第277話  信頼からの守備


 ※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。











 試合は変わらずベルギーペース、ルイが攻撃を組み立てアドルフを主軸にサイドの選手達を有効活用して攻めに出ていた。


「こんの!」


 これに月城も此処は引いて守りメラムからトーラスへのパスに対して右足を懸命に伸ばしてボールを弾く。


「ナイスナイスー!そのまましっかり守って月城ー!」


 下がった月城に対して弥一はそのまま守ってもらおうと守備に貢献した彼へ手を叩いて称賛しつつ前へ出ろとは言わない。


 そして白羽のサイドの方でも彼が下がっており日本はほぼ全員が自陣へと下がっていた。


「相手0−0でハーフタイム迎えるつもりだぞー!此処攻めて取れればデカいぞー!」


 前半残り時間は少ない、ハイライン状態にしているベルギーのDFラインを維持しながらアキレスは後ろから大声で前線へと伝える。



「(此処まで攻撃でええところは無い、なら今は守備で貢献や!)」


 相手の執拗なマークでチャンスを潰されている光輝、ボールを持つダインへと楽にパスを出させず攻撃を遅らせようと喰らいついていた。


 今はベルギーのペース、時間は少ない。やるべき事は見えていた。

 この攻撃を凌いで前半スコアレスで乗り切り立て直す。


 政宗がボールを持つルイから奪おうと足を出すがルイは巧みにボールを守り、政宗の隙を突いて左足から繰り出されたパスが政宗の左を突破して前を走るアドンへのスルーパスとなった。


 だがこれを読んだのは佐助、アドンに渡る前にダイレクトでボールを蹴り上げてクリアすれば弟のカバーを兄がしっかりと務めチャンスを潰していく。


「悪い兄貴!助かったー!」


 政宗は佐助へと礼を言うと佐助は右の親指立てて応えて見せた。



 ベルギーのゴール前からのスローイン、此処でトールマンが思いっきりゴール前へと高く放り投げるロングスローを見せればそれにエースのアドルフが高くジャンプ。


「くっ!」


 肩に手をかけ損ねて想真はアドルフに空中戦で競り負けている。

 このままではヘディング、またはポストをまた許す事となる、そう思った時。



「わっ!?」


 そこにアドルフより更に高い位置からヘディングでクリアする者が居た。


 ゴール前まで戻って守備に努める室だ。


 195cmの長身を活かした頭でのクリアはアドルフを持ってしても高さで競り勝てず此処は日本の守りが勝った。



 ただしセカンドボールに詰めているのはまたしてもベルギー、ルイがこれに迫り取ろうとしている。


 その前に番が追い付き力一杯右足でボールを前へと蹴り飛ばしてクリアに成功。


「おっ…!?」


 番がクリアしたボールは予想以上の伸びを見せるとセンターサークルを超えて行き、ベルギー陣内の方にまでボールは伸びていた。


 ただ一人前線に残っていた照皇がこれを追うも当然DFも彼にはガッチリとマークが付いている。


 そして落下してくるボールに合わせて飛ぼうとすればDFもそれに合わせて飛ぶ体勢、空中戦のぶつかり合いに備えて身も心も構えていた。



 だが照皇の方は共に飛ぶと見せかけて頭で相手が頭でボールをクリアする方向を計算し、備えていた。


 DF1人が飛んで競り合う相手もいないので難なく頭に当てると前へボールを送る。


 その前に照皇が居てこのボールを取れば一気にベルギーを慌てさせていた。



『あー取った!DFセインのヘディングしたボールを照皇が読んだ!』


『チャンスですよ!行け!行け!』


 思わぬ所でのカットに日本にとっては劣勢の中で掴んだ大チャンス、ベルギーは想定外のピンチを招いてしまう。


「寄せろー!!」


 ドンメルが大きな声で指示、必死にセインが照皇へと体を寄せて行くがボールを大きく蹴り出し猛ダッシュで駆ける照皇のスピードは速く、寄せてプレーを遅らせる事も許さなかった。


