第275話 止められたら止め返す、守護神同士の争い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
試合のペースはベルギーが掴み、日本の攻撃は最終ラインのアキレスや中盤のルイ達によって阻まれ光輝は思うような攻撃を奏でる事が出来ていない。
高さに頼るもアキレスが室との空中戦に勝利し続けており彼に仕事を此処までさせていなかった。
エースのアドルフによる攻撃力に目が行きがちだがベルギーはこういった守備の硬さを持ち味としている、今大会はフランスに得点を許した試合以外は全部完封勝利と攻守において好調だ。
『此処も取ったー!ベルギー、中盤のダインとメラム2人で三津谷を囲み徹底的に封じる!』
「(くそぉ…!)」
光輝はダイン、メラムとベルギーの誇る屈強なダブルボランチによって思うようにプレーをさせてもらえず苦しめられていた。テクニックで抜こうにも2人は体が強いだけでなく技術も持ち合わせており簡単に抜ける相手ではない。
相手は優勝候補と言われた地元フランスを下したベルギー、その総合力は当然高い。
「アドルフもうちょっと左行け!トーラスは中央!」
ボールを持ちながらルイは前線のアドルフへと指示、更に周囲へのコーチングも欠かさず動かしていく。アドルフがチームのエースならルイはフィールドの監督だ。
中央に選手達が集まり日本の選手達の注目はそちらへと向いてきている、そこにルイは右手で行けとジェスチャーを送れば右サイドから新たな選手が駆け上がりルイがその選手の走るスピードに合わせて左足でスルーパス。
両足どちらでも精度の高いキックが蹴れるルイ、出されたパスに追いつくのはベルギーの右SDFケントだ。日本の注意はアドルフやトーラスが寄ってきた中央に向いてしまっているので右の注意は薄れていた。
「甘い甘いー!」
「うお!?」
しかしその引きつけを読んでいたのは心が読める弥一、ケントがこのスルーパスに追いつく前にインターセプトでボールをぶんどってしまう。
急に出て来た弥一の姿にケントはビックリの表情だ。
「駄目だルイ!ヤイチ相手に低めの長いスルーパスは通りづらい!」
「ち…!8番だけじゃなく2番も気をつけろ!縦への突破だけは絶対許すなよ!」
弥一はああいう長いパスをこれまで何度もカットしてきた、それはケントも知っている。そして今回ルイのパスをも止めておりアドルフはこれを見て低いロングパスは通る確率が低いと大声で伝えた。
ルイは弥一の姿を忌々しく見た後に守備へと戻りDF陣へのコーチングに専念、日本に一瞬の隙も与えない。
Aグループでアメリカやコートジボワール等の守備が固く体が大きく強いチームと渡り合って来たが、ベルギーはそれに加えて高い組織力を持ってサッカーをしている。
ベルギーの組織力によって日本の攻撃はシュートの撃てない状況が続きゲームを支配されかけていた。
だがそれでも日本の最終ライン、弥一、想真、佐助の3人に加えてその前に居る政宗と番が攻撃を食い止めてベルギーにシュートを許していない。
『中盤での空中戦、青山高い!ベルギーのアドンに競り勝った!』
『良いですよ、屈強なベルギーの選手に負けてませんね!』
番のより前での守備が効いており中盤の空中戦で高さを得た日本は放り込まれたロングボールを跳ね返していく。
「どうにかやれてはおるけど、不利やな。向こうの最終ラインの前で止められる事が多くなっとるし」
「かと言って中盤すっ飛ばしてロングボール放り込んだら跳ね返されるよね、ベルギーの5番に」
ボールがタッチラインを割ってプレーが途切れたタイミングで弥一と想真は素早く話し合い、不利なこの状況をどう打開しようか考えていた。
室という高さがあるので通りにくい今の中盤を一気にすっ飛ばして彼のポストプレーという選択もあったが、ベルギーの長身DFアキレスの存在がそれを許さない。
