第265話 当時の最強を知る者達
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
パリ市内の中央でベルギー代表のエースと出会い、それが弥一の知り合いで元チームメイト。驚くなという方が無理だ。
「ヤイチはいないのか?」
「あいつは…」
アドルフから弥一が今何処に居るのか聞かれ、優也は先程弥一が入って行ったアクセサリーショップの方に目線を向ける。まだ出てこないのか、そう思っていると買い物を終えたらしくラッピングされた小さな箱を持つ人物が店から出て来た。
「お待たせ~、って…」
2人と合流する弥一、そこに先程までいなかった人物の存在にすぐ気づく。アドルフの方も弥一に気付いたようでじぃっと姿を見ている。
「数年経っても変わらず小さいな、ヤイチ」
「…」
元チームメイト同士の再開、此処から一体どうなるのか。大門は固唾を呑んで見守り、優也は黙って見ている。
弥一の方はアドルフの顔を見上げたままだ。
すると黙っていた弥一から言葉が飛び出す。
「これからご飯だから、アドルフも行かないー?話はそこでしようよ♪」
こういう時でも飯、久々に会ったチームメイトに対して弥一は久しぶりと話す前に自分のお腹に対して正直になっていた。
とりあえず弥一とアドルフが知り合いというのは間違い無いようで、優也は先頭を歩く弥一それに続くアドルフの2人を見ながら大門と共に彼らへ続く。
パリ市内にある鳥料理が美味しいと評判の店へ入る、高級店という訳でなく大衆向けの店であり値段も手頃だ。
店へと入り弥一やアドルフ達の前に大きな鳥の丸焼きがドンと乗った大皿が置かれた。フレンチのような繊細な料理をイメージしていたがこういう鳥の丸焼きがフランスで馴染みある定番メニューだ。
「まさか再会早々にこんなでっけぇ鳥を食う事になるとはな」
「いいでしょー、こっちはまだフランスの定番メニュー味わいきれてないんだから♪」
何か色々因縁ある言葉は会話等が飛び出すものかと思っていたが気づけば一緒にレストランで食事、どういう流れなんだと大門は席に座ってからも戸惑いを隠しきれない。
チキンを一口サイズにナイフで切り分けると弥一は店自慢のチキンを食べる、皮はパリパリで肉はジューシーでとろけておりパサつきがちな胸肉やささみまで変わらぬ美味さを誇っていた。
「フランスのチキン美味~♡」
「ん、いけるなこれ」
弥一と同じくアドルフも鳥の丸焼きを堪能し、優也と大門もそれぞれ肉をナイフで切り分けると2人も食べ始める。弥一が幸せそうに食べるのも納得出来る美味しさで丸焼きのどの部位も相当上手く焼いたのか不味い部分が一つも無い、一つ一つがもも肉と同じぐらいの柔らかさだ。
鶏肉の美味さもしっかり伝わり絶品である。
「えー、とりあえず2人仲良しって事でいいよなこれ?てっきり何か因縁ありそうな感じしたけど…」
「因縁ー?無いよねぇ?」
「あれか?俺はずっとお前が憎かった!いずれ思い知らせてやる!とかいう漫画の展開でも期待しちまった?」
「現実でそんなん無いってー♪漫画、ドラマ、小説の見すぎだよー」
前のチームで元チームメイトの弥一とアドルフ、その2人の間に何か因縁でもあるのではと大門は思っていたのだが見る限りそんな複雑な関係は無さそう。ただ仲良いチームメイトという感じだ。
男4人にかかれば大きなローストチキンが無くなるのはあっという間であり、それぞれ食後のフルーツジュースを注文。
弥一と大門にはリンゴ、アドルフにはグレープ、優也にはイチゴとそれぞれジュースの入ったグラスが届く。
「(甘っ…!?)」
イチゴのフルーツジュースが想定外に甘すぎて優也は驚いてしまうが顔には出さない。
「それで、元チームっていうのはやっぱりあのイタリアか?」
「そうそう、イタリアのミランのジョヴァニッシミねー」
弥一が立見以外で元々居たチーム、小学生時代に所属していた柳FCもあったがベルギーの次世代エースまで居るようなチームだ。此処はイタリアの超名門クラブの方が確率は高いだろうと優也はフルーツジュースの甘さを誤魔化すように訪ねれば、弥一は頷いて答えた。
やはりイタリアの方で間違い無いらしい。
「イタリア人だけじゃなく俺みたいな色んな奴いたけどヤイチは珍しかったな、こんな小さくてアジア人とか当時あのチームに誰もいなかったからさ」
「いなかったねー、いやー、皆凄いのばっかりだったからレギュラー取るの必死だったよねぇ」
「弥一でそんな必死だったんだ…」
「そりゃそうだよー、だって世界からエリートが集って来るし。簡単な訳ないでしょー」
イタリアのミランと来ればジョヴァニッシミのレギュラー争いも上の世代と変わらず過酷、弥一はその世界に小学校を卒業してすぐ留学でイタリアへと渡り飛び込んでいた。
「けどレギュラーなってんだろお前、異次元の魔術師ディーンと小さな狩人ヤイチの二枚看板が評判高かったの知らないのか?」
