第306話 夏の決勝戦、立見VS八重葉再び


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。










「強いなぁ牙裏、負けたけど八重葉相手に3点取るなんて」


 決勝進出を決めた立見は明日へ備える為に早々引き上げ、食堂で少し早い昼食を迎えていた。

 摩央はもう1つの準決勝がどうなったのか見ており、そこに八重葉と牙裏の試合が4ー3で終了したのが確認する。


「向こうは点の取り合いしてんのか、誰が取ったのか載ってるか?」


「あー、あるある。えーと…照皇が3点に月城が1点、牙裏はオウンゴールと酒井が2点か」


 川田から聞かれると摩央はスマホでチェック、スコアの中に誰が得点したかどの時間帯でゴールしたのか、それらはきっちりと出ていた。


「けど照皇はハットトリック達成した後に相手の酒井狼騎のスライディングを左足首に受けて負傷、そのまま交代になったらしい」


「あの人負傷したのか…」


「その怪我で明日の試合に出るのはまず不可能みたいだ」


 照皇の負傷、試合が終わったばかりの立見イレブンはその情報を今初めて聞けばその中で優也は彼の身を心配する。


 Uー19で同じFW同士で競い合いながら交流を深め共に練習してきた仲だ、せめて怪我が軽い事を願うしかない。



「(どっちとも決勝で戦えなくなっちゃったんだ)」


 弥一としては八重葉が勝ち上がれば照皇と、牙裏が勝ち上がれば狼騎とそれぞれのチームのエースとの対決があると思っていた。


 正直な所どっちと相対するか楽しみな所はあったが決勝で弥一がいずれかのエースとも明日のフィールドで会う事は無くなる。


 明日は照皇の代わりに出て来るFWや攻撃陣を抑える、それが弥一の仕事だ。






 準決勝を終えた翌日、インターハイの頂点を決める決勝戦が行われる。


 相変わらず太陽は燦々と輝き夏の猛暑がこの日も選手達だけでなく観客にも襲っていた、無論この暑さは皆が想定しており熱中症の対策はしている。


 試合開始前のアップでは八重葉の方に照皇の姿は無い、やはり昨日の怪我によって今日の試合は欠場だった。

 その分代役のルーキーにかかる期待は大きいだろう。


「おい、神明寺」


「ん?月城元気そうだねー」


 両チームの試合前アップの最中、月城が弥一へと近づき話しかけて来た。


「照皇先輩が欠場だからってこの試合もらったとか甘い事考えてねぇだろうな?」


「そんな始まってもいないのに勝ったー、なんて楽観視はしないってー。この時点じゃまだ0ー0だしさ」


 立見の様子を見ようと月城は弥一と話しつつも向こうのチームの動きをチェックする、立見はそれぞれ軽快に動いており笑ってられる程にリラックス出来ていた。


 この決勝戦で余力を立見は残している、一方の八重葉は照皇という絶対エースを欠いてかなり不利だ。


「照さんの怪我大丈夫?まさか選手権まで欠場なんて事は」


「そこまでひどい怪我だったら今日スタンドに座ってねぇだろ」


 弥一がスタンドの方を見れば照皇の姿を見つける事が出来た、彼は腕を組んで座っており傍らには松葉杖が置いてある。


 此処まで松葉杖を使って歩いて来たのが容易に想像出来た。


 本当ならば彼も決勝戦のフィールドに立ってライバルである弥一と再び頂点を争う戦いをしていたはず、表情は何時も通り冷静だが心では出たいという気持ちはあるだろう。


 その心を弥一は覗かない、今は彼よりも目の前の試合だ。


「じゃ、去年に続いてインターハイはまた俺らが勝つんで」


「言うねー、また後でね♪」


 偵察を終えたのか月城は背を向けて走り去り、弥一はその背中を見送る。


 選手権で八重葉に勝った立見だがこの夏の大会では去年八重葉にPKで負けた。


