第307話 チームの総合力
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
開始前から既に彼は動いていた。
「相手GKが前の方出てる上に帽子被ってないからさ、ワンチャンゴール行けそうなんだよねー」
弥一は半蔵、優也、明と前線の選手を集めて八重葉のGKが居る位置をチラ見しつつ伝える。
「そうじゃなくても弾いてコーナー、まあ入らなくてもビビらせるぐらいは出来ると思うから」
「それで一体誰が蹴るんだ?言っとくが俺のキック力や技術じゃ無理だぞ」
「俺もですね…やはり此処は神明寺先輩でしょうか?」
優也、半蔵共にこの位置から狙うのは無理だった、出来るとしたら技術を持つ弥一かと共に視線を向けるがその彼は首を横に振る。
「僕もキック力足りないから駄目、だからキック力も技術も兼ね備えた彼にやってもらうんだよー」
すると弥一の視線はその彼へと向く、先に居たのは明だった。
「え…俺…?」
大無茶振りをこの大舞台で振られ、明は技術とキック力を両方兼ね備えているという事でキックオフシュートの役目を背負う事になった。
弥一からは外れて大ホームランでもいいから思い切りやっちゃえ♪と背中を押され、ミスしてもいいならと明は引き受ける。
GKは前に出ていた、半蔵から優也へと自分に何時も通りボールがやって来る。
そして明が思い切り振り抜いたシュートは虹のような軌道を描きゴールネットを揺らしたのだ。
「(入るもんだなぁ…)」
色々偶然が重なったキックオフゴールを決めてチームメイトから早くも手荒く祝福を受ける中、明は入った事に若干驚いていた。
一方の八重葉は呆然としており中々ボールをセンターサークルへと戻しに動き出す事が出来ない。
かつて絶対王者と言われた八重葉が開始数秒で失点、決めた高校にとっては名誉ある事だが決められた高校にとっては拭いきれない不名誉だろう。
「切り替えろ!試合はまだ始まったばかりだぞ!」
八重葉の監督がベンチから立ち上がり前へと出て行けば手を叩き選手達へ伝える。
ようやくキックオフ再開の準備は整い、八重葉ボールで試合再開。
得意のハイレベルなパス回しと個人技で相手を翻弄し、ゴールへと迫る。左サイドには快足月城も居る。
逆転の為のタレントを照皇が不在でも揃えているという自信があった、八重葉は一人の天才でゴリ押しするチームではない。
高い総合力を持ってゲームを制するチーム、全国からサッカーエリートが集う八重葉だからこそ可能だった。
「9番囲んで囲んでー!」
弥一が最終ラインからこの試合もコーチングを欠かさない、立見の方はこの試合で何時もの4ー5ー1から3ー5ー2のシステムを敷いていた。
優也、半蔵の2トップ。トップ下に明、右に詩音、左に玲音を置いて川田と影山のダブルボランチ。
最終ラインは弥一、間宮、立浪。GKは大門。
「(3ー5ー2は立見ではやってきていないはず…経験あるとすれば代表で動いていた神明寺と歳児か…)」
スタンドから立見の陣形を見ている照皇、自身も代表でこのシステムで動いていた。
「うおっ!」
この試合スタメンのCBに選ばれた立浪、相手の左サイドから放り込まれたボールをヘディングでしっかりと弾き返す。
身長や高さで言えば半蔵に匹敵する頼もしい1年DFだ。
溢れたボールを影山が先に拾ってキープ、昨年もそうだが彼は高い確率でセカンドボールを拾ってくれる。
おかげで相手の追撃を受けにくく非常に助かる守備をしてくれていた。
「(立見で厄介なのが多過ぎる!けどその中で一番はこいつだ!)」
今年の立見は前に優秀なタレントを揃えている、月城は一人に狙いをつけてマーク。
その相手は明だった。
先程のキックオフゴールだけではない、彼がボールを持つとそこから色々展開をされてしまうのはこれまでの試合のデータで明らかだ。
「(まあそうくるよね、でも…)」
月城は気付いていない、それらの動きを弥一に見られ思考が筒抜けである事を。
「右薄いよー!」
左SDFの月城がマンマークに行った事でそのサイドが空いていると、弥一は右から行けとコーチングで指示。
わざわざ自分の空いたサイドをそのままにしておくほど月城と八重葉は浅くはない、入れ替わる形でその選手に任せている。
だがそれも込みで弥一は薄いと言い切っていた。
ボールを持った詩音と相手のサイドでの攻防戦、素早いシザースから左へ行くと見せかけて一気に縦へと詩音は突破。個人技で八重葉の選手相手にデュエルで勝利する。
「ちぃっ!」
この危険を素早く察知した政宗、縦へとボールを強めに蹴り出していて詩音がそれに追いつく前、スライディングで政宗はボールをサイドへと押し出し一旦プレーの流れを断ち切った。
しかしゴール前のスローイン、この位置になるとスローインを投げる選手は立見では決まっている。
スタジアムも歓声が上がり観客も分かっていた、此処は立見の人間発射台こと川田の出番だと。
「(川田のロングスローだ、石田は俺が付くからお前は歳児を頼む)」
「(分かった)」
佐助、政宗と仙道兄弟がそれぞれ厄介な2トップを抑える役目を担う。
川田が狙うのであればこの辺りだという読みだ。
ミドルも狙える明には変わらず月城がマークしている。
『立見ゴール前でスローイン、ボールを持つのはやはり立見の人間発射台の異名を持つ川田!』
『此処はやはり分かっていても止めづらい石田君の高さですかね、192cmから繰り出されるプレーは脅威です』
川田は両手でボールを持てば助走する為に下がっていた。
「だぁぁぁーー!!!」
そして気合の雄叫びと共にボールを持った状態で走り出す。
八重葉の方は放り込まれるであろうロングスローに対して身構えている。
だがボールがゴール前へと高く放り込まれる事は無かった。
川田が気合と共にロングスローを放り込むイメージが強く、目の前でそれを見てそう来るだろうと思い込んでしまっていた。
そのせいで川田がロングスローと見せかけて近くの詩音へと軽く投げ、これを胸トラップでコントロールすると右足で低いクロスを八重葉ゴール前へと上げる。
「(速っ!?)」
角度無い所からシュートを撃ったのかと八重葉選手が思ってしまうクロス速度。
彼らは知らない、立見はその速度によるサッカーマシンで鍛えられ速さ慣れしている事に。
シュート並の速さが詩音から送られ味方も取れないと思われたが、これを玲音が得意の左足で八重葉ゴールへ向けてダイレクトシュート。
左下へと向かうボールにGKが右腕を出すが止めることは叶わずゴールネットは再び揺らされた。
決勝戦での追加点が決まり双子を中心に喜びの輪が出来上がり、スタンドからも歓声が上がっている。
「(まさか…今の立見は、八重葉にも劣らない…いや、凌駕する総合力を持っていると言うのか…!?)」
追いつくどころか2点差にされて突き放される現実に八重葉の監督は驚愕していた。
総合力に加えて決勝まで来て残っている余力の差、それが出始めて来る。
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アドルフ「おいおい立見結構押しまくってるぞこれ!」
ルイ「最初の1点を向こう切り替えられてないんじゃないか?それで2点目も許したんだろ」
デイブ「まー、それでスローインのトリックプレー破れなかった可能性はあるよな」
ルイ「ってまた何か増えてるし!こいつアメリカだろ!」
デイブ「俺も呼ばれただけだって!」
アドルフ「まーまー、此処は大会じゃねぇし仲良くやっとこうぜ」
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