第314話 動画配信者のマネージャー体験入部


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










「マネージャーとして体験入部しました姉坂鞠奈です、よろしくお願いします!」


 立見サッカー部の選手やマネージャー達の前で頭を下げて挨拶をする鞠奈、そこから歓迎の声が上がり迎え入れて貰っていた。


 弥一の密着動画を撮る為に彼へと接触し、幸運な事に動画撮影のOKを貰ったがそこから鞠奈にとって想定外が起きてしまう。


 部員じゃないと部活で密着は出来ないとの事なので弥一はマネージャー体験入部出来るかどうかと動いていたのだ。


 薫からOKの許可が降りてマネージャーの体験入部が無事許され、今に至るという訳である。


「(まあいいか…こっちは体張る系の動画も撮って体力にはこう見えて自信あるし!)」


 自ら動き運動で動き回る企画の動画も撮ってきて体力はある方だと自負している。


 これで自分のチャンネル登録が増えたり再生回数や高評価が鰻登り出来るならばと、鞠奈は今のこの状況を受け入れていた。


「(同じクラスだけど…何かどっかで見たような…?)」


 この時弥一や鞠奈と同じく2年のクラスメイトである摩央が彼女の姿を見て見覚えあるようなと見ていた事に鞠奈は気付かず。





「第2グラウンドのボール足りないから持ってってー!」


「はーい!」


「第1グラウンドの方にドリンクー!」


「はいはーい!」


 練習道具の用意や追加、ドリンクやタオルの差し入れと鞠奈は他のマネージャー達と共に忙しく動き回っていた。


「(ってこれじゃ神明寺君の密着動画撮ってる暇無いってのー!)」


 鞠奈の中にいるマリーが目的を果たせないでいる事から内心でシャウトしている。


 弥一以外には自分が動画配信者のマリーだとは伝えておらず、当然密着動画の事も言っていない。この調子だと弥一も鞠奈の正体について皆には伝えてないようだった。


 体験入部でマネージャーとして入っているので下手に弥一へ近づいて動画を撮る事が出来ない、なんとか弥一に近づこうとマネージャーの仕事をこなしつつ鞠奈はチャンスを伺う。


「これ神明寺君へ持ってってー」


「(チャンスキターー!)」


 弥一へのドリンク、それを持っていってほしいと聞いた瞬間に鞠奈の眼鏡がキランと光った。


「私持って行きまーす!」


 ぶん取るような形でドリンクを取ると弥一の元へと鞠奈は駆け出していく。


「(やっと神明寺君への密着動画ー!このレベルアゲアゲチャンス逃す訳ないっつーの!)」




 ようやく弥一へ堂々と近付けるチャンスを得た鞠奈がそこに辿り着くと彼はボールでリフティングしていた。


「(え…何これ?)」


 不思議と鞠奈はドリンクを渡す事を忘れてその光景を見ている。


 サッカーは正直疎く詳しくはない、仕事をしつつ練習風景を見たりしたが地道に走ったりボールを奪ってはすぐ奪われたりの奪い合いと、この暑い中でよくやるよなぁという感想ぐらいしか浮かばずそこまでの関心は無かった。



 だが弥一が自在にボールを操る姿は華麗、素人の自分じゃまともに回数もこなせないと思う中で足から頭で上にボールを上げるのに切り替えたりと、見るからに難しそうな技をいとも簡単に地面へ球を落とさずやっていた。


「よっ!」


「!?」


 その時弥一は自分の真上へと右足で思いっきりボールを高々と蹴り上げた。


 弥一の頭上をボールは高く上がった後に落下速度がついて戻って来る、それを弥一は左足で受け止めコントロールすれば地面に落とさずリフティングが継続されたのだ。


「(すご…)」


 サッカーに疎い鞠奈でも今のは見ていて凄いと充分伝わり、手にドリンクを持ったまま弥一の姿を見ている。



「おーい、足慣らしはもういいのか弥一?こっちは何時でも良いぜー」


「あー、今やるよー!」


 声をかけたのはキーパーグローブを付けたGKの選手、彼の前には人の壁を想定した数体の人形が置かれてる状態だ。


 弥一は自らボールを地面へと落とせば位置にセット、位置としてはゴール正面から右寄り。


 キッカーから見てGKは左寄りに構えている、狙うなら空いている右を狙ってゴールだろう。



「(何か人形でっかいなぁ)」


 鞠奈から見て弥一の前にある壁の人形は大きく人の身長で言えば180は超えるぐらいの大きさだ。


 その目の前に立つ弥一から見ればより大きく見えるが、弥一は壁の先にあるゴールマウスを真っ直ぐ見据えていた。


 ボールの右側に立つ弥一はそこから短い助走、そして左足を当てて蹴るとボールは大きな人形の壁を飛び越えて行く。


 浮き上がった球がそのまま身構えるGKへと迫る、これなら正面でキャッチ出来るコースだ。



 その時、ボールは急な変化を見せて右へと急激に曲がって行く。


 まるで生命が宿ったのではと錯覚してしまう動きだった。


 左に構えていたGKから逃げるようにボールが右隅へと向かい、GKも反応して左腕を目一杯伸ばすが届く事は無くボールはゴールネットを揺らしていった。


「入った入ったー♪」


「くっそ!今日はそう来たかぁ…」


 ゴールが決まった事に弥一は喜び相手のGKは悔しがる。


「(サッカーボールってあんな曲がるの!?高い壁超えたと思ったらなんか凄い曲がったし、何でそんなん蹴れるの!?)」


 内心で鞠奈は弥一のキックを見て驚きでいっぱいだった。


 リフティングやFKと弥一の凄技を夢中で見ている間に密着動画というのを彼女はすっかり忘れてしまう。


 それに気付いたのはハッと気付き弥一にドリンクを届けて戻った時だ。







「杉原、練習試合の予定が決まったからスケジュールに組んでおいてくれ」


 その頃部室では今後の日程について監督の薫と主務の摩央が打ち合わせをしていた。


「分かりました、この時期にうちと練習試合って事は同じ東京のシード校でしょうか?」


 時期としてはそろそろ選手権の東京予選が近づいている、初戦から出場の高校はまず無いだろうと摩央は考えていた。

 それは日程として厳しく予選の前に疲労を残してしまい効率的ではないだろうと。


 すると薫の口から対戦相手について告げられた。



「いや、相手はJ1のプロでそこのユースチームだ」




 ーーーーーーーーーーーーーーー



 詩音「聞いた?」


 玲音「うん、聞いた。プロのユースと練習試合だって」


 半蔵「おいお前ら何コソコソしてるんだ、サボってたら間宮先輩に怒られるぞ」


 詩音「あ、サボってないからー!」


 玲音「ちょっと休んでただけだよー!さ、練習練習ー」

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