今の所アキレスの前に室は高さで競り負け、完璧に抑えられている。そして此処まで連続ゴール中の照皇にも当然厳しいマークが付いてフリーにはさせない。
「隙があるとするなら、右かな」
「せやな、相手さん月城のスピードを警戒しとる感じやし。その分白羽へのマークは薄いはずや」
短い話し合い、作戦会議を終えてプレーが始まる頃には弥一や想真はそれぞれポジションに戻っていた。
スローインでボールを持つのは番、するとフィールドの中央を走る人物が右手を上げてボールを要求。
それは弥一だ。
「うおおーーし!」
ロングスローを放り込む番、彼の豪腕によって投げられたボールはグングン伸びてフィールドの中央に居る弥一へと渡った。
そこに素早くルイが弥一へと詰め寄って行く。
「(のこのこと出て来たな忌々しいチビめ、お前からボールを取れば一気にカウンターのチャンスだ!)」
此処で弥一からボールを奪い取れれば守備の要である彼を突破したも同然、後はもう1人の厄介な想真に気をつければ得点は行ける。
弥一はキックフェイントで揺さぶりに行くと、これに釣られずルイは冷静にその動きを見て対応する。1度のフェイント程度には騙されない。
『日本とベルギーの若き天才同士の対決だ!』
『神明寺君ここボール取られたら不味いですよ!』
すると弥一の視線は前方に居る月城、同時にルイもこの視線に気づく。月城へのパスだと。そして弥一が右足でボールを蹴り出すと同時にルイはそのパスコースを読んで足を出して行った。
これでカット出来る、そう思われたがカットする為に出した右足に何時までもボールの感触が来ない。パスを出してないのかと思われたが弥一の足からボールは離れている、蹴った事は間違い無い。
次の瞬間スタジアムから歓声が上がる、阻止しに行ったルイの足を躱し弥一は右足で軽くボールを蹴り上げており相手の頭上を超えて自らも相手の右側を抜いて走る。
弥一の華麗な技でルイの頭上をボールが超えた、だがベルギーの動き出しは素早い。弥一がルイを抜いたかと思えばそこに迫るDMFダインの姿。
この辺りのフォローがベルギーは素早かった。そしてそれ以上に弥一のプレースピードは速い。
「!?」
ダインがこのボールを取ろうとしていた時、それよりも速く弥一は右足で右サイドの白羽へと送った。
「(全く、憎らしいぐらいにナイスパスだな!)」
送られたボールを白羽が巧みに右足でトラップすれば素早く前を向いて右サイドをぐんぐん突き進んで走る。
「上げさせてもいい!中にだけは入らせるな!」
ルイが白羽を止めに行くトールマンへと大声で指示、白羽にドリブルで侵入される最悪なパターンを避けられれば構わない。
「(俺のクロスは怖くないって?舐めんなよー!)」
海外生活の白羽からすればルイの言葉は理解出来る、自分にクロスを上げられてもそこまで痛手ではない。此処までクロスを弾き返せてる事からの自信か。
ドリブルを警戒する相手のトールマンに対して白羽は高く速いボールを右足で上げた。
そのボールに対して室が飛べばまたしてもアキレスが空中戦で競り合って来る。
「(悔しいけど今競り負けるのは仕方ない、でも!)」
筋肉の差でアキレスに今の室が競り勝つのは難しい、この空中戦も室がアキレスの強靭な肉体の前に吹っ飛ばされる。
だが飛ばされながらも室はボールにしっかりと頭へ当てれば下へと落とすポストプレーを見せる。
「っ!?」
これにはアキレスも想定外、吹き飛ばして終わりと思われたが結果的に室のポストを許す形となった。
そして下に落とした先には中央へと素早く切り込んでいる月城が左足でダイレクトミドルを放つ、ゴール右上へとボールは一直線に飛んで行き日本はこれがファーストシュートだ。
最初の1本でゴールかと思われたがゴール前の寡黙な守護神はこれを黙っていなかった。
