第266話 手負いの獣
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「これ、守備カッチカチだなぁ」
辰羅川がパソコンのモニター前でそんな言葉が出て来たのは画面に映るサッカーの試合、映し出されてるのは日本と同じグループAでコスタリカVSスウェーデンの試合だ。
スウェーデンが試合の主導権を握り、攻め込むがコスタリカはほぼ全員が自軍の方へと引っ込んでしまい超守備的な陣形を取って相手の攻撃を防ぎ続けている。
南米の国から参戦しているコスタリカ、彼らのサッカーの特徴は強固な守備。初戦のコートジボワール相手には崩壊してしまったが次戦で修正してきてこの試合では得点を許していない。
「こいつらのこういうソリッドな守備、結構参考になるで。こんな守備を最神の方でもっとしたい所やなぁ」
想真の言うソリッド、守備の統率がとれていてスペースがなく、1人1人がしっかりマークされている。サッカー用語で言えば守備が硬い状態をそう表現する。
コスタリカはそういった守備を得意としており数多くの強豪をこのスタイルで倒してきた確かな実績があり、日本のA代表もかつてワールドカップでその守備を前に敗れている。
それをUー19の代表達は全員知っているのでコスタリカを破ったコートジボワールに勝利したからと言って彼ら相手に油断するつもりは無い。
「多分向こうは必死で来るだろうね、これ以上負けられないだろうし。言ってみれば今のコスタリカは手負いの獣状態だ」
マッサージチェアに座って気持ち良さそうに目を閉じつつも会話に参加する白羽、初戦でコートジボワールに負けた彼らは既に傷を負っている。その状態からスウェーデン戦は0-0でスコアレスドローと守備の修正に成功してチームの調子は上向き。
そして次の日本戦、既に1敗しているコスタリカは背水の陣で臨む事が予想される。
これ以上負けられないコスタリカ、手負いの獣となった彼らは日本の前に立ち塞がり勝利を強く欲するだろう。
グループAの3戦目、この日は夜の7時からキックオフとなりフランスの上空は暗闇に包まれスタジアムにはライトが照らされていた。
ナイターとなるゲームで屈強な大男達を相手に2連勝と波に乗る日本の試合を見たいと思ってか、この日もスタンドは満員の観客で埋まっている。
『Uー19フランス国際大会、グループAの3戦目となります日本。今回の相手は南米のコスタリカ、初戦のコートジボワール戦を落とし前回のスウェーデンとの試合で0-0の引き分けで勝ち点1を分け合っています』
『コスタリカとしてはこれ以上負けられないでしょうね、望みを繋げる為には是が非でも勝ち点3をもぎ取りに来る。守備で有名ですが一転して攻撃的に来る事も考えられますよ』
日本とコスタリカの両選手が先頭を歩く審判団と共に縦列に並んでフィールドへと姿を見せていく、スタジアムの大型ビジョンで両チームのスタメンとフォーメーションが発表。
ダークネイビーのユニフォームの日本、GKは黄色。
赤いユニフォームのコスタリカ、GKは黄緑。
Uー19日本代表 フォーメーション 3ー5ー2
照皇 室
10 9
月城 三津谷 白羽
2 8 7
仙道(政)八神
14 5
青山 神明寺 仙道(佐)
15 6 4
藤堂
1
Uー19コスタリカ代表 フォーメーション 5ー2ー3
テスタ アルバン ライエン
11 9 10
サリガン リュスト
8 7
ドーン シャリク カザト シンガード ナバール
5 4 6 3 2
ロッド
1
コスタリカも身長の高い選手は多いが全体的に見ればアメリカやコートジボワール程ではない、DF陣の身長を見れば室の高さが充分通じそうな相手だ。
「コスタリカの3トップ、特にエースのライエンには注意しとくぞ」
「うっス!」
「了解ー」
DF陣は互いのマークを確認する為に声をかけ、佐助はコスタリカの攻撃陣を引っ張るライエンを最も注意するべきと警戒していて番もこれに頷き賛成する。
そんな中で弥一は相変わらずのマイペースで返事を返していく。
藤堂とコスタリカのキャプテン、カザトのコイントスで先攻は日本が取った。よってセンターサークルに置かれたボールには照皇、室の2トップが並び立つ。
ピィーーー
『さあ第3戦、日本対コスタリカが今キックオフ!コスタリカの硬い守備を日本はこじ開けられるのか!?』
「(早速がっちり守っとるわぁ、スペースあらへん)」
ボールを持つ光輝は両サイドを走らせようかと考えたがコスタリカ自慢のソリッドな守備がそれを許さない、スペースが特に空いておらず俊足の月城を走らせてもこれでは大きな効果が得られない。
下手に仕掛ければ空いたサイドから鋭いカウンターを喰らいかねないだろう。