 だが今回はそうはさせない。


 去年の夏の忘れ物が目の前にあるのだ、此処まで来て負ける気は無い。




『高校サッカー総体決勝戦、此処まで勝ち上がって来たのは立見と八重葉!冬の選手権の決勝が夏に再び再現されました!』


『八重葉の連覇か立見の冬に続く夏制覇か、ただ八重葉は照皇君が欠けてるのでそこがどうなるかですね』


 両チーム試合前にコイントスで先攻後攻を決め、結果は立見の先攻。


 間宮が戻れば立見は円陣を組む。



「この決勝、向こうは照皇がいない。だからって気を抜くなよ、相手は全国一のチーム力を誇る八重葉だ」


 照皇不在の八重葉、チーム力は落ちるかもしれない。だがそれでも全国から選りすぐりのエリートが集いその中で選ばれたメンバーがフィールドに立つ。


 弱いわけが無い。


 間宮が更に言葉を続けようとすると。



「相手エースが居れば勝てた、立見は運に助けられた。そんな声が勝ってもあるかもしれない」


「だったらこの試合居ても同じだよ!って言い返せるぐらいに八重葉を木っ端微塵にしてやろうー!」


「お、おい」


 横から弥一が意気込みを次々と語り、間宮が止める暇も無い。


「行くよー!立見GO!!」


「「イエー!!」」


 最後には弥一が掛け声の役目を持って行き、皆がその勢いで声を揃えていた。


「…まあ、たまにはいいか」


 間宮は特に咎めずそのままポジションへと向かう最中、きっと自分が卒業した来年ああいう感じなんだろうなと未来の立見を頭に思い浮かべる。



「おーい」


 この時弥一がスタメン出場の半蔵や優也、更に明を呼べば彼らで話し合いをしていた。


 そして僅かな話し合いの後に彼らは改めてポジションについて試合開始の時を待つ。


 この姿は八重葉の選手達も見えており何かして来るのかと警戒。


 いきなり中央突破か、それとも左右の氷神兄弟を使ってサイドからの奇襲か。


 八重葉の両サイドが詩音と玲音の姿から目を離さない。



 ピィーーー



 決勝戦開始の笛が鳴ると半蔵が軽くボールを蹴り出し優也が後ろへと戻す。


 そこに待っているのは明だ。


 まずは何時も通りか、八重葉がそう思った時。



「!?」


 明がこれをダイレクトに思い切り左足で蹴り上げ、ボールは勢いよくかつ八重葉ゴールへと高々と舞い上がって向かう。


 この時八重葉のGKは前の方に出ていた、明が蹴ったボールがこちらに向かってるのに気づけば上のボールを見上げると。


「(うぐ!?眩し…!)」


 見上げた先にはボールと共にある夏の太陽、その眩しさで目が眩むと目測を誤ったかジャンプして伸ばした手はボールを掠めて取れず。


 高く舞い上がったボールはそのままゴールへと向かって落ちて行く、それは虹を描くような軌道のシュートだった。


 センターサークル付近から撃った明のロングドライブシュート、太陽の眩しさも味方して八重葉のゴールネットを早くも揺らす。


 前半開始8秒、八重葉にとっては味わった事のないケースによる秒での失点。


「明でかしたー♪よく決めてくれたよー!」


 立見はそれぞれ明へと駆け寄っていた、その中で弥一は明の背に飛び付き彼のゴールを祝福。



「この調子で八重葉を完全にぶっ潰そうー♪」





 ーーーーーーーーーーーーーーー



 詩音「開始8秒、てとんでもないねー…」


 玲音「ギネスじゃないのこれー!?」


 摩央「どうだったっけ…ギネス記録調べてみよ」


 大門「陽射しが強い時に備えて帽子は被った方が良さそうだな、用意しておいて良かったよ」


 影山「ホント、怪物な後輩は凄いなぁ…」

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