第276話 ベルギーの司令塔がライバル視する存在
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「三津谷がやはり思うようにプレーさせてもらえませんね」
日本のベンチから此処まであまり自由にプレーさせてもらえていない光輝の姿を険しい顔で富山は見ていた。
ベルギーは日本の司令塔に狙いを定め、徹底マークで封じ込めている。それが功を奏しベルギー優位の展開で試合は進み、ボールポゼッション率(ボールの支配率)では日本は負けてしまってるのだ。
攻守で指示を飛ばしチームを引っ張るルイ・デュッセルの活躍が光っていた。
「分かっていましたがベルギーは厄介ですね、それぞれのポジションに要となる選手を揃えて攻守共にレベルが高くチームとしての完成度も高い」
マッテオもベルギーサッカーのレベルの高さを知っており、FWにはかつての教え子アドルフがいる。ミランのジョヴァニッシミ時代から彼は弥一やディーン達と共に活躍、イタリア最強のチームを支える一角となっていた。
ベルギーの中で唯一弥一とマッテオのやり口を知る人物が居るだけでこれまでの対戦チームよりやりづらさがある。
押されてはいるがスコアは0-0のまま動いていなかった。
「右!2番上がってるぞ!」
左SDFのトールマンが素早い上がりを見せてハーフのアドンを追い越し左サイドを駆け上がる、その姿を藤堂がゴール最後尾でいち早く見つけて指示を送っていた。
今ボールを持っているのはベルギーの司令塔ルイ、左を上がるトールマンの動きをちらっと見る。同時に白羽がトールマンの方へ向かう動きも彼の目は捉えている。
「番、そのまま気にせず突っ込めー!」
「!?おおー!」
そこに弥一がルイの傍に居てこのまま突っ込むべきか迷う番を後押しするように言えばルイへと詰め寄る。
左サイドを走るトールマンの動きは注意を引くデコイ、左へパスを出す気は無い。
「この…!」
抜群のテクニックを誇るルイだが他選手と比べフィジカルは低め、その1点に優れる番の相手は楽では済まない。
「(このまま奪い取る!)」
番は自分を苦手そうにしているルイにボールを奪うチャンスと見て厳しくチェックをかけていた、だがこの時にルイは口元に笑みを浮かべている。
「番!下!」
大股な番の今の体勢、それを見た政宗が間を抜かれると思い声をかけるが時既に遅し。ルイは番の股下を狙い右足でパスを出すとボールは番が大きく開く股の間をトンネルのように通過して通る。
よりによってパスの行き先は一番厄介なアドルフ、これが通ってしまうがそこに間髪入れず想真が詰めていた。
トラップの瞬間、詰めていた想真の上を右足でトンと軽くボールを蹴れば彼の頭上を超えてアドルフ自身も想真の左を抜き蹴り上げた自らのボールを追いかける。
「お見通しだよー!」
だがこれを弥一がカットすると前方へとボールを強く蹴り出してクリア。
アドルフが弥一のプレーを知るように弥一もまたアドルフのやろうとしている事は分かっていた。ああやってDFが詰めれば彼は頭上を超えるチップキックを使うのが好きなのだ。
「ちぇ、上手く行ったかと思ったのになぁ」
「知らなかったらやられてたかもねー、相変わらず器用なチップやるね」
一瞬会話を交わす弥一とアドルフの元チームメイト2人。
互いのプレーを軽く褒め合い笑い合った。
「アドルフ、あんま敵と馴れ合うな!次行くぞ次!」
弥一と喋るアドルフにルイは良く思ってないのか大声で注意。
攻撃が決まらなく攻めてるにも関わらず無得点の展開が続いて、ストライカーのアドルフより若干イライラが募ってきている様子だった。
「(これじゃ俺がディーンより優れているっていうのが証明出来ないじゃないか…!)」
同じユース世代でイタリアの天才と言われるサルバトーレ・ディーン。
