに対して驚異的な反応と動き出しを見せていた選手が思い出される。
狼騎がまさにその動きを見せており強豪相手にいくつものゴールを奪ってきた、この試合はそれを想定した練習にもなると弥一は考えていたのだ。
自分に対して強烈な敵意を放って来たあの男のいる牙裏学園とは勝ち進めば今度こそ当たるかもしれない。
その前にまずは目の前の敵意見せる韓国人を相手にするのが先だ。
「相手はプロのユースチーム、だからなんだ?俺らは何時も通り立見のサッカーをやって勝つだけだ!」
「立見GO!!」
「イエー!!」
円陣を組んで間宮の掛け声から皆それぞれ合わせた後に各自が散ってポジションについていた。
相手は横浜グランツ、そこのユースチームで実力者が揃う強豪だが立見の選手達はいずれも練習試合とはいえ勝つつもりでこの試合へと臨む。
キックオフは立見から始まり、何時も通り明と半蔵の1年2人がセンターサークルに立って開始を待つ。
ピィーーー
主審の笛が鳴ると半蔵が軽くボールを蹴って明が受け取り後ろへと戻す、静かな立ち上がりで立見と横浜ユースの試合が始まった。
「へい!」
左サイドの玲音が走りながら左手を上げてボールを要求しようと声を上げる。
それに気付いた明はグラウンダーの速いパスを玲音へと目掛けて右足で蹴り送った。
このパスを受け取ろうとした時、玲音の死角から辰羅川が現れたかと思えば玲音へのパスをインターセプト。
「!間宮先輩、来るよー!」
そこに弥一は辰羅川のやろうとしている事を察知、彼の狙いはあのカットした自軍のエリアから前線で待つユンジェイへの長い斜め左のロングパス。
ユンジェイの近くには間宮が張っている、弥一はすかさず声をかけていた。
読み通り辰羅川は一気に斜め左へと右足でロングパスを蹴る。
ボールはハイボールとなっており弥一のインターセプト対策で考え蹴られた高いパスだ。
同じ代表として弥一の力は見てきたので彼に取られる不用意なパスを辰羅川は蹴らない。
このロングパスに対して弥一の声がけもあって間宮が反応し動き出せば此処に来るだろうとボールの落下地点へと来ていた。
そこに凄まじい勢いで走り込んで来る姿が見える、ユンジェイだ。
高さなら身長の高い間宮が有利、ボールが来たのに合わせて間宮はヘディングでクリアしようとジャンプする。
「うおお!!」
ユンジェイはこれに対して走り込んでから勢いを付けて思いっきりジャンプ、間宮の方へとぶつかりに行くような体勢で2人の距離が迫って来ると。
「ぐあ!」
ユンジェイの頭と間宮の頭が激しく激突、両者が空中衝突をしてしまうと互いにフィールドへと倒れる。
ユンジェイの方はすぐ立ち上がるとボールを追いかけようとするがそこにすかさず審判が笛を鳴らした。
判定はユンジェイのファール、あまりに激しいぶつかりに加えて彼の方から行ったと判定されたようでユンジェイの方は何であんな当たりでファールなんだと納得行かない顔を見せる。
「う…ぐぅ…」
立見の選手達が一斉に地面へと倒れ頭を押さえて立ち上がれない間宮の元に駆け付ける。
立見はいきなり立ち上がりでアクシデントに襲われていた…。
ーーーーーーーーーーーーーーー
摩央「なんだあいつ!?いきなりドカンって行ったぞあれ!」
優也「大丈夫なのか間宮先輩、あのユンジェイとかいう奴…見かけによらず相当激しいらしいな」
武蔵「なんかさっきまで向こうの人と和やかに話してたのに、開始早々こうなるなんて…!」
摩央「とにかく担架ー!担架の準備ー!」
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