そんな考えをしてる間に光輝へと8番のサリガンが体を寄せて行くが光輝はその前に左へとアウトサイドでパス、受け取ったのは月城だ。
対してコスタリカの守備は素早い、左サイドにはナバールが月城の走るであろうコースに立ち塞がり照皇や室へのパスを封じようとパスコースを消しにカザトを中心としたDF陣が動いていく。
日本が速いグラウンダーのパスを得意としているのはコスタリカの方でもデータとして入っており、それを読んでの守備だ。
「(だったら上だろ!)」
今の日本には大きな武器がある、高さという武器。
月城がコスタリカのゴール前へと高いボールを得意の左足で正確に放り込めばそこに待ち構えるのは195cmを誇る室、Uー19日本の巨人がその高さを見せつけようと地を蹴ってフランスの夜空へと向かいジャンプ。
競り合うシャリク相手に空中戦で競り勝ち、室の額がボールを捉えた。
地面へと叩きつける強烈なヘディングシュート、日本の最初のシュートだがこれに対して素早く反応して動く影がある。
ヘディングのコースにカザトが入り込んでおり、彼の右肩口にボールを当てると敵味方で入り混じるコスタリカのエリア内にボールが転がっていく。
これをシンガードが素早いフォローを見せてボールを蹴り出してクリア、日本最初の攻撃を凌ぎ切る。
『日本早くもチャンスでしたが惜しい!コスタリカDFカザトが室のヘディングに対して体を張ってブロック!』
『セカンドボールへの反応も速いですね、良い連携を見せてくれますよ』
日本は続けてスローイン、すると此処で番が前に出て来ると自分がやると言い出して何やらスローインに自信がありそうな顔だ。
ボールを持った番は助走を取るとそこから走り出す。
「どぉりゃーーー!」
気合いの雄叫びと共にボールを放り込む番、それは弥一や大門に優也からすれば立見の人間発射台として馴染みある川田のロングスローを思わせるものだ。
ターゲットは再び室、再び巨人が空を飛びコスタリカDFも飛んで阻止に向かう。
すると室はヘディングに行くと見せかけてこれをスルー、その後にファーの方へと居た照皇が番のロングスローを頭で合わせに行く。ロングスローと室の高さを使った日本のトリックプレーだ。
室に続き照皇のヘディングがコスタリカゴールを襲うと、コスタリカGKロッドが両手でこのボールを弾き溢れた所をカザトがクリアしていく。
そしてこのクリアボールは上空の風に乗ってグングンと伸びていきセンターサークル付近まで行くと空中戦で政宗とアルバンが競り合い、セカンドボールをリュストに拾われる。
日本は番がスローインで上がったままCBが佐助と弥一だけだ、コスタリカのリュストはこれをチャンスと見てガラ空きの日本の真ん中スペースへとライエンを走らせるイメージでスルーパスを出して行く。
『コスタリカ守ってこれは、カウンターだ!日本危ない!』
ライエンは今誰のマークも無い、フリーだ。
DFのプレッシャーなくシュートが撃てるなら問題なくゴールを奪える、その自信があった。
そしてスルーパスに対して走り、素早くボールを受け取る。
事は無かった。
「さらっとカウンター狙って来て怖いよねー、手負いの獣さん♪」
弥一がリュストの考えを心で読んでスルーパスを見抜き、インターセプトに成功していたのだ。このパスを取られたライエンは一瞬何が起こったのか理解出来てなかったか奪われた直後に弥一へプレスをかける事も忘れてしまう。
「プレス行けライエン!」
これにベンチのコスタリカの監督は怒るように前へ出るとライエンに大声で伝える。
だが時既に遅し、弥一はフリーとなっている想真へと既にパスを出した後だ。
コスタリカのソリッドな守備、だが心を読める弥一の守備もそれには劣らない。
日本とコスタリカ、共に鉄壁の守りを誇るチーム同士の対決は互いの持ち味を見せての立ち上がりとなった。
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詩音「此処まで見ていただきましてー」
フォルナ「ほあ~」
玲音「ありがとうございますー、の間にフォルナバージョンな今回でーす♪」
半蔵「東京はフランスより7時間進んでいる…向こうのキックオフの時には深夜2時か」
詩音「その時だけ夜更しOKとかないー?」
玲音「生で見たいよー」
半蔵「朝練あるから普通に駄目だろ、それ以前に夜更しは成長の妨げになるぞ」
フォルナ「ほあ~」
詩音&玲音「フォルナも夜更ししていいよーって」
半蔵「絶対今の短い鳴き声でそれ言ってないよな!」
明「(今日もこっちは賑やかだ…)」
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