 セインを振り切って行くケント、ドンメルとこのまま1対1と思われたが懸命にアキレスが照皇を追いかけて迫り来ている。


 ドンメルはアキレスが間に合うと見ていて飛び出さず身構えていた。


 アキレスとの競り合いになればおそらくシュートを撃つのは困難、そうなればまともなシュートを撃たせることは許さない可能性が高くなってくる。


 照皇はアキレスが迫ってくる前に得意の右足でのミドルシュートをインステップで思い切り撃ち込んだ。


 あと僅かという所まで敵が迫って来て照皇のシュートはゴール左下へと飛んでおりGKの取りにくいコースへと飛んでいた。


 それに関係無いと言わんばかりにドンメルがシュートに対して低いダイブを見せれば、伸ばした右手でボールを弾き出しコースを変えてゴールラインを割っていた。



『止めたベルギーの守護神ドンメル・シュバルツ!照皇のミドルに対して素晴らしい反応で得点を阻止したー!』


『飛び出してくれば抜けたかもしれませんでしたが、あの状況でよく飛び出さず判断して止めましたよね!』


 ベルギーサポーターからは沸き起こるドンメルコール。チームメイト達もこのセーブに皆駆け付けて守護神に感謝していた。



「まだ終わってないぞー!CKだ、これしっかり守ってくぞ!」


 ドンメルは声を張り上げて気を抜くなと伝えればベルギーチームは日本の守備のようにほぼ全員がゴール前へと戻り守備を固める。


 このセットプレーが前半最後のプレーとなる確率が高く1点がこの試合重くのしかかる事を彼らも理解していた。


 そして弥一も上がりに行くとそこにアドルフがすかさず弥一へとマークに付いていた。


「用心深いねー」


「ミランや日本の高校で活躍していたお前を知ってれば誰だって分かるさ」


 DFで身長は低いが彼の攻撃参加はベルギーにとって良くない、アドルフは弥一が大事な所で得点を取れる彼の能力を知っており警戒。


 そして弥一もアドルフのここぞという守備が厄介な事を知っている、互いを知るからこそ封じ合う展開となっていた。



「でも良いの?僕がデコイってあれもあるかもしれないよー?」


 弥一はアドルフを迷わせようと自分がただの囮であるかもしれないとその可能性をわざわざ彼へと伝える。


 だがアドルフに迷いは一切無い。


「その時は俺の信頼する頼れる仲間達が止めてくれる、ただそれだけの事だ」


 ベルギーの仲間達による守備はそんな簡単に破られる脆いものではない、アドルフはチームメイトの守備を信頼して弥一のマークに全力を注いでいるのだ。


 心で見てもアドルフの仲間への信頼は揺るがない、前半終了間際の失点は絶対にさせないという強い気持ちが伝わって来ていた。

 その中で始まる日本のセットプレー。


 左コーナーからのキッカーを務めるのは光輝だ。


 弥一から目を離さぬアドルフに弥一は彼を振り切ってシュートは困難と感じた、デコイの効果もおそらく薄い。


 シンプルに室の高さに任せようと彼の頭上をターゲットに高精度のキックで放り込む光輝、再びアキレスとの空中戦となった室は再び競り合い今度こそと強い気持ちを持ってぶつかり合うが肉体の差は気持ちでそう簡単には埋まらない。


 またしてもアキレスが強靭な肉体をもって室を空中戦で弾き飛ばしボールをクリア、そこに想真がセカンドボールに迫るとエリア外から右足でダイレクトシュートを撃つ。


 良い感触で蹴れたシュートだがガチガチにゴール前を固めていたベルギー、ダインが体を張ってブロックで防ぎゴール前高く上がったボールは落ちて来た所にドンメルが190cmを超える身長と腕のリーチを活かし空中でキャッチ。



 日本が前半終了間際に掴んだチャンスもベルギーに守り切られ、前半が終了。


 0ー0でハーフタイムを迎える。




 ーーーーーーーーーーーーー



 アドルフ「俺らも此処来て大丈夫なのか?」


 ルイ「日本の選手しか駄目だとは誰も言ってない、構わないという事だろ」


 アキレス「じゃあ遠慮なく寛がせてもらうとして、日本粘り強過ぎねぇ?結構攻めててもう2点ぐらい取ってそうなのにまだゴール無しかよ」


 アドルフ「そんだけヤイチのいる日本の守りは硬いって事さ」


 ドンメル「…こっちもゴールを割らさなければ1点で勝てる」


 ルイ「とりあえずハーフタイムだ!皆よーくエネルギー補給しとけよ」


 アドルフ「分かってるって、ああ。読者の皆さんも水分補給とかエネルギー補給欠かさないようにな。今の日本の暑さはシャレにならないって聞くしな」

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