第303話 点の取り合い


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。








「同点だ同点!八重葉相手にやれるぞこれ!」


「同点になっただけで騒ぎ過ぎんじゃねーよ、もう1点だ」


 あの八重葉相手に同点へと追い付いた事に佐竹や牙裏のメンバー達は大盛り上がり、ベンチの方でも喜ぶ面々の姿がある。

 ただ1人得点を決めた狼騎は平然としており同点ぐらい当然だと言わんばかりよ様子だった。


「くぅっ…あの野郎思いっきり肘入れて来やがった…!」


「審判に見つかったら一発レッドだろ、くそ!ラフプレーで崩されるなんて…!」


 痛そうにお腹をさする政宗、弟にラフプレーを躊躇なくやった狼騎に対して兄として佐助は怒りを見せていた。


「落ち着け、審判が取ってなかった。奴はただ乱暴に仕掛けた訳じゃなく計算して仕掛けたという事になる」


「つまり乱暴に見えて相当計算高いってやつっスね」


 照皇や月城も集まり対策を話し合う、このまま狼騎に好き放題やられる気は無い。

 そんな何度も1人にやられては王者八重葉の名が泣く。



 八重葉は再び突き放そうと再び攻勢に出た、左サイドから月城が駆け出し風のようなスピードで前へとぐんぐん上がって行く。


「右!気を付けろ!」


 この姿を見た牙裏の守備陣は勿論月城の動きに警戒、そこからクロスや単独突破が考えられるだろうと。


 だが此処まで上がった月城は彼らを引き付けるデコイ(囮)だ。


 そちらへ意識が向いている間に八重葉は守備の甘くなった部分を突こうと中盤で華麗なワンツーを展開、その流れで照皇へとDFの間を抜くスルーパスを送っていた。


 裏へと瞬時に動き出しで抜けた照皇はボールへと向かって走れば牙裏のGKも飛び出している。

 だが飛び出しが少し遅かったせいか先に追い付いたのは照皇だった。


 GKはボールに対して大胆に飛び込んで行く、それを照皇は冷静に見ており飛び込んで来た所を軽く左足のチップキックでふわりと浮かせる。


 相手の体の上をボールが通過していけば地面へと落下し、そのままゴールへと転がり入って行った。


 スルーパスから照皇のスピードと技によってゴールが生まれ2ー1とし、再び照皇が牙裏を突き放す。



 堅い守備の牙裏だが高校No1ストライカーは前半で早くも2得点の活躍、これに息を吹き返したように八重葉の声援が再び大きくなっていく。


「ちっ…おい丈」


「え?」


 八重葉一色となりつつある会場の雰囲気に狼騎は小さく舌打ちすると佐竹を呼び、耳打ちで何かを伝えていた。


「やっぱりチーム力に差があるよなぁ…」


「酒井先輩とか佐竹先輩と実力者は居るけど八重葉はそれ以上に全ポジションでタレント揃ってるし…」


 ベンチにいる牙裏控えの2年は八重葉の総合力の高さを感じており、これに劣る牙裏が対抗はきついと話していた。


 先輩2人の話を聞いていた五郎はそんな事は無い、大丈夫だと言いたいが実際にチーム力で差があるのは事実だ。


「(せめてあの人がいたらなぁ…)」




 八重葉が攻勢を強めて更に2、3点取ろうと牙裏ゴールへ照皇を中心に進み目指して行く。


 だが牙裏もほぼ全員が自陣へと戻りこれ以上突き放されまいと必死の守りで追加点を許さない。


 流石の八重葉も中々攻め込めずにいて、エリア外からロングシュートを撃って崩しに行くとDFがこれを弾く。


 その弾いたボールがラッキーな事に牙裏の選手の元へと跳ね返って取れた。


「カウンター!!」


 そこにキャプテン佐竹の大きな声が飛び守備から一転、牙裏がカウンターを仕掛けに攻め上がる。


「(結局向こうの決め手はこの野郎だけだろ!)」


 月城は狼騎へと付いて牙裏のフィニッシュは此処だと読み、マークで封じ込めようとしていた。


 此処まで牙裏が勝ち上がって来たのは狼騎の力によるもの、それを抑えてしまえば恐れる相手ではない。


 そう思っているとその狼騎へとパスが出ていた、予想通りだ。


 月城はパスに反応して動き出しインターセプトを狙う。


 しかしその月城よりよ素早い動きでボールに向かう者が居た。


 単純な速さなら月城が勝っていたかもしれない、だがボールへの反応と体に伝わってからの動き出し、そしてトップスピードに乗る速さが短い距離で全国1、2を争う月城の速さを凌駕していた。


