第304話 反撃の王者
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
前半戦が終了すると観客達にとっては想定していないスコアがそこに表示されていた。
3ー2、八重葉を相手に牙裏が前半だけで3点を奪い逆転に成功。
あの昨年王者が逆転を許すという試合展開は近年では見られておらずどよめきが会場で起こる程だ。
「八重葉が3失点なんて…」
「やっぱ大城や工藤がいなくなった穴が大き過ぎたのか?」
「それとも連戦で疲労が出たとか」
色々な憶測が飛び交う中で選手達はロッカールームへと引き上げて行った、牙裏がこのまま逃げ切るのか八重葉が逆転するのか後半への関心はこのスコアで益々皆高まっている事だろう。
八重葉のロッカールームでは逆転ゴールを許した事もあってか雰囲気はかなり重い。
それぞれ飲み物を飲んだり冷えたタオルを首にかけたりと猛暑で消耗した体力を少しでも回復させようとしていた。
「どうした!?我々八重葉が逆転を許すとは、牙裏を格下と侮ってないか!?」
牙裏を相手にビハインドで折り返す事になると思っていなかったらしい八重葉監督、気を抜いているのかと喝を入れるように大声を上げている。
重苦しい雰囲気の中で誰もそれに対して何かを言う者はいない。
「申し訳ありません、心の何処かに彼らを侮るような隙が無意識に生まれていたかもしれないです。後半は必ず巻き返します」
その中で照皇が前に進み監督に対して後半絶対に逆転すると強い決意に満ちた目で言葉を口にする。
照皇とてこのまま終わらせるつもりは無い、決勝に勝ち上がって立見と戦えないまま、弥一と再び相対する事もなく終わるのは照皇の中で許されない事だ。
こんな所で終われない、それは他の八重葉メンバーも一緒の気持ちだった。
「あいつの、酒井狼騎の動き出しとかマジ化け物だよな…」
「セカンドめちゃめちゃ拾ってくるし、あいつの近くにはボール溢れるの嫌過ぎるよな…」
佐助、政宗の兄弟2人はようやく守備について話し合う。振り返ってみれば脅威の動き出しでセカンドボールを拾われている。
他の能力も高いがやはり狼騎の反射神経、瞬発力が並外れて目立つ。
あれに対して対策をしない限りさらなる失点は避けられない。
「中途半端なクリアよりも思い切り大きくクリアを意識した方がいいだろ、近くのボールだとあいつすぐ追い付くしさ」
そこに月城も話に加わり出来る限り狼騎の近くでセカンドボールにならないように、または近くでボールが溢れた時の為にフォローをより素早く、クリアは大きくとこの2つを何時も以上に強く意識した方が良いかもしれない。
追い詰められた王者の話し合いは後半開始間近まで続いた。
一方の牙裏ロッカールームはリードで前半を折り返せて雰囲気は明るい。
こちらも冷たいドリンクやタオルで暑さによって消耗した体力を回復させる事に選手達は務める。
「いやぁ上出来上出来、あの王者を相手にリードで前半終えたのはかなり大きいね」
白髪混じりな年配の穏やかそうな監督小さく手を叩き選手達を労った。
「俺らって結構やれるもんだよな」
「結構どころじゃねぇよ、ベスト4まで来て八重葉にリードしてるんだ。つまり俺らも立見とかに負けない力があるって事だろ」
牙裏の選手達も最神を倒して勝ち上がり此処までの戦いで自信を付けている。
俺達もやれるんだと。
「気を抜くんじゃねーぞてめぇら」
そこに声をかけて来たのは我が物顔で椅子へと座りドリンクをグビグビと飲む狼騎。
「八重葉の野郎共が大人しくリードされっぱなしで終わる訳が無ぇ、気を抜いたら堅物そうなストライカーが2、3点軽く決めるだろうよ」
「分かってるよ…」
逆転して浮かれてる様子のチームメイトに狼騎は油断するなと伝えたつもりだが言われた方は若干ビクついていた。
「狼騎先輩お疲れ様です!追加のドリンク持ってきましたー!」
「ああ?そんないらねぇよ」
そこに五郎が狼騎に対して追加のドリンクを差し出して来たが既に飲んでるので狼騎は断る。
控えとして色々出来る事をして助けようとした五郎だが此処は空回りに終わったようだ。
「三好の奴よく平気であんなおっかない奴に話しかけたり絡めるよなぁ…」
牙裏のサッカー部員で狼騎に対して話しかけたり近づく者はそう多くはいない、大抵が彼を避けている。
その中で狼騎へと積極的に話しかける五郎のような存在は実に稀だった。
時間が迫ると狼騎は椅子から立ち上がり再びフィールドへと向かう、後半も彼は続けて出場だ。
この後半で王者を粉砕する、狼騎からすれば彼らは自分にとって最も狩り倒そうとしている弥一の前に立ち塞がる邪魔な相手にしか過ぎない。
狼にとって一番の獲物は弥一、それを邪魔する者は狩るのみだ。
だがその首を狙うのは彼だけではない。
ハーフタイムを終えて狼騎が選手の入場口へと向かうとそこに照皇も出て来て両者の視線がぶつかり合う。
睨み殺す程に狼騎は照皇を見ており彼の方も視線を逸らさず真っ直ぐ見続けている。
やがて照皇の方が先に視線を外すとフィールドへ向かい、それに続き狼騎も外へと姿を見せていた。
3ー2とビハインドの王者、後半の行方がどうなっていくのか周囲の観客の視線がフィールドに立つ選手達へと集まる。
ピィーーー
逆転したリードによって勢いのある牙裏、彼らは守りに入る事なく更に追加点を取って八重葉にとどめを刺すつもりだ。
佐竹を中心に素早くショートパスで繋ぎ狼騎へと出す。
そう来るだろうと狼騎には2人程のマークが付いていてパスを出すのは厳しい状況へと追い込む。
だが2人のマークを嘲笑うかのように突出した瞬発力で狼騎は一瞬マークを置き去りにする。
そこに佐竹からのパスが出され、狼騎がトラップし振り向けば前には八重葉選手達による白い壁が出来ていた。
構わず狼騎は壁を蹴散らさんと左足でシュート、後半早くも1本目が放たれる。
「げほっ!」
狼騎が撃ったシュートは八重葉DFの腹に命中し、ボールが転がりセカンドボールとなれば狼騎は素早くそれを追って行く。
だが今度は八重葉のフォローがそれを上回る速さだった。
狼騎が追いつく前に月城が左足で思い切り前へと繰り出してクリア。
高いボールとなって向かって来る球に照皇が落下地点で備えており近くには牙裏DFが居る。
共に地を蹴って飛び、空中戦となれば競り合いは互角。ボールは再び溢れ転がって行った。
それを拾ったのは八重葉側、照皇は競り合いから着地してゴール前へと走る。
そして照皇へとパスが出されれば前に居たDFをキックフェイントで引っ掛けて躱し、照皇の前にシュートコースが空いた瞬間彼は右足を振り抜く。
ゴール右へと弾丸の勢いで飛ぶシュートにGKの反応は遅れ、彼が手を伸ばした時にはゴールネットが豪快に揺れていた。
3ー3、同点ゴール。照皇がハットトリックとなる3点目を決まれば会場は大歓声に包まれる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
半蔵「流石だな、照皇さん…追い詰められたこの状況でハットトリックを決めるなんて」
明「高校No1で天才ストライカーの名は伊達じゃない…て事か」
詩音「にしてもあのおっかない牙裏のFW、結構DFのお腹にボールぶつけるなぁ」
玲音「神明寺先輩にもやったらタダじゃおかないぞー!」
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