第302話 王者に牙を剥く狼


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 立見と反対側のブロックでもう一つの準決勝が行われる、国体の前回王者八重葉と今大会ダークホースの牙裏。


 試合前の予想では八重葉有利と言われているが牙裏がまたも大番狂わせを起こすのではという声も少なくない。


「結局八重葉じゃないか?大城や工藤がいなくなったとはいえ攻撃陣は照皇を中心に強力なの揃ってるし守備も仙道兄弟の成長で安定してるからな」


「いやー、牙裏も分かんないだろ。元々守備に定評あるチームに酒井みたいなとんでもないストライカーが居るんだ。先制とかすれば八重葉でもヤバいぞ」


 観客の声もそれぞれだ、これがトーナメント1回戦とかであればほぼ全員が八重葉と答えるだろう。


 だが此処に居る者達は牙裏の快進撃を見ている、選手権では立見が下馬評を覆し勝利を手にしたので牙裏も新鋭としてそれに続くのではないかと。


 選手達がフィールドへ現れると共に夏の太陽は輝きを増して選手達を照らしていく。

 相変わらず目の前の相手だけでなく暑さとの戦いにもなりそうだ。


 だがどんなに暑かろうが寒かろうが八重葉の伝統は変わらない、試合前のカステラは食しておりこの試合に向けての準備は既に完了している。

 後は何時も通り勝利を目指し戦うのみ。


「(フン…殺し甲斐のある奴らがゾロゾロ出て来やがったか)」


 牙裏や狼騎にとっては初の八重葉戦、皆が高校サッカー界においての八重葉学園という名を知っている。


 その王者を前に狼騎は怯む様子など無い、王者だろうがなんだろうが狼にとっては狩る獲物に過ぎないのだ。


「うわー、八重葉…!テレビで見るより何か迫力ありません!?」


 今日もベンチに控える小さなGKの三好五郎、生の王者を見て興奮気味になっていて先輩に落ち着くよう言われていた。




「狼騎、この試合お前が頼りだから…八重葉相手だけど頑張ろうな」


 試合開始前キャプテンの佐竹が狼騎へと声をかける、この試合は何時も以上にエースである彼の働きにかかっているのだ。


 相手は王者だが狼騎がいればひょっとしたら、そんな思いが佐竹の中にあった。


「そこは王者を叩き潰すぐらい言え、頑張ろうとか温い事言ってんじゃねぇよ」


「あ、わ…悪い」


 鋭い目を狼騎が向けて来れば佐竹はそれにビクっとなってしまう。


 此処まで来て満足、八重葉との試合で思い出作りというつもりは狼騎には欠片も無い。


 王者に負けに来たのではなく狩りに来ているのだ。


 狼騎がその目を真っ直ぐ八重葉の方へと向ければ視線の先には照皇が映っていた。



「…」


 向けられた目に対して照皇は怯む事なく視線を逸らさず真っ直ぐ見ている。


 その目を見て照皇は思った、この男は強い。隙を見せればおそらくやられると。


 どんなに相手が弱小でも手を緩めない、照皇はこの試合も油断無く勝ち進み決勝で弥一のいる立見と再び戦う為に全力で臨む。


 八重葉と牙裏の準決勝、開始の笛が今高らかに吹かれる。


 ピィーーー




 牙裏のキックオフで試合は始まり佐竹がボールを持ってまずは上がっていく、そこに八重葉の選手が素早く体を寄せて来ていた。

 この辺りは流石王者と言うべきか寄せが速い。



 佐竹は一旦右SHの選手に預けようとパスを送る、すると開始早々から飛び出していた月城がこれを素早い出足でインターセプト。


「!?戻れ!ディレイ!」


 これに佐竹は味方に戻るよう声をかけつつ相手の攻撃を遅らせてくれと指示。


 しかし相手は八重葉、そう簡単には止まらず流れるような連携と素早い動き出しであっという間に牙裏ゴールまで迫って来た。