 狼騎の瞬間的なスピードがこれを可能としパスは通る、


「(落ち着け!最後のシュートはこいつだ、コースを読んでその前に立って大きく弾ければセカンドは追えないはず!)」


 最終ラインを守る佐助は落ち着いて狼騎の動きを見てその前に立ち、迂闊に飛び込まないようにする。それでプレッシャーを与えてる間に他のDFと共に数的優位で守りにいく。


 その狼騎は左右の足の柔らかなタッチでボールを操りフェイントで翻弄しにかかる、ラフプレーで来たかと思えば器用な事が出来るなと佐助は意外な狼騎の姿を見つつ抜かせない。


 すると狼騎は此処で左踵のヒールキックによるパスで右へとボールを流す、それも寄せていたもう一人のDFの股の間を通す高度な物だ。


 そこに反応し走っていたのは牙裏キャプテンの佐竹だった。


 狼騎のパスを考えなかった訳では無い、ただ狼騎は単独が多かった。なのでパスへの警戒は少し緩めてしまったかもしれない。


 滅多にない八重葉守備陣の隙を突いたシュートチャンス、佐竹は右足を振り切ってゴール左のコースを狙う。


 そこに反応している八重葉GK、ただ前にDFが居てこれをブロック。

 するとシュートコースが変わりボールは弾かれながらも八重葉ゴールへと向かっている、月城が必死で追ってクリアに行こうとする姿が見えた。



 それには一歩及ばず八重葉のゴールネットがDFに当たった事で揺らされ、牙裏にとってはラッキーなゴール。


 八重葉にとってはまさかのオウンゴール、不運な形で同点ゴールを許してしまった。


「くっそ!!」


 2失点を許し月城は悔しそうに言葉を放ちゴールに喜ぶ牙裏イレブンを睨んでいた。


 牙裏応援席は同点ゴールに追い付いた事に盛り上がり、八重葉の方は若干ざわついている、彼らが2失点、それも前半で許してしまったのが彼らにとって信じられない光景だった。


「八重葉が前半で2度も同点に追いつかれるなんて…」


 八重葉を取材し続ける記者からすればその歴史でもこういう事は早々無い。

 先制が決まってそのまま勝利まで突き進むのが八重葉だが今そこに牙裏が立ち塞がり勝利を奪おうとしていた。



 そして同点ゴールに追い付いた事で攻勢を強めるのは牙裏、先程まで必死に守っていた牙裏の役目が今度は八重葉へと回ってきてしまう。


「 ぎゃっ!」


 狼騎は強引に八重葉選手を競り合いの中で蹴散らし、再びボールを持つと振り向きざまに右足のシュートを放っていく。


 これ以上得点は許したくない八重葉、佐助が右肩でこのシュートをブロックしてボールは転がって行く。


 それにまたしても素早く詰めていたのは狼騎だった。


 そして今度は右足のシュートを撃てばボールは左上隅へと飛んで行き八重葉GKの懸命なダイブも及ばず同点ゴールから数分後の前半アディショナルタイム。



 三度八重葉のゴールは揺らされ牙裏が3ー2と逆転。


 立見に続く新たな新鋭が王者を飲み込まんとしている。






 ーーーーーーーーーーーーーーー



 摩央「向こう漫画みたいに派手な点の取り合いになってるぞ」


 弥一「うちだと全然無い展開だねー」


 摩央「そりゃお前らが片っ端から完封しまくるからな、どうせ3失点とか今までした事無いって奴だろ?」


 弥一「うん、記憶に無いね♪」


 摩央「 マジで無しか!」

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