右上へ勢い良くスピードが出ているシュートに対して勢い良くダイブすれば両腕でボールをしっかりと掴み取り、月城のシュートをこぼさず完璧なキャッチングで止めてみせたドンメル。
これにはフランスの観客も歓声が湧き上がる。
『日本初めて良い形でシュートに持って行けたが此処はベルギーの守護神ドンメルが立ち塞がる!月城得意の左を完璧に取りました!』
『今のを弾かず取りますか、これは厄介なGKがベルギーにはいますね』
「何してる!遠めでも簡単に撃たせるな!」
「お、おお!」
そして発せられたドンメルの声は誰よりも大きく響き渡る、普段は声をそこまで出さないが試合となれば違う。GKの指示や鼓舞による声は大事であり時に選手達を支える存在となる。
「気を引き締めて走れ走れー!」
前へ上がれとジェスチャーをボールを右手に持ちながら左手で送った後に右足のパントキックで一気に前線へと送る。
かなり特大のパントキックとなり非常に滞空時間の長いロングキックはフランスの風に乗ってぐんぐん伸びて行きゴール前付近まで行っていた。
これを番がヘディングで返すもセカンドボールを拾ったのはアドン、そしてヒールキックで後ろへ戻すとそこに居たのはルイだ。
「(こいつでどうだ!)」
右足でルイは高くボールを上げ、ターゲットは左からエリア内へと侵入していくアドルフの頭。マークするのは想真だ。
身長ではアドルフが180を超えており想真は170にも届いておらず差は歴然となっている。すると想真はアドルフの肩に乗ってジャンプしに行く、先にジャンプして推進力を利用するつもりだった。
「うぐ!?」
しかしアドルフは想真に勝る腕のリーチを活かし近づけさせず、アドルフはそのままジャンプ。頭でこれを合わせようとしていた。
「(させるかぁ!)」
そこにもう1人のDF佐助がアドルフと互角の高さで空中戦を挑み、体のぶつかり合いとなってボールを零させる。
外へと溢れたボール、それに素早く詰めていたのはルイ。
左足を振り抜けばボールはカーブがかかりゴール左隅ギリギリをつく絶妙なシュートだ。
これに反応したのは日本のゴールを守る藤堂、ルイのカーブシュートに対して冷静に弾道を見極めて飛ぶ。
そして先程のドンメルにも負けない見事なキャッチングでゴールを阻止、このプレーに再びスタンドから歓声が湧き上がった。
『止めたー!日本の藤堂も負けてはいない!難しいコースへ飛んだルイのシュートをなんと取りました!』
『良いキャッチングですよ!守備陣も粘ってアドルフに撃たせてません!』
「藤堂さんナイスー、ドンメルに全然負けてませんよ♪」
「当たり前だ、負けるつもりなんか微塵も無い」
何時の間にか戻っていた弥一が藤堂のセービングを称えれば力強く藤堂は答えた後に思いっきりパントキックで前線へと送る。
止められれば止め返す、日本とベルギーの両GKも良いセーブを見せており互いに譲らない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辰羅川「今回はベンチ組の俺達だが、とりあえず…日本やったな…!」
大門「ええ、全勝の無失点ですよ…!」
弥一「なになにー?僕らのやってる無失点サッカーに影響受けちゃったー?」
優也「おい、何やってる。お前は試合中だろ」
弥一「今プレー止まってるから大丈夫♪」
大門「控え組だけかと思えば、でもGKの活躍は嬉しいもんだね。忙しいという事はそれだけ追い詰められてるのを意味するからそこは複雑ではあるけど…」
辰羅川「だなぁ、無失点だけでなく危ないシュートを0に抑えられればDFとしては最高だ」
優也「ほら、始まるから弥一さっさと戻れ」
弥一「はーい」
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