 左サイドを縄張りとする月城が独走からゴール前へと左足でアーリークロスを上げればこれに合わせるのは照皇。相手との空中戦を制していた。


 打点の高いヘディングは正確にボールを捉えておりしっかりとゴールに飛ばし、牙裏のGKはダイブし手を伸ばすが及ばず吸い込まれるようにゴールへと入る。


 ボールを奪って僅かな時間で八重葉の先制ゴール、鮮やかな電光石火の得点にスタンドは大盛り上がりを見せた。



「ああ、もう先制されちまった…やっぱり八重葉に勝つの無理かなこれ…?」


「まだ始まったばかりですよ!?狼騎先輩居るからひっくり返せます!」


 牙裏ベンチでは早々の照皇によるゴールを目の当たりにしてしまいやっぱり八重葉には勝てないのかと諦めムードになっていた。


 これにそんな事は無いと五郎が声を張り上げ、牙裏を応援していく。


 牙裏には狼騎がいる、彼が居れば勝てると信じての事だ。




「怯むな、前向いてしっかり俺に寄越せ」


「お、おう…」


 キックオフ再開前に狼騎は佐竹へと声をかけていた、先程彼が八重葉のプレッシャーを前に怯んだのを見抜いていたのか、怯まず自分に寄越せと伝えてから再開の笛を迎えて軽く佐竹へと渡す。



 狼騎はこの時八重葉の陣内へと素早く走り込んでいた、いきなりトップスピードに乗ってゴール前へと近づく。


 八重葉の守備が一瞬狼騎の動きに注目してる間佐竹はその狼騎の足元へとパスを出した。


 そこに政宗が狼騎に対して寄せに来るが。




 ドスッ


「ぐっ!?」


 競り合う最中に狼騎の左肘が政宗の腹部に食い込み、苦しみで顔を歪め動きが止まる。


 その間に狼騎はボールを持って前を向いていた。混戦となっていて見えにくかったせいか笛は無い、近くで見てた八重葉の選手がファールをアピールするがプレーは止まらなかった。



 弟の敵討ちとばかりに狼騎の前に立つ兄の佐助、此処は抜かせないと身構えている。


 だがその姿に構わず狼騎は右足を素早く振り抜いていた。


 勢いあるボールはゴールへと向けて放たれるがその前には佐助がいる。


「っ!」


 佐助の右肩に鋭い痛みが伝わってくる、狼騎のシュートはそこへ当たっていてセカンドボールとなり球は転がっていった。


 それに誰よりも速く狼騎が動き出し転がって行くボールに追い付こうとしている。


「コース切れ!」


 八重葉の方で指示が飛ぶが狼騎はその前に左足のトゥーキックでボールを飛ばしていた。


 スピードあるシュートが飛んできたかと思えば今度はノーモーションで撃って来て八重葉GKはこのボールに食らいつき、左下に飛んだボールをなんとか右腕で弾き返す。


 これで後は誰かクリアしてくれる、そう思っていた。


 しかし真っ先に動き出していたのはシュートを撃った張本人の狼騎。


 彼は恐るべき瞬発力と反射神経で再びボールに迫り三度蹴り込んだ。


 八重葉のゴールネットは揺らされ、まさかの同点ゴールに八重葉選手達やスタンドの観客達は一瞬呆然とする。



 たった1人の選手に八重葉の守備をかき回されゴールを奪われたのだから。




 ーーーーーーーーーーーーーーー




 弥一「暑さまだまだ続くねー、こういう時は冷たいアイスや飲み物が美味しい〜…」


 大門「冷たいの取りすぎてお腹を壊さないようにな」


 摩央「そんぐらい暑い!こっちの世界でも作者の世界でも、とりあえず飲も飲も」


 優也「炭酸は普段は駄目だが…たまに飲むと美味いな」


 弥一「そうそう、それでピザとかハンバーガー食べたら絶対最高だよねー♪ジャンクフードは悪魔的な美味しさだー」

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