第305話 痛み分け
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「気を抜くな!まだ同点だ、このまま逆転行くぞ!」
同点ゴールで照皇を中心に喜びの輪が作られたが得点を決めた本人は浮かれずすぐに気を引き締め、皆へと声をかけていく。
「あいつら、油断すんなっつったのに…チッ!」
あっさりと後半10分が経つ前に同点へと追いつかれ、仲間への不甲斐なさに対してか忌々しげに舌打ちした後に視線は照皇へと向いていた。
八重葉の中で一番厄介な存在となるのは間違いなく照皇、牙裏が狼騎を要にしているのと同じだ。
追い付いた八重葉はさらなる攻勢へと出る、3ー3と点の取り合いや殴り合いといった展開になってきて会場の両チームへ送る声援は夏の猛暑に負けず精一杯送り途切れさせない。
逆転の4点目はやりたくないと牙裏は照皇を徹底マークしてこれ以上の仕事を許さない。
月城が上がって左足でシュートを撃つがDFの体を張ったブロックが跳ね返していた。
狼騎や照皇、互いに厳しいマークが付いておりそれぞれ彼ら抜きで攻防が行われ凌ぎ、また凌ぎと同点からスコアは中々動かなくなっている。
「(こっちはフランスでベルギーと戦ってんだ、それと比べたらこんなもんどうって事ないだろ!)」
狼騎をマークする月城は己に内心で強く言い聞かせていた、フランス国際大会のUー19では世界と戦っている。
国内の新鋭相手に今更手こずっている場合ではない。
「っ!」
ボールを狼騎が取ったかと思えばトラップの瞬間を狙っていた月城、足を出してボールを弾けば政宗が素早いフォローへと入っており狼騎が追いつく前にキープ。
「カウンター!!」
そこに佐助の声が飛べば八重葉の選手達が一斉に動き出す。
流石全国から集まった選りすぐりのエリート選手達の動き出しは速く、先程まで守備に追われていたのがあっという間に形勢逆転。
周りの動き出しで照皇へのマークを一瞬迷ってしまった牙裏DF陣、その間に照皇は相手ゴール前へと一直線に走る。
「こっちだ!」
今なら空いていると照皇は右手を上げてアピール、味方の八重葉選手からパスが出されてそれに向かい再び照皇が動く。
通ればチャンスというボールだがそれに対して狙いすましたタイミングで襲い掛かる者が居た。
狼騎がスライディングで滑り込んでいたのだ。
驚異的な瞬発力と反射神経は守りでも活きて狼騎はFWながら此処まで戻り照皇を止めに行く。
先に到達したのは照皇、このまま反転して撃つ。そのイメージを描いて後はそれを実現させるだけだ。
だがその後すぐに左足首に痛みが走る。
狼騎のスライディングで出た右足のスパイクが照皇の左足首に当たってしまったのだ。
少々の痛みなら我慢出来る、だがあまりに強い痛みの為か照皇は顔を歪めて左足を抑え倒れてしまう。
ピィーー
これには主審の笛が形鳴ると牙裏、狼騎のファールを取った。受けた場所は牙裏のエリア内。
つまりPKだ。
更にこれだけでは終わらず狼騎の照皇に対するファールが悪質だとみなされたのか主審の胸ポケットから赤いカードが出される。
レッドカードで一発退場、それが主審の下したジャッジだった。
「何でだよ!向こうが勝手に足出してきただけだろうが!俺のタックルはボール行ってんだよ!!」
「狼騎!」
この判定に納得が行かない狼騎、主審に食い下がろうとするのを佐竹が必死に止めている。
此処で仮に牙裏が勝利したとしても狼騎は出場停止で決勝に出る事が出来ない、それよりも絶対的エースを欠いた上に1人少ない10人で八重葉と戦わなければならないのだから絶望的な状況だ。
「けっ!こんな審判がいる試合なんざやってられるかよクソが!!」
審判への不満が収まらない狼騎は最後に暴言を吐き捨ててフィールドから立ち去る。
だがエースを欠く事になるのは牙裏だけではなかった。
「ぐ……う…!」
「先輩!」
「ドクター!!」
苦痛で顔を歪め左足首を抑える照皇に月城や他の八重葉面々が駆け付ける、佐助はベンチへと向かって大声で叫ぶようにドクターを要請。
照皇が担架で一旦フィールド外へと運ばれ、その間にベンチでは控えのFWへの交代準備を進めていた。
そしてドクターが照皇の足を診た結果、ベンチに向かって☓マークを上へと両手で作り掲げると試合続行出来ない事実が伝わる。
この時点で軽い怪我ではないのが確定した事は間違いないだろう。
仮に八重葉が勝ち上がり決勝を迎えたとしても明日までにその怪我がある程度回復し、試合に臨める可能性はおそらく無い。
八重葉と牙裏、共にこのワンプレーで照皇と狼騎という互いの絶対的エースを失ってしまう。
キャプテンマークを巻いていた照皇から佐助へと一時的にバトンは渡され、八重葉のPKが行われる。
「(この足じゃ明日は…おそらく無理だな…)」
担架で運ばれる中、照皇は自分の足の状態を察していた。
立ち上がる事も辛いぐらいの痛み、人の肩を借りたり松葉杖でも使わなければおそらく歩けない。
こんな状態では明日の決勝は無理だろうと。
つまり照皇にとって最後の夏となる大会は此処で終わり更に弥一と再び戦う事が出来なくなってしまった。
ならば自分の出来る事は八重葉の勝利、インターハイ連覇を応援する。そして1日も早く左足首を完治させて再びフィールドに戻る。
感じる痛みと共に照皇は次にするべき事を定めていた。
八重葉が取ったPKは月城が相手キーパーの逆を突いて軽く左足で流し込み4ー3と再び逆転。
牙裏は10人となった後も必死に食らいついて行くが狼騎を欠いた状態での攻撃は八重葉の守備を突破出来ず、
1点差をひっくり返せないまま時間は経過し、ペースは八重葉が握って渡さない。
このまま試合終了を迎え八重葉が昨年に続き決勝進出。
立見との選手権に続く決勝戦が実現するのだった。
「何だ…駄目だったんだ牙裏」
牙裏が準決勝で敗退したという結果をスマホでチェックしていた一人の少年。
「(ま、戦力揃ってない状態でベスト4は上出来かな)」
少年は小さく笑っていた。
八重葉4ー3牙裏
照皇3 酒井2
月城1 オウンゴール1
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ルイ「何で日本の高校の試合について俺達が語らないといけないんだよ…」
アドルフ「国内の連中だけじゃなく海外も幅広く出そうって事で俺ら呼ばれたらしいぞ」
ルイ「ったく、けど何か獰猛そうな奴が居たな。あの動き出しは日本人とは思えない」
アドルフ「どっちかって言うと大人しいタイプが多い印象あるけどな日本人って、あいつはもう…凄ぇな!」
ルイ「語彙力欠けてんな」
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