弱冠17歳にしてミランのトップチームで活躍しセリエAのリーグ戦で現在首位の原動力となっている若手No1のプレーヤーだ。
同じ世代で彼の実力を超える選手はいないと言われておりルイはディーンを強くライバル視している。
ミランのトップで活躍してるからどうした、力は俺の方が上だと実力で負けているとは微塵も思っていない。
ベルギーの優勝は当然決めるがそれと同時にもう1つの目標として自分が優れた世代でNo1のプレーヤーである事を証明する。
自分とベルギーこそが最強、イタリアとディーンにその座を渡す気など無い。
この試合はその為の試合に過ぎない、日本を踏み台にするつもりでいたのだが予想以上に守備で粘られて点が取れない時間帯が続いていた。
再びルイにボールが来ればアドルフへのスルーパス、だが低く長いパスはカットされる可能性がある、それは先程弥一にカットされたばかりでルイも分かっていた。
「(下が駄目なら、上だ!)」
左足で高く蹴り上げてスペースを狙って落とすスルーパス、たとえ弥一が迫ったとしてもこれならインターセプトは不可能、ボディコンタクトは避けられない。そしてそうなれば体格で勝るアドルフに有利だ。
これに競り合うのは想真、目一杯高く飛んで競り合うも身長差で15cm以上の差がある相手に小細工無しで空中戦を競り勝つのは困難でアドルフは頭でボールを落とせば反応し走るのはトーラス。
フリーでシュートを撃たれるがボールは選手のスパイク部分に当たってブロック、左足を出して防いだのは弥一だった。
ボールが跳ね返りルイの頭上を通過しようとした時、彼はくるっとゴールを背に向ければそのまま飛び、右足でクリアボールを日本ゴール前へ向けて蹴り返す。
フランスのスタジアムで歓声が上がる、大技オーバーヘッドによるルイのプレーだ。
これで蹴られたボールは再び日本ゴール前、アドルフへと高いボールが迫り佐助は想真ではこれは荷が重いと判断すれば自分も参加しようと走る。
だが距離は遠い、間に合う確率は月城クラスのスピードでも無ければ低いだろう。
「任せろ!」
そこにもう一人の高さを持つ者が声をかけた後に空に舞うボールへ向かいジャンプ。
長身GKの藤堂がアドルフに勝る高さでボールを両手で掴み取りしっかりと胸の中に収める。
『お、抑えた!ルイのオーバーヘッドも飛び出しベルギーの波状攻撃でしたが日本の守備陣がこれを守り切る!』
『日本ここは我慢の時間帯ですよ!今は攻められてますがチャンスはやってくるはずですから!』
「はあっ…!流石ベルギーやな、多彩な攻撃めっちゃ仕掛けて来るわ…」
「あれ、弱音?」
「ちゃうわ阿呆!どんなん飛び出してくるかサーカスみたいで楽しいってアレやからな!」
弱気のつもりはないと弥一に想真は言い張り前線へと声をかけていく。
「(でもまあ、攻められてるけど収穫無い訳でもないんだよね)」
攻め込まれてる時間帯の日本、その中で弥一は声をかけ続けるベルギーの司令塔ルイへと目を付けていた。
彼の考えている事は分かる、それを利用すればあるいはと弥一は小さく笑えば仕掛けのタイミングを待つ事にするのだった。
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照皇「何やら神明寺が悪巧みをしているように見える」
月城「分かるんスか?」
照皇「何か企む時は何時もより少し悪そうな顔をするのがあいつの癖だ」
月城「そこまでよく見てるんスか、まあ何を企んでいるのか…今のこの状況ひっくり返せる策でもあるんスかねぇ?」
照皇「とにかく今はしっかり守ってチャンスを待つ、此処はひたすら我慢だ。八重葉では中々味わえんから貴重な経験だぞ」
月城「了解しましたー」
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