「あ、そうなの?ディーンはともかくとしてそこまで高いのは知らなかったー」
外の声について聞いていなかったのか構ってる暇が無かったか、アドルフの言う評判について弥一は知らなかった様子。各国のサッカーエリートが集う中で弥一はDFのレギュラーを勝ち取っており、その活躍で小さな狩人と異名が付く程までになっている。
「で、ディーン!?弥一、今ディーンって言ったか!?」
「おおっ?どうしたのさ大門?」
その時大門が弥一へと詰め寄って行き、何度も確認するようにその名を呼んでいた。そして静かながら優也もまたディーンの名に反応する。
「どうしたもこうしたも、お前はあのイタリアの天才…将来の世界最高プレーヤーと言われるサルバトーレ・ディーンとまで交流あるのか」
「ああ、うん。あるね、同じチームだったし」
「イタリア留学したってだけでそういう事全然聞いてなかったぞ!?」
大門と優也は共にサルバトーレ・ディーンという名を知っている、自分達と同じ高校の年代で既にミランのトップチームとプロ契約を交わしてセリエAデビューを果たせばレギュラーの座をあっという間に獲得してチームは連戦連勝、現在セリエA首位を走りスクデット(優勝)はほぼ間違い無いと言われる。
その原動力となっているのがイタリアの天才ことディーン。
「そりゃまあ言ってなかったからね♪」
ディーンと交流ある弥一は何時も通りのマイペースな笑みを見せつつ新鮮なフルーツジュースを一口飲んでいた。
「当時からあいつ凄かったけど、やっぱそこまで行っちまうか。まあ別に驚かないよな」
「ディーンならね、それだけの実力持ってたの知ってるからね僕達」
「テクニックとかずば抜けてる、天才的。それじゃ片付けられなかったな、あれは異次元だ」
弥一と同じくディーンの当時を知るアドルフ、今の彼の活躍については2人とも特に驚く事ではなく彼ならそこまでやるだろうなと思っていたようだ。
優也は改めて弥一の顔を見れば強い訳だと納得する、幼い頃から積み重ねてきただけでなく世界の天才達が集まる名門チームで日々競い合うハイレベルなサッカーをしてきた。
そこでアドルフやディーンといった天才達との出会いと交流、その経験をして弥一は更なる領域へと踏み込めたのだろうと。
「って、この大会に参加してない奴の話は置いといてだ。ヤイチ、日本良い調子じゃないか。でっかいアメリカやアフリカ勢に連勝とはな」
「ベルギーも人の事言えないじゃんー?2戦目で地元フランスに勝ってるし」
日本とは違うグループBの戦い、それを弥一は密かにチェックしていた。今のグループBの首位はベルギー、同じグループには開催国のフランス、ウルグアイ、ナイジェリア、メキシコと激戦グループの中でベルギーは初戦でウルグアイに2ー0で勝利、2戦目のフランスに対しては3ー2で競り勝っている。
このまま互いに勝ち続ければ決勝は日本VSベルギーとなるだろう。
「来年のUー20ワールドカップに弾みを付ける為だ、そりゃ負けられないさ」
「だよね、そこは日本も同じだよ」
弥一とアドルフが互いに笑い合うとアドルフが先に席を立つ。
「此処の会計は俺がしとく、次は決勝戦で会おうな日本」
此処での会計を纏めて支払うとアドルフは店を後にして行った、次は決勝で会おうという言葉を残して。
「まだコスタリカとスウェーデンの試合があるけど、強そうだなぁベルギー」
アドルフが弥一の元チームメイト、それもイタリアの超名門で競い合ったストライカー。間違いなく手強い事確実だろうとアドルフが去ってからも出口の方を見ていた大門はそう言いつつ、リンゴジュースを飲み干しグラスの中を空にする。
弥一はディーンの話題が出てこの前選手権の最中に彼と車の中で話していた事を思い出していた。
「お前はいずれ俺の前に立ち塞がる敵になる。イタリアと日本の代表戦で」
あの時はそんな未来はもう少し先の事と思っていたが、もしかしたらそう遠くない未来なのかもしれない。
だがその前にまずは目の前のコスタリカ、スウェーデン。それらとの試合が待っている。
そして勝ち上がったその先、アドルフのベルギーと戦う事になるかもしれない。
弥一はリンゴジュースを飲み終えると2人と共に店を出て真っ直ぐ合宿所へと戻って行った。
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優也「アドルフといいディーンといい、お前のコネクションどうなってるんだ」
弥一「どうなってるも何もそこまで超有名人になっちゃったんだなぁ、2人とも出世したよねー」
大門「この調子でまた実はこの大物と交流ありました、みたいなのまだあったりするんじゃあ…?弥一の事だ、知らない人と仲良くご飯食べてたらそれが実は凄い人だったとか!」
弥一「ご飯ご飯って僕、そこまで言ってるかなぁ?」
優也「確実に言